ことばが触れる場所:感情の通訳としての表現を考える

鎌田千穂

鎌田千穂

テーマ:心のあり方のヒント

サウナ猫

産業カウンセリングをしていると
「わかってほしい」と「うまく言えない」のあいだで悩む方が多いもの。

感情を言葉にする瞬間。
それはいつも、少し心もとない。

「嬉しい」「つらい」「もやもやする」「ありがたい」

どれも言葉にすれば届きそうなのに、
いざ声に乗せると、何かがこぼれてしまうようです。

伝えることの難しさと、受け取ることの繊細さ。
その間にある“表しきれなさ”こそが、関係性を揺らし、時に深めてくれるものだと私は思うのです。

1. 感情は、翻訳されながら届いていく

産業カウンセラーとして、相談を受ける場面で多いのが、
「うまく説明できないんですが…」という前置き。

それは、感情が“訳しにくい”ものである証。
胸の内には確かに何かがある。けれど、それを言葉に変換するには、時間も距離も要る。

それに加え、「ちゃんと伝えなければ」「誤解されたくない」という緊張が、
かえって言葉をぎこちなくしてしまうことも。

だからこそ、私たちはいつも、“感情の通訳者”として語彙力を高めることに全力。
そして、相手の気持ちを言語化しているのです。

2. 表しきれなさが、関係に余白を生む

感情は、完全に言葉になることがありません。
そしてその“表しきれなさ”が、人とのやりとりに余白をつくります。

たとえば——

あのとき、ちょっとしんどかったかもしれない
なぜかわからないけど、モヤモヤしています
うまく言えないけど、何となく…

こうしたあいまいな表現に込められているのは、言葉にしきれない感覚への誠実さ。
それを無理に言語化せず、受け止める余裕がある関係は、深く息づいていく。

言葉を尽くさずとも、その不完全さを許し合えることが、
人間関係にじんわりと温かみを生み出してくれるのです。

3. 伝える側の焦りと、受け取る側の解釈

ときに、「ちゃんと伝えたつもりなのに、誤解された」という苦しみも生まれます。

その原因は、受け取る側が“文脈”や“心情”ではなく、
“言葉の表面”だけを頼りにしてしまうことにあるのかもしれません。

このシリーズの中でも触れてきましたが、
丁寧に言葉を紡いでも、それをまっすぐ受け取ってもらえるとは限らない。

相手が自意識過剰気味だったり
劣等感が強かったり
被害妄想気味だったり
自己肯定感が低かったり
変化をしたくなかったり
わからないことがわからなかったり
目の前のことしか見えていなかったり
自分が正しいと思い込んでいたり

そんな気持ちが強いと自己防衛による戦闘態勢に入ります。
そして、「否定された」という気持ちに焦点を当てがち。

そう、伝えた側の“気持ち”は置き去りにされてしまいます。

けれど、それでもなお——
伝える側が誠実であることには、意味がある。

それは、関係の可能性を信じ続ける意志のあらわれでもあるからです。

まとめ:言葉に託しきれない部分に人間らしさが宿る

感情を完全に伝えることはできません。
けれど、その伝えきれなさにこそ、関係性の余白があり、人間らしさが浮かび上がるのです。

表現すること
許すこと
汲み取ること


それらはすべて、「ことばにならない気持ち」を大切にする営み。

このブログを書きながら、私もまた、
誰かの心にそっと触れるような言葉を常に探しています。

“うまく言えないけど”を、大事にしていきたい。

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鎌田千穂
専門家

鎌田千穂(産業カウンセラー)

Chi-ho’s studio

組織課題を広い視野で捉え、主体性を持った思考と行動力、公私の均衡を図る自律型人材育成を行うこと。分析・統計による業務改善の解決策を示し、個人の悩みを解き放ち、企業の繁栄に繋げることが専門です。

鎌田千穂プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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