カスハラについて、北海道建設新聞に掲載されました
先日、某市役所で「カスタマーハラスメント対策研修」に登壇させていただく機会がありました。その際にいただいた質問で、考えさせられたものがあったので、その話をしたいと思います。
質問された方は税務課の職員の方(女性)。市民の方から、「(俺たちの)税金で飯食ってるくせに!」と言われたとのこと。「どう返せば良かったでしょうか」との質問です。皆さんはどう思われますか?
はて、どのように返すのが適切な対応か。私は返答に詰まりました。市民の方の言葉は、攻撃的で、失礼で、適切さを欠いています。ただ、自治体職員の給与は地方自治体の予算から支出され、その主要な財源が税金であり、これが給与の原資となっていることは事実として間違っているわけではありません。虚偽の指摘をしているとまでは言えないでしょう。とはいえ、発言に対して事の正誤を明らかにすることが、市民の方の納得につながるとも思えません。
さて、どのように対応すれば良いのか。
質問者が知りたいことは何か
返答に悩んでいると、質問者の隣りに座っていた席が助け船を出してくれました。この話には、そこに至る前の経緯があり、市民の方は電話で税金の問い合わせをしてきたとのこと。問い合わせの中で、この方は税制に対する不満、税額に対する不満を口にし、こちらが説明しても納得してくれない。そのようなやり取りが延々続いた後、最後に捨てゼリフ的に上記の言葉を口にしたらしい。実は「税金ドロボウ」のような表現までされたらしく、対応された職員の方は、電話を切った後も怒りが収まらなかったとのこと。なぜこんなことを言われなきゃならないのか、と。それが今回の質問につながったとのことでした。
この話を聞きながら、私は「税金で飯食ってる」にどう(言い)返すかばかり考えていたこと自体が、課題設定の誤りだったと気づきました。ご質問者の方は、「どう返せば良かったでしょうか?」と質問されましたが、実はまず知りたかったのは、「自分の怒りをどう解消すれば良いのか?」だったということ。市民への対応の最適解も知りたいが、それは二の次だということ。
つまり、問題を切り分けて考えるべきだったのです。
問題を分けて考える
まず、質問者が自分の怒りをどう解消すべきかについて考えます。これについては、この質疑応答の直前にリフレーミングの説明をしていましたので、それを振り返り、「受け止め方を変えることにより、感情を変えられる可能性がある」という話をしました。
(リフレーミングについては、「過去コラム折れない心を育てるレジリエンス② ABCモデルとリフレーミング」をご参照ください)
そもそも市民の方の不満は、税制に対する不満です。職員の方個人に対する不満ではありません。職員の方は、本来組織に向けられるべき不満を、橋渡し役として聞いているにすぎません。市民の強い怒りに直面すると、あたかも個人攻撃をされているような気持ちになるかもしれませんが、「市民の方の不満は、私に向けられているのではない」と受け流しましょう。
税務課の皆さんのお仕事は、多くの市民の生活を支えている意義あるものです。一部の否定的な声に感情を振り回される必要はありません。「自分は税金ドロボウなどではない」と、胸を張ってください。(もちろん、それを言葉にするかどうかは別問題です)
そして、目の前の出来事に感情的にふりまわされず、「この方には、税金に対して強い不満や怒りを感じざるを得ない、何か背景があるのかもしれないな」と、少し距離をおいて客観的に観察するように意識すれば、ご自身の怒りを鎮められるかもしれません。
では、対お客様として考えるべきことは何でしょうか。「税金ドロボウ」が、感情的な捨てゼリフであるならば、反論することに意味はないでしょう。何かを言い返すことによって、市民の方の納得を得られることはなさそうです。
市民の方の言葉を否定するのではなく、「はい、私たちの仕事は皆さまの税金を財源として成り立っています」といったようにいったん受け止め、「だからこそ、丁寧に対応させていただきたいと思っています。具体的にどのような点でご不満でしょうか?」等のように、「税金ドロボウ」は軽く流し、話を本筋に戻して対応を続けるのがいいでしょう。
そして、今後のためにできることは、そのセリフに至るまでのプロセスを振り返り、改善点があれば謙虚に取り組むことです。
・お客様から感情的な言葉は、こちらの対応によって引き出されたものではないでしょうか?
・お客様の不満や、怒りの背景に目を向けて、真摯にお客様の言葉を受け止める会話はできていたでしょうか?
・杓子定規に、正論ばかりを振りかざす対応になっていませんでしたか?
・突き放すような態度や、無関心と思われるような態度はとりませんでしたか?
誠実さを欠いた対応が、トラブルを大きくしてしまうのはよく聞くケースです。もし、自身の対応に改善すべき余地があるのであれば、謙虚に取り組みましょう。今後、同じようなケースが発生しないとも限りません。その際に、より適切な対応をとることで、市民から感情的な言葉が出てくる可能性を下げることはできそうです。
研修の場で質問をいただくと、講師の立場として「正解(に近いもの)をお答えしたい」という心理から、つい直接的な答えを求める方向に思考が向いてしまいます。いったん立ち止まって、「質問者は何に困ってこの質問をしたのか」「真の問いは何か(質問者も気づいていない場合が多い)」という視点で、問いを整理してから回答することが大事だなぁ、と考えさせられたやりとりでした。



