目にする言葉、手に取る理由:文化が育てた安心感

さぁ、今週も金曜日になりました。
福岡を語る上で、忘れてはならない偉人伝。
毎週金曜日のお約束。
今日は、日本初の百貨店となる三越百貨店を創業し、三越の経営改革を進めた経営者
福岡県久留米市出身の日比翁助(ひび おうすけ/1860年~1931年) のお話です。
50代になってからの再就職――それは、勇気ある挑戦です。
にもかかわらず、思うようにいかない毎日が続くと、どうしても心が沈みがちになりますよね。
なんでこんなに頑張ってるのに…
どうして誰も理解してくれないの?
そんな風に、つい自分以外の何かのせいにしてしまいたくなることもあるかもしれません。
ですが、そんなときこそ“誰かの生き方”が、辿る先を指し示してくれることがあります。
迷いの中に見つけた光:日比翁助の転機
日比翁助は1860年、久留米藩の武士の家に生まれました。
若い頃は剣術を磨き、海軍を志すほどの熱意ある青年。
その人生の中で、ある一冊の本が日比翁助の人生を大きく転換します。
それは、福澤諭吉の著書。
「士魂商才」──武士の魂を宿した商人としての生き方。
その思想に強く共鳴し、日比翁助は慶應義塾へ進学。誠実な商売を志すようになります。
「このままではダメだ」
日比翁助は、静かにそう言える人でした。
時代の荒波に揉まれても、現状に甘んじることなく、自分が信じる道へと一歩ずつ歩いていったのです。
「売るな、感じさせよ」:新しい価値を創る勇気
日比翁助は後に、三井呉服店(現・三越)の経営を任されます。
呉服業界は洋装の流行に押され、「もう終わりだ」と多くの人が諦めていた時代の大役。
そこで、欧米の百貨店を自ら視察。
「お店とは物を買う場所ではなく、心地よさを感じる場所」と考えるようになります。
そして日比翁助が目指したのは、「文化を伝える空間」。
モノを並べるのではなく、“心に寄り添う店づくり”だったのです。
「前垂れをつけていても、心には兜を」:誇りを持って立つ
日比翁助はこんな言葉を残しています。
「前垂れをつけていても、心には兜を」
新しい環境になじもうと努力する日々の中で、
自分なりの指針を持って、動機の善を問い、自らを奮い立たせていたのかもしれませんね。
外見や肩書ではなく、
「自分がどうありたいか」に誇りを持つ。
そんな志は、日々の小さな選択の積み重ねを、静かな力に変えてくれます。
このコラムを読んでいる方の中には、職場に馴染めない日もあるかもしれません。
居場所がないように感じる瞬間もあるかもしれません。
それでもなお、丁寧な言葉選びや、小さな気遣いを積み重ねているなら、
それは確かな誇りであり、誰かがきっと気づいてくれるものです。
環境を責める前に、できる問いかけ
うまくいかないときにこそ、
「自分はどんな姿勢でいたいのか」
そう問い直すことで、少しだけ心の風景が変わることがあります。
日比翁助の生き方は、
誰かに大声で自分を主張するのではなく、
静かに誇りを貫くことの大切さを教えてくれます。
再就職に挑むあなたの中にも、
転職したばかりのあなたの中にも
その「心の兜」は、すでに存在しているのではないでしょうか。



