医療事故調査制度の利用
医療事件では、治療や手技のミスではなく、医師の説明不足による損害賠償が認められることもあります。
一般的には説明義務違反と呼ばれる類型です。
説明義務違反となる場合
典型的なのは、手術や検査などの場合に、リスクの説明をきちんとせずに実施して重大な結果が生じてしまったケースです。
本来、きちんとリスクを説明して、患者さんの同意を得てから手術などをするのが原則です。
ですから、きちんとした説明がされていなければ、患者の自己決定権を侵害したということになります。
常に説明義務違反となるわけではない
もっとも、緊急の場合など、医師の判断でその治療方法を選択することがやむをえないと考えられる場合には、説明義務違反にはならないことがあります。
また、たとえリスクがある治療方法だとしても、他の選択肢を選択させることが相当ではないと考えられる場合にも、説明義務違反が認められないこともあります。
さらに、そもそも医師には、患者さんが病気や治療方法の全てを理解するほどまでに説明を尽くす義務はないとされています。
ですから、患者さんが「自分はわからなかった」というだけでは、必ずしも説明義務違反となるとは限りません。
このように、「知らなかった」「説明されていない」というだけで必ず説明義務違反になるというわけではないので、注意が必要です。
説明義務違反の場合の賠償額
ところで、仮に説明義務違反が認められたとしても、損害賠償が認められる金額には非常に幅があります。
一番高くなる可能性があるのは、きちんとした説明を受けていれば他の治療方法を選択することも十分ありえた場合で、かつ、その別の治療方法が、一般の医療水準の中で今回行われた治療と同じくらい選択されている治療である場合です。
これは、患者さんの自己決定権を侵害した上で悪い結果を生じさせているので、悪い結果に対してまで損害賠償が認められる可能性があります。
リスク説明を全くしなかったけれども、他の治療方法では効果が確実に落ちるため、おそらく今回行われた治療を行うことが一般の医療水準であったという場合は、悪い結果に対してまでの賠償は認められません。
あくまでも治療方法の選択という自己決定権を侵害しただけにとどまるので、自己決定権侵害に対する慰謝料が認められる程度となってしまうでしょう。
この自己決定権侵害に対する慰謝料は、治療内容や元々の疾患の程度に応じて相当金額に幅があるといわれていますので、一概に金額を指摘するのは難しいところです。
あえていうなら、高くても数百万円、低い場合は十数万円程度ということもあり得る、というところでしょうか。