虐待報道に思うこと

高澤信也

高澤信也

テーマ:ひとりごと


こんにちは。公認心理師の高澤信也です。

画像は内閣府のDV・虐待防止の啓発ポスターです。
今回はコラムではなく、虐待にまつわるひとりごとを書いてみました。


虐待は「行為」の問題

ここ最近は母親に数日間放置されて命を落としてしまった3歳の女の子の虐待報道がなされていますね。

こういった話を見聞きするたびに胸が引き裂かれる感じに襲われます。幼い命がなんとか助からなかったのかと本当に無念です。写真に写っていたその子の笑顔はもう戻らないと思うと、言葉にできない悲しみを覚えます。

今回の母親に限らず、虐待という「行為」は明らかに望ましくありません。その行為に対しては一切理解も共感もできません。というかしたくもありません。

でもだからといって、その母の人格や存在を批判、否定、非難する気もありません。

それには理由があります。

人格否定は「する側」の課題

なぜ行為には言及しても、人格には踏み込まないのか。

一つには、人格や存在と行為は別物だから。
一つには、赤の他人が人様のことをとやかく言う必要がないから。
一つには、「加害者」とみなされる親には多くの場合、その望ましくない行為をしてしまう理由があることを学んだから。

最後の一つは、いわゆる世代間連鎖と呼ばれる虐待の連鎖のこと。今回の虐待をした側の母も、元を辿れば幼少期に辛辣な虐待をされた女の子でした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/472dbdd710f9c5538acdf455183c816579d9052b?page=1

注)記事が残っていない時のために簡単にお伝えしておくと、この虐待をした母自身が、幼少期に筆舌に尽くしがたい虐待を受けていた女の子でした。

世代間連鎖から見る虐待の理由

今回のようなケースを見聞きするたび、かつては私も「最低の親」「人じゃない」「狂っている」と見なしては憤っていました。

でも今は怒りではなく、言いようのない悲しみや、子どもが救われなかった無念さを感じます。

それは世代間連鎖という不幸な連鎖が断ち切られないワケを知ったからです。それが次のようなものです。

◯感情が容易に活性化
幼児期の虐待によって脅威を検知するセンサーが過剰に活性化するようになる。そのため容易に感情的に反応(たとえば激怒や恐怖)しやすくなる。

◯感情をなだめる力が発育不全
活性化した感情を虐待する親からなだめてもらえる可能性は低い。結果、自分で自分をなだめる力も育ちにくい。その結果、感情は容易に活性化するにもかかわらず、それを鎮めることが大変困難になり、感情に振り回されやすくなる。

◯他者の痛みに対する鈍さ
虐待ある環境では感情の受容やなだめてもらうという体験が必要レベルすら得難い。その結果、感情は「役に立たない厄介者」とみなされ、自分だけでなく、他者の感情に対しても適切に応答することが困難になる。

◯歪な対人距離
虐待環境で育った子どもは愛着形成がうまくいかないことが多く、人間関係においては人への不信感から過剰に壁を作ったり、その反対に「この人しかいない!」と思う相手には過剰に密着したり、のように距離感が「過ぎる」傾向が強くなる。

今となっては加害者となった親も、かつてはこういった環境で被害者として「生き延びてきた子どもたち」であることが少なくないのです。

虐待は「選択」ではなく「反応」

虐待報道を見聞きする第三者からすると、「大人なんだからどうにかできるはず」「頭で考えればわかるはず」という正論が浮かぶことでしょう。

連鎖なんて言葉を聞くと、「自分がされて嫌だったことをするなんておかしい」といった意見も耳にすることは少なくありません。

しかしこれは「理性」が太刀打ちできる世界ではありません。

この仕組みは脳の一番古い部分にある「生き延びる」を司る本能的な部分に刻み込まれた影響だからです。

たとえばあなたの真後ろで突然ガラスが割れた音が聞こえたら驚いてビクッと反応しませんか?今後自分の真後ろで突然大きな音が鳴っても「ビクッとなるな!」と言われたからといって、反応しなくなることはできるでしょうか?

ここで述べている反応はまさにこういった「理性ではどうにもならない身体的な反応」の仕組みを指しています。精神論ではどうにもならない世界なのです。

さらに彼女/彼らの困難は続きます。

生き延びるための戦術

苦しみを伴う感情が活性化する一方で、それを鎮めることが困難なままでは生きていけません。それをどうにかする必要があります。

一般的には不健全とみなされがちですが、そこで選ばれることの多い対処法は次のようなものです。

●感情が活性化する出来事(たとえば人との交流)自体を避ける
●活性化した感情を別の強い刺激(たとえばアルコール、薬物、ギャンブル、恋愛やセックス、過食、ゲームなど)で抑え込もうとする
●感情をそのまま相手にぶつけること(たとえば虐待、DV、ハラスメント、ヒステリックな物言いなど)でしのごうとする
…などです。

こういった対処法は時に過剰になることがあります。

そしてそれを自力ではコントロールできなくなり、生活や人間関係に支障をきたしたとき、「依存症」という名で呼ばれるようになるのです。

つまり、依存症と呼ばれるような一つ一つのありようは、そこだけ切り取れば「病気」であり「問題」と位置づけられますが、当事者からすれば感情の嵐をなんとか切り抜けるための「必死の自助努力」とも言えるのです。

したがって、大切なことはこういった対処法を「やめさせること」ではないのです。それに頼らざるを得なくなっている苦境を理解し、自分で自分をなだめることのできる、より健全で副作用のない「別の方法」に変えていくことなのです。

第三者の私たちにできること

報道によって明らかにされた、今回の加害者となった母がわが子に為した言動や行為は決して容認できるものではありません。子どもの命を奪ったのですから尚更のことです。

でもだからといって、この母を無関係の第三者が人間失格と非難し、厳罰を与えるべきとジャッジしたところで、いったい何が変わるでしょうか?誰が幸せになるでしょうか?

虐待される子どもたちのために、赤の他人の私たちにできることはなんでしょうか。

たとえ近隣に住んでいたとしても、それでも無関係の第三者の私たちにできることは、通報はできたとしても、その子たちのためにできることとなるとほとんどないかもしれません。

でもその代わりに、私たちの身の周りで暮らしている子どもたちのためならできることがたくさんあります。

それは誰を差し置いてもまずはわが子ではないでしょうか。

よその家庭ではなく、まずはわが子と真摯に向き合うこと。間接的にこの世界をより良くできる偉大な関わりです。

子どもだけでなく、自分助けもそう。夫婦関係の調整もそう。人間関係の構築もそう。

人が人を攻撃するのではなく、そのエネルギーをこの世界の住人の誰かが幸せになるために使っていく。それが結果的にはこの世界を安心安全な場にしていくと私は思っています。

その結果として、未来の子どもたちが幸せに生きていけることを願ってやみません。

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高澤信也
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高澤信也(心理カウンセラー)

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高澤信也プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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