必要な「家族会」がいつしか誤った方向へⅣ
目 次
1.求め得られなかったものは形を変え人を突き動かす
2.存在の価値を失う恐怖
3.絆の再生にみる家族の蘇生力
求め得られなかったものは形を変え人を突き動かす
わが子との関係を振り返る時有効な手立てのひとつとして、自分自身が「家庭」に何を求めて
いたのかを考えてみることがあります。
私たちは、親、兄弟、家族との人間関係の中で満たされなかったものを、他の人間関係の中で
満たそうとします。
親との関わりの中で得られなかったものを心の奥へしまい込んだまま、それに気づかず、
無意識のうちに他者との間柄でそれを埋め合わせようとするのです。
親から十分に得られなかったものを配偶者から得ようとしてしまう妻(夫)や、自分の親との間
で得られなかったものをわが子との関係で補おうとする親などです。
不登校やひきこもりといった状態のわが子の問題解決をはかる時、自分自身がどんな家庭を
築き上げようとしていたかを考えてみてください。
知らず知らずの内に、自分が子どもだった時に「家庭」に望み叶わなかったことを求め、
理想としていたのではないでしょうか。
子どもができる前、夫婦二人の時は、それぞれ両親の人間関係を見て育ち、それざれの結婚観
に基づいて夫婦関係をもっていたと思います。
これらによって、家庭が営まれ、まさに今わが子が学校に行けず、ひきこもっています。
両親それぞれが、「家庭」に求めていたものを振り返り思い返すことで、わが子に与えて
しまった心の負担に気づくことができます。
存在の価値を失う恐怖
子どもたちは、親の求め(期待)に敏感です。
それは、生れ落ちたこの家庭で愛され生き残っていくために必要なことだからです。
ですから必要以上にそれに応えようとします。
しかしそのことは、未成熟な子どもの心に大きな負荷を与え、深い傷痕を残し、無力化
させます。期待が大きければ大きいほど、期待に応えた時のみ賞賛を与える「条件つきの愛情」
になってしまい易く、そうなると子どもは、親の期待に応えられない自分を無価値な人間と
みなしてしまいます。自分の存在が無価値なものとなることは、誰にとっても恐怖です。
妻としての価値、嫁としての価値、母親としての価値、父親(一家の主)としての価値などを
揺るがす出来事が大人である父親、母親にとっても恐怖なように、なおさら子どもにとっては
自己存在の消滅に匹敵するほどの戦慄を覚えることなのです。
「なぜ登校させようとしているのか?」
「なぜ働かせようとしているのか?」を考える時、今わが家の問題は何かを考えてみてください。
より優先させるべきことを見誤っていませんか?
「そもそも自分は両親とどういう親子関係であったのか」
「どういう家庭を築きたかったのか」
「わが子に求めていたものは、わが子から得られるものであったのか。
相手を間違えていないか」
また、「仕事のストレスを家族に向けていなかったか」
「夫(妻)への不満をわが子に向けていなかったか」
そこから現状を招いたわけ(原因)が、必ず見えてきます。
絆の再生にみる家族の蘇生力
家族は、連綿と受け継いできた未完の欲求、未解決の不安や感情を他の家族との人間関係の
中で満たそうとします。
そのことが多くの過った信念、秘密、歪んだ情念を生み、家族の調和を乱します。
支配と隷属といった破壊的均衡を作り出し、固定化し、変化を拒む家庭環境が成立するのです。
不登校やひきこもりといった家族病理の症状を、個人の問題としか受け止められず、責任を
回避する家庭では、子どもたちは、暴力や破壊で親たちに訴えます。
しかし、信頼関係が完全に失われているわけではありません。
子どもたちは、安心を求め危険を冒します。
自身の人生を葬り、親の使命を背負うといった危険を冒すのです。
背負いきれなくなった時、反逆または許しを請う意味で自分の世界に閉じこもります。
時折、なぜこのような支援活動をやっているのかを訝しげに尋ねられることがあります。
傍目には、あえて臨むこともないような心労の絶えぬ仕事に映るのでしょう(笑)。
確かにそうかも知れません。
ただ心労ばかりではもちろんありません。
最もうれしいことは、家族が本来の状態に戻り、絆の結び直しがはかられ、笑顔が戻ること
です。家族の蘇生力といったものを目の当たりにできます。
現実から目をそらさずに受容できた家庭では、本音のぶつかりあいの後、それぞれが家族の
安寧を願っていたことに気づくことができ、分かり合い、ねじれた絆がほころび、心が
解け合ってゆきます。
分かり合えず傷つけあった時期もあります。
でもそれは、互いの痛みを感じあう機会でもあるのです。
その上で親子、兄弟姉妹が一つになって眼前の問題に取り組む時、家族の蘇生力が発動します。
それは凛とした潔さ、清々しささえ感じます。
支援者として胸が熱くなる瞬間です。
傷つくことを恐れずにわが子に向き合ってください。
防衛だけを繰り返していては、現実を見失うといった大きな代償をはらうことになります。
人が住まわなくなった家が自然に朽ち果てていくのにまかせていても、突然崩落してしまう
危険性があります。安全管理をしっかり施し、計画的に破壊していった方が危険を回避でき
きれいな更地に戻せます。
家族再生も同じです。
新たな誕生の陣痛と心得てください。