「まだ大丈夫」は、私も言っている!?
94歳になる母は、ここ1〜2年で急激に耳が遠くなりました。
普通の声ではほとんど聞こえず、大きな声で何度も話しかけても、なかなか伝わりません。
大切なことは紙に書いて伝えるほど、会話が難しくなっていました。
聞こえない本人が不自由なのはもちろんですが、毎日一緒に暮らす家族にとっても、これは大きな負担です。
伝えたいことがなかなか伝わらない。何度も同じことを説明する。つい声が大きくなってしまう。
そんな日々の積み重ねは、想像以上のストレスになると思います。
以前は使えなかった補聴器
母は以前、補聴器を作ったことがあります。
ところが、雑音が気になり、結局使わなくなってしまいました。
その経験があるので、もう一度補聴器を作ったところで、また同じことになるかもしれません。
決して安い買い物でもありません。
それでも、以前と今では補聴器の性能も違うかもしれない。
試してみないことには、私自身が納得できませんでした。
何より、母の聞こえ方が少しでも改善すれば、毎日接している家族の負担も軽くなるのではないか。
そんな思いから、母を補聴器の相談に連れて行くことにしました。
普通の声で会話ができた!
お店では、以前補聴器を使わなくなった経緯や母の耳の状態、聞こえないことで生じる家族への負担についてお話ししました。
そして、両耳に補聴器をつけて試してみることに。
スタッフの方が、テーブルを挟んだ距離から、ごく普通の声で話しかけました。
「聞こえますか?」
「聞こえます」
続いて、名前や生年月日を尋ねられると、母は迷うことなく答えました。
えっ、普通に会話している!
母よりも、私の方が驚いてしまいました。
あれほど大きな声で話しかけても、なかなか伝わらなかったのに。
この距離で、この声の大きさで会話ができるなんて。
最初は両耳に補聴器をつけて試しましたが、比較的聞こえの良い左耳だけにしても、会話はほとんど変わらず成立しました。
そこで、今回は左耳だけに補聴器をつけて試すことになりました。
「みんなと食べる」
補聴器をつけて帰宅した翌朝のことです。
朝食後、コーヒーを入れると、母は自分の部屋に戻らず、ダイニングで一緒に飲んでいました。
いつもなら朝食だけでお腹いっぱいなのに、この日は、
「今日は食べられる」
と言って、どら焼きを一つ、美味しそうにたいらげました。
そして、その日の午後3時。
「コーヒー入ったよ。カステラもあるけど、どうする? 部屋に持って行こうか?」
と聞くと、
「みんなと食べる」
と母。
いつもならコーヒーを持って自分の部屋に戻ってしまうのに、この日はダイニングで一緒にカステラを食べながら、おしゃべりを楽しんでいました。
「美味しいね」
そんな感想も自然に口にしていました。
聞き取りにくいときには、お店で教わった通り、聞こえやすい左耳を相手に向けようとする姿も見られました。
補聴器をつけたことで、母自身も会話に参加しやすくなったのでしょうか。
もちろん、まだわかりません。
でも、いつもより口数が多く、みんなと一緒に過ごす時間が増えたように感じました。
半分以上聞こえる。それだけでも嬉しい
もちろん、補聴器をつけたからといって、以前と同じように聞こえるわけではありません。
母は、自分の声が大きく聞こえることを、何度も気にしていました。
そこで、
「大きく聞こえるのが嫌で、補聴器をしたくない?」
と聞いてみました。
すると母は、
「今までは話が全然わからなかったけど、半分以上は聞き取れる。それだけでも十分嬉しいから、使いたい」
と答えました。
すべて聞こえなくてもいい。
今までより会話が理解できる。
それだけでも、母にとっては嬉しいことだったようです。
家族の暮らしも変わるかもしれない
今回、補聴器は1か月間お借りして、実際の生活の中で試すことになりました。
使い続けられるのか、母に合うのか、まだわかりません。
でも、今回試してみたことで、少なくとも一つの可能性が見えました。
聞こえないことで生じる不自由さは、本人だけの問題ではありません。
一緒に暮らす家族にも、日々の負担があります。
聞こえることは、本人の世界を広げるだけでなく、家族の暮らしを少し楽にすることにもつながるかもしれません。
94歳だから、今さら。
以前使えなかったから、今回も難しい。
そう決めつける前に、まず試してみる。
もちろん、誰にでも同じ結果が得られるわけではありません。
それでも、試してみなければわからないことがあります。
今回、母を補聴器の相談に連れて行って、本当に良かったと思っています。
ただ、まだ1か月のお試しが始まったばかりです。
このまま使い続けられるのか。それとも、以前のように使わなくなってしまうのか。
今はまだわかりません。
1か月後、どんな答えが出るのでしょうか。
それも含めて、今回の経験を見守っていきたいと思います。


