「合併症」はやむをえないもの、諦めなければならないもの?
以前のコラムで、患者の側にも、お医者さんに対する誤解があると書きました。
似たような話で、一般のみなさんは、薬に対する誤解もあるのではないかと思います。
薬は病気を治すもの?
実は、薬も「病気を治すもの」とは限りません。
もちろん、極めて広い意味でいえば、「薬は病気を治すもの」という表現は間違いではありません。
しかし、この表現は「医師は病気を治すことが仕事である」という言葉と同じく、極めて誤解を招きかねない表現なのです。
病気の原因を直接攻撃する薬は多くない
「病気を治すもの」と言ってしまうと、薬が病気を直接治してしまう、あるいは薬が病気の原因をやっつけてくれると思いがちです。
ですが、薬の多くは、病気自体を直接治すわけではありません。
また、病気の原因をやっつけるという薬は、抗菌薬(抗生物質)など薬の中のごく一部しかありません。
風邪のときに飲む薬の効果
例として、風邪の場合を考えてみましょう。
風邪のときに処方される薬には、風邪の原因のほとんどを占める「ウイルス」をやっつける薬はありません。
ウイルスに直接作用する「抗ウイルス薬」と呼ばれる薬は、ごく一部のウイルスに対してしか作られていないからです。
また、風邪のときに「抗生物質」が処方されることがあります。
ですが、これは「細菌をやっつける薬」なので、風邪の場合には効果のない場合がほとんどです。
風邪のときによく処方されるのは、鼻水の出を抑える、炎症を抑えるなど、風邪で生じる様々な症状を抑えるための薬です。
つまり、風邪のときに薬が処方されるのは「苦しい症状を和らげるため」なのです。
では風邪はどうやって治すのか?
それは「自然治癒力」以外の何物でもありません。
本来の体の働きによるものなのです。
薬の本来の目的
薬は、ある特定の作用をするものです。
その作用があるために、その作用を利用した特定の目的のために使用されるのです。
これを知らないままでいると、きちんとした目的があって処方されている薬についてまで「効かない薬を出されて治療が長引いた」などと考えてしまう可能性があります。
これもまた、誤解から生じる不幸なコミュニケーションの問題です。
症状を和らげる目的ではなく別の作用を狙って処方されていた必要な薬を、「効かない」といってしまってお医者さんを批判するようなことは、とても不幸なことです。
抽象的に「薬は病気を治すもの」とは考えず、その薬ごとにどんな作用があるものなのか、それが何の目的で使用されているのかということを、患者の立場にある我々がきちんと理解しておくことが大事だと思います。
こういう意識でいれば、処方された薬の意味も本当の意味でよく理解でき、病気やけがになったとき、より前向きな気持ちを持つことができるようになると思います。
このことも、ぜひ覚えておいていただければと思います。