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人生の節目と遺言 ~家族への未来のメッセージ~ 11 遺言を書くと縁起が悪い?

笹和也

笹和也

テーマ:遺言は身近なもの

 今の時代だからこそ、遺言の意味は大きくなっている
 「遺言なんて書いたら縁起が悪いよ」
 ご相談の場で、この言葉を耳にすることがあります。
 確かに、遺言という言葉には独特の重みがあります。
 人生の終わりを連想する。
 まだ早い気がする。
 できれば考えたくない。
 そう感じるのも自然なことだと思います。
 しかし私は、遺言を書くことは決して縁起の悪いことではないと思っています。
 むしろ、時代の変化を考えると、昔よりも遺言の必要性は高まっているのではないかと感じています。
 今回は少し歴史を振り返りながら、その理由について考えてみたいと思います。

「まだ元気だから」は、実は良いタイミング

 遺言の話になると、「まだ元気だから」という言葉をよく聞きます。
 けれども私は、遺言を書くのに最も適した時期は、「まだ元気だから」と思える今ではないかと思っています。
 元気だから考えられる。
 元気だから判断できる。
 元気だから内容を見直すこともできる。
 判断能力が十分でなくなってからでは、自分の意思どおりに遺言を作ることが難しくなる場合があります。
 だからこそ、「まだ早いかな」と思っている今こそ、遺言を考える価値があるのです。

保険には入るのに、遺言は避ける不思議

 少し不思議に思うことがあります。
 多くの方は生命保険や火災保険、自動車保険に加入しています。
 しかし、事故に遭いたいから保険に入る人はいません。
 病気になりたいから保険に入る人もいません。
 大切な人が困らないように。将来に備えるために。そう考えて準備をしています。
 遺言も同じではないでしょうか。
 遺言を書いたから亡くなるわけではありません。
 遺言を書いたから不幸になるわけでもありません。
 将来への備えと、縁起の良し悪しは別の話なのです。

昔は「家」が家族をまとめていた

 少し歴史の話をしてみたいと思います。
 戦前の日本には、「家(いえ)」という考え方がありました。
 ここでいう家とは、建物のことではありません。
 家族が代々受け継いできた家名や家業、先祖とのつながりを含めた、一つの共同体としての「家」です。
 当時は戸主を中心とした家制度があり、相続も現在とは大きく異なっていました。
 誰が家を継ぐのか。
 誰が家業を引き継ぐのか。
 先祖から受け継いだ財産を誰が守るのか。
 そうしたことが、今よりもずっと明確だった時代です。
 ところが戦後、日本国憲法の理念に基づく民法改正によって、家制度や家督相続は廃止されました。 
 相続は「家」のためではなく、「個人」の権利を尊重する制度へと大きく変わったのです。
 これは大きな社会の変化でした。
 長男だから優先される。
 女性だから不利になる。
 そうした考え方が見直され、一人ひとりの人格や権利が尊重される時代になったのです。

個人が尊重される時代になったからこそ

 私は、遺言の必要性が高まった理由もここにあると思っています。
 昔は「家」という仕組みが家族をまとめる役割を果たしていました。
 しかし今は違います。
 一人ひとりが自分の考えを持ち、自分らしい人生を歩む時代です。
 それはとても素晴らしいことです。
 一方で、相続が始まると、それぞれの相続人がそれぞれの立場から物事を考えることになります。
 誰かが間違っているわけではありません。
 それぞれに事情があり、それぞれに考えがあります。
 だからこそ、ときには方向性がまとまらなくなることがあります。
 私は、これが現代の相続の特徴ではないかと思っています。
 昔は共同体としての「家」が家族をまとめていました。
 しかし今は、その役割を果たすものが少なくなりました。
 だからこそ、親自身の考えを示しておくことが以前にも増して大切になっているのではないでしょうか。

遺言は家族の方向性を示すためのもの

 遺言というと、「誰に何を相続させるか」を書くものだと思われがちです。
 もちろん、それも重要な役割です。
 しかし私は、それだけではないと思っています。
 「私はこう考えている」
 「こう引き継いでほしい」
 「家族にはこうあってほしい」
 そんな想いを伝えることにも大きな意味があります。
 相続人全員が最初から同じ考えを持っていることは少ないのではないでしょうか。
 けれども、親の考えが残されていれば、それは家族が話し合う際の大切な出発点になります。
 遺言は財産を分けるためだけの文書ではありません。
 家族が同じ方向を向いて考えるための道しるべでもあるのです。

縁起が悪いのではなく、時代に合った備え

 私は、遺言を書くことは縁起が悪いことではないと思っています。
 むしろ、自分の考えを整理し、家族への想いを言葉にし、未来への指針を残す前向きな行動ではないでしょうか。
 昔は共同体としての「家」が家族をまとめていました。
 今は、一人ひとりが自分の価値観を持ちながら生きる時代です。
 だからこそ、親の言葉や考えを残すことの意味は、昔よりも大きくなっているように感じます。
 遺言とは財産を残すためだけのものではありません。
私は、
 家族が迷ったときに立ち返ることのできる「未来への手紙」だと思っています。
________________________________________
次回予告
「財産が少ないから遺言はいらない?」についてお話しします。
相続は、お金持ちだけの問題ではありません。
むしろ、財産の多少とは別のところに悩みや課題があることも少なくありません。
次回は、資産家ではない方にこそ知ってほしい遺言の役割について考えてみたいと思います。

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笹和也
専門家

笹和也(行政書士)

あん行政書士事務所

「前向きに生きるためのツール」として遺言書を捉え直し、作成・見直しまで伴走。少人数制の遺言作成講座も実施。40年の行政実務と補助金担当の経験を生かして、補助金申請、許認可申請もサポートします。

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