弁護士は診療録を読むことができると思いますか?
以前、典型的なわかりやすい医療ミスの例として、手術中に使用したガーゼを体内に置き忘れてしまったというケースを紹介しました。
このケースでは、病院側の過失(ミス)はほぼ争いがないことが多いと思います。
ですが、だからといって損害賠償が約束されたとは限りません。
それは、「因果関係」が問題となる可能性があるからです。
法的な「因果関係」
医療事件で病院側を追及するときの法的根拠は、「診療契約の債務不履行に基づく損害賠償」か「不法行為による損害賠償」であることがほとんどです。
どちらの場合でもほとんど大きな違いはなく、病院側の過失(ミス)を債務不履行又は不法行為と評価して、これによって生じた損害の賠償を求めるということになります。
しかし、過失(ミス)があれば、それだけで損害賠償が認められるとは限りません。
その過失(ミス)と損害の間に因果関係が認められなければならないのです。
言いかえれば「その結果(損害)がその過失(ミス)によって生じた」ということがいえなければならないということです。
冒頭で紹介したガーゼの置き忘れは、それだけで過失(ミス)はほぼ争いがないと思います。
ですが、そのガーゼの置き忘れによって、その人に具体的にどんな損害が生じたのか、実はこれには個人差があることが多いのです。
最も重大な結果と思われるのは、ガーゼを異物と判断したり、ガーゼに細菌等が感染したりして体の免疫機能が強く反応し炎症を起こしてしまうような場合です。
この場合、炎症部分が膿んでしまい(膿瘍といいます)、治るまでに相当な期間を要する場合もあるのです。
そこまででなくとも、炎症等を起こしてしまうと体調不良の原因となり、一定の治療が必要となるケースもあります。
この場合も、金額は多少低額となると思いますが、一定の賠償は認められるでしょう。
ところが、中には「何の症状もあらわれない」という方もいるのです。
こういう方の場合は、別の理由でレントゲン撮影をした際にたまたま発見されるというケースが多いようです。
もちろん、体内に異物があると感染症などの危険性が増えるので、取り除くための手術をした方がよいと思われます。
しかし、こうした無症状で特に体に実害が発生していない方の場合には、こうした予防的な手術に要する費用程度しか賠償が認められない、ということもあるのです。
このように、医療事故というのは、過失(ミス)があればそれだけで損害賠償が認められるというものではなく、その過失(ミス)と悪い結果(損害)の間に因果関係があることまでが必要なのです。