引きこもりへの全く見当違いの対応が、ますます長期化を招く
目 次
1.心の闇の背景にあるもの
2.耐え難い空虚感
3.家族再生による解決
心の闇の背景にあるもの
尾木ママこと教育評論家の尾木直樹氏が2008年に著した『「よい子」が人を殺す』
(青灯社)という本があります。
副題は~なぜ「家庭内殺人」「無差別殺人」が続発するのか~です。
著書によると、殺人事件の半数近くが「家庭内殺人」であり、親殺しは、その26%
を占めているとのことです。
子どもたちによる凶行の共通性を分析し、次の三点をあげています(要約)。
①おとなしく、真面目、勉強もできる「よい子」
②親などから抑圧的な期待をかけられている
③進学や就職の時に大きな挫折体験をし「若者の社会的排除」を経験している
同年に出版された評論家芹沢俊介氏の『親殺し』(NTT出版)も、各事件の青少年や
その家族背景を詳しく述べられていますので、事件にいたる経緯がよく見えた
のですが、同時に、私がかねて相談を受ける家庭にとても酷似していることに
気づかされました。
①②は不登校、ひきこもりの青少年たちにも共通しているものですし、③は
ひきこもり・ニートの青年たちによくあることです。
もちろんこれらの事件の中には、不登校経験者やひきこもり当事者もいますので、
当然なのかも知れませんが。
しかし、決して誤解していただきたくないことは、不登校やひきこもりの青少年
たちは、犯罪者予備軍ではないということです。
私が縁あって関わってきた多くの青少年たちは、犯罪を想起させるような子ども
たちではありませんでした。
ただ思うことは、家族の関わり方如何によっては、衝動的な凶行に導いてしまう
可能性もあるんだということです。
やはり、かねがね私自身述べていますように家族の有り様は重要なことであります。
耐え難い空虚感
実際にこれまで、親に限らず他の誰かを「ぶっ殺してやりたい!」といったことを
口に出す青年もいました。
しかし、それが実際の行動につながらなかったのは、親の理解があったからです。
子どもの抱える苦悩、痛みへの共感があったからです。
事件に見られる親たちの態度には、全くといっていいほどそれがありません。
①の「よい子」というのは、あくまでも親、大人の目から見ての「よい子」です。
つまり、親にとって都合の「いい子」ということです。
②の利己的で独善的な期待にさえ、懸命に応えようとした子どもたちです。
そうしなければ、その家では生き残っていけなかったからです。
芹沢氏は、『親殺し』の中で、親殺しに先行する子殺し(存在論的死)と表現して
います。つまり、生き難い環境をつくってしまったことへのわが子からの反逆と
いうことです。
こういった事件が起こってしまうような関わり方をしてしまっている親たちが
増えてきているのが現実であれば、早急な社会的対策をうっていかなければ
なりません。
また、トー横(新宿歌舞伎町)キッズと呼ばれる未成年の子どもたちが、帰る家が
なく深夜たむろし、身勝手な大人たちから薬物に汚染させられたり、若い女性
たちが売春までしてホストに貢いだり、オーバードーズ(薬の過剰摂取)にはまる
若者たちが増えてきています。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵です。
なぜ、トー横キッズたちには帰る家がないのでしょうか?
なぜ、ホストのビジネス上の優しさにさえ飢えるのか、薬で高揚感を味わわない
といられないほど、なぜ若者たちは心に空虚感を抱えているのでしょうか?
家族再生による解決
当協会の支援方針では、不登校、ひきこもりなどは、「絆の病」ととらえています。
したがって、家族間の信頼関係の回復、絆の結びなおしによる解決をはかって
いきます。
徹底して、子どもの痛みへの理解と寄り添いを進めていくのです。
そのことにより、ひきこもり期間に関係なく、ほとんどの青少年たちが自らの意志
で協会を訪れ、新たなステップを踏み出していっているのです。
いまだわが子へのコントロール幻想から抜けきれず、挙句の果てには、精神病
だから親の言う事を聞けないんだとばかりに、病人にしたてあげてはばからない
親たちへ警鐘を鳴らし続けていかなければならないことが、私たちの社会的
ミッションでもあります。