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建築士が考える間取り診断

浅井知彦

浅井知彦

テーマ:家を建てるときの新常識

住宅を設計する建築事務所をやっていると、他社が描いた着工前の図面を持って来て「間取り診断」について相談を受けることもあります。

しかし、私はこの着工前の「間取り診断」については、いつも歯切れの悪い回答しか出来ません。


今回はインターネット上で目にすることが増えてきた「間取り診断」について書いていきます。

しかし、私は正直なところ、この「間取り診断」は、あまり前向きに思っていないことを最初に述べておきます。


私が、この着工前の「間取り診断」にあまり前向きでない理由は、主に以下の2つの点にあります。

◇間取り図だけをみて語れることは少ないこと

◇施主の問題は「間取り診断」では解決しないのではないかと思っていること

それぞれについて、以下に説明します。


間取り図だけをみて語れることは少ないこと


住宅の設計は、施主との間で何度も打ち合わせを重ね、詳細を詰めていき、完成するものです。

最低でも、以下のような点が判っていないと、判断のしようがありません。


◇どんな敷地に建てられるのか

土地の平面形、高低差、方位と陽当たり、更にその場所の季節風など地域特性、騒音や人通り、周囲の家の状況など、その家の建つ敷地の状況が判らないと間取りの判断が出来ません。

たとえば、敷地の形状が変形している場合、基本的な家の形が変わってくるかもしれません。
平面図案
この敷地の場合、「隣地境界から1mの外壁後退」という条件があるため、敷地形状に合わせて家の形が斜めになっています。

このように、壁が鉛直に交わらない家を建てる可能性もあるのです。

「間取り」という部屋割りをパズル的に変えることだけで、最適解が得られるのかどうかは簡単には判りません。


◇どんな生活をするのか

住みやすい家について、誰にでも当て嵌まるような普遍的な最適解はありません。

家の住みやすさは、住む人の生活によって決まってきます。

何度もヒアリングをして、どんな生活をするのかイメージ出来ないと、良い部屋の配置は出来ません。

たとえば洗濯だけをとってみても、外干しの人、部屋干しの人、乾燥機の人、毎朝洗濯する人、深夜に洗濯機を使いたい人、纏めて一気に処理したい人・・・いろいろです。

洗濯~物干しだけでも、日当たりの良い場所をどこに当てるのか、水回りをどこに配置するのかに影響してしまいます。
サンルーム
室内物干し
ガス乾燥機
※写真は[LIXILのサンルーム][panasonicの室内物干し][リンナイのガス乾燥機]です

どういう生活を営むのか、住む人に充分なヒアリングもせず間取りだけをみて簡単に口を出すというのは、無理があると思います。


◇その他

家を建てるときは、建築基準法、建築基準法施行令、消防法、自治体の定める各種条例など、様々な規制があります。

上下水道の引き込み状況も気になります。

また、施工予算による制約もあると思います。

これらを考えると、間取り図面だけをみて、簡単にあれこれ言える訳ではありません。



そもそもの話ですが、平面図の間取りだけをみて、その家の「善し悪し」が判断出来るのでしょうか?

もし、そんな普遍的な「良い間取り」があるのでしたら、建売住宅か、ハウスメーカーの「基本プラン」だけで充分。自由設計の注文住宅を建てる意味は殆ど無いということになるのではないでしょうか。

実際、分譲マンションの場合、「ほぼ決まった間取り」から家を選び、細かい要望は内装などの仕様変更だけで対応しています。

そのようなプランで満足出来ない、「自分の家」を建てたいからこそ注文住宅を選ぶのではないでしょうか。
スキップフロア断面図
ちょっと分かり難いのですが、スキップフロア3階建ての断面図です。
家は平面だけで設計するものではありません。

重量鉄骨
たとえば、このような重量鉄骨構造の建物であれば、内部はすべて間仕切り壁、柱や構造壁はありませんので、間取りは「すべて自由」になります。

この場合、メーターモジュールや尺モジュールのように、サイズに制約のある、パズル的な間取り計画を行う必要はありません。


家は平面的な間取りだけをみて、パッと判断出来るほど、単純なものではありません。

「明らかにおかしい」間取りを指摘することはあるかもしれませんが、平面図だけをみて最適解を提案できるほど、簡単なものではないと思います。

玄関

施主の問題は「間取り診断」では解決しないのではないか


もうひとつの理由の方がより深刻です。
私は、間取り診断を申し込む人には、もっと他の問題があるのではないかと感じています。

「着工前だけど、この間取りで住み辛くないか、最終確認したい」

この心配の原因は、

「ハウスメーカーや工務店との話で大体、間取りが決まったんだけど、これで良いのか確信が持てない、不安がある」

「担当者主導で話が進んできたけど、今ひとつ信用しきれない」

「設計に今ひとつ納得しきれていないけど、営業に押し切られた感じがする」

このような思いが、どこかにあるのではないでしょうか。


このような場合、間取りのチェックだけを行って、それですべての不安が解消され、納得がいけばいいのですが、必ずしもそうはならないでしょう。

間取り設計の段階で浮かんだ不安は、とことんまで解決しておかないと、着工しても、竣工しても、もやもやが残る可能性があります。


このような「不安」については、過去にもコラムで書いています。

建築士が考える、失敗する家作りのパターン

また、この不安の原因が「建築条件付」物件の場合だと、更にまずいことになると思います。

建築条件付宅地でのトラブル

リフォーム条件付マンションのトラブル


着工前に「第三者に間取り診断して欲しい」という心境の中に、

・担当者が信用しきれない

・施工会社の進め方に違和感がある

などの思いがある場合、話を「間取りの修正」だけに矮小化して良いのかと考えてしまいます。

ニッチ

多くの人が気付いていないのかもしれませんが、注文住宅を建てようとするとき、ある工務店、ハウスメーカーを選んだ時点で、すでにその家の構造、工法など、基本的な骨格は決まってしまっています。

担当者と間取りプランを描いて貰っているときには、基本的なモジュール、階高などについても、その選択肢の大部分は決まっているのです。

着工前の心配事が間取りチェックだけで解決すれば良いのですが、必ずしもそうでないかもしれません。

かといって、もう基本的な平面形や高さ方向の寸法、構造についての検討は終わっており、変更出来ないのでしょう。


着工前の「間取り診断」で解決出来る問題は、本当に小さなものだけです。

もし間取りに不安を覚え、それをきちんと解決したいのなら、家作りについての様々な事柄を、いちから考え直す覚悟が必要だと思います。


  ◇ ◇ ◇


家を作るときに考えて欲しいことについて、こちらのページに纏めてみました。

テーマ別コラムのまとめ【ペット/寒さ対策/子育て/地震に強い鉄筋コンクリート住宅など】

興味のある分野があれば、是非、目を通して下さい。


 ◇ ◇ ◇


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浅井知彦
専門家

浅井知彦(一級建築士)

レヴォントリ株式会社 一級建築士事務所

素材メーカーで研究してきた技術者としての経験を生かし、鉄筋コンクリート造の住宅を提案。快適な住空間に仕上げるため、デザインありきではなく機能性重視の家づくりを行っています。

浅井知彦プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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