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柏市の空家問題の現状と今後の空家問題の課題

小川哲也

小川哲也

テーマ:不動産全般

いまさらながら空家問題


空家問題は所有者不明土地等と絡み、今後ますます深刻化する問題です。私は不動産鑑定士として空家問題について今まであまりコメントしないでいました。
理由は、自分なりの解決策をお示しできないでいたからです。これは今もあまり変化はないのですが、避けてばかりではいられない状況にもなってきておりますので、徐々に考えてみたいと思います。

空家の弊害


まず、空家になると建物の劣化が進みます。庭の手入れも行き届かず、地域の環境の悪化を招きます。また、管理不行届きの空家や空地にはゴミの不法投棄等の問題も発生します。さらに、建物の劣化による倒壊の危険性、放火される可能性、犯罪の温床になる等、防災、防犯上の観点からもリスクが伴います。
世帯が少なくなるので、固定資産税収入が減少し自治体のサービスが低下する可能性や地域そのものが衰退してしまいます。
そもそも、空家率が30%を超えると自治体の財政は破綻するという説もあり、10年先には多くの自治体が危険水域に達することになります。
野村総合研究所の予測によると、除却や利活用が進まなければ、空き家は2033年には約2150万戸、空き家率は30.2%に上昇し、2013年の実績値(約820万戸、13.5%)の2倍以上になると言います

空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)の施行


2015年5月に空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)が施行され、空き家とは何かを定義し、自治体が空き家に立ち入って実態を調べたり、空き家の所有者に適切な管理をするよう指導したり、空き家の活用を促進できるようになりました。また、地域で問題となる空き家を自治体が「特定空家」に指定して、立木伐採や住宅の除却などの助言・指導・勧告・命令をしたり、行政代執行(強制執行)もできるようになりました。
国土交通省の調査によると、市区町村などが2017年3月末までに特定空家を指定して助言・指導を行ったのは6405件、このうち勧告に至ったのは267件、命令に至ったのは23件、代執行に至ったのは11件とのことです。


税制優遇措置が除外


「住宅用地の特例」という税制優遇措置があり、これまでは住宅用地に対する固定資産税が最大1/6、都市計画税が最大1/3まで減額されていました。
本来この税制優遇措置は住宅用地に適用されるもので、空家の場合は適用されるべきではないのですが、これまでは一時的な空室と、恒常的な空き家の区別をつけることが難しく、空家でも税制優遇が効いていました。
そんな「住宅用地の特例」ですが、空家対策特別措置法の制定・施行に合わせて税制改正がなされ、市町村が特定空家に対し周辺の生活環境を保全するために必要な措置をとるよう勧告した場合、税制優遇措置が除外されることになりました。また、この他の行政の施策としては、譲渡所得税について、空家等についての譲渡所得には3,000万円の特別控除が認められることになりました。


柏市の現状

以下は柏市が平成30年3月に策定した「柏市空家等対策計画」からの抜粋になります。
以下のグラフによれば、2つの推計値がありますが、平成42年頃まで柏市の人口は現在の水準を維持しそうです。しかし、それ以降は人口減少基調に入っていくこととなります。



既に多くの地方都市では人口減少基調となってしまっていますが、柏市については12年の猶予がありそうです。また、現在における空家率も下記表のように11%弱とそれほど高い水準ではありません。




また、千葉県内市町村のワーストランキングで言えば、柏市は34位とまだ危険水域には余裕がある印象を受けます。しかし、空家数は2万戸あり、千葉県内で4位と上位に位置しています。
また、柏市内のエリア別空家率については以下の図表のようになっています。



意外にも中心市街地である旭町、冨里エリアの空家率が高くなっています。


ちなみに千葉県内空家率のワースト10は以下の通りです。
1位 勝浦市   36.8%
2位 いすみ市  28.6%
3位 鴨川市   26.3%
4位 九十九里町 25.2%
5位 館山市   25.1%
6位 南房総市  24.4%
7位 茂原市   18.8%
8位 富津市   18.6%
9位 東金市   18.4%
10位 八千代市 16.7%

千葉県内はこのような状況で、1位の勝浦市は既に危険水域を超え、2~5位も30%を超えるのは時間の問題になりつつあります。
柏市についても、12年後以降は人口減少の可能性が高いため、空家率は上昇し、事前の対策を打っておかなければ取返しのつかない事になるリスクが高いと言えます。


空家対策の施策


前述していますが、もう一度おさらいしますと、行政上の施策としては以下が実施されています。

・「空家法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)2015年5月施行

・固定資産税の優遇措置の撤廃(特定空家に指定されると優遇なし)

・空家等の譲渡所得3000万円の特別控除

・空家バンク・データベース整備



〇国が行う財政上の支援措置(国の補助)

・「空き家再生等推進事業」(空き家の活用・除却を促進する自治体の取り組みを支援)

・「空き家対策総合支援事業」(民間事業者等と連携した総合的な空き家対策への支援)

・「先駆的空き家対策モデル事業」(専門家等と連携して実施する空き家対策の先駆的モデル事業を支援)

・「空き家所有者情報提供による空き家利活用推進事業」
(民間事業者と連携して空き家所有者情報を活用する空き家利活用の取り組みを支援)


〇今後、課題になりそうな行政上の施策

・解体等に対する行政の補助、融資

・改装・創業支援

・コンパクトシティ化の推進


空家対策の方策


空家対策の方策としては以下のような方法が考えられます。

・現状有姿売買(自用、賃貸)

・売買後リノベーション(自用、賃貸)

・除却後売買

・寄付(除却前、除却後)

・賃貸

・リノベーション後賃貸

・除却後敷地利用(自用、賃貸)

上記のうち寄付については以下のような問題が存在します。
自治体・・・・目的がないと受け入れない、固定資産税なくなり財政悪化
個人・・・・隣地の所有者 贈与税発生
法人・・・・企業だと企業に譲渡所得税がかかる。公益法人だと譲渡所得税はない
自治会や町内会・・・認可地縁団体か確認する。そうじゃないと登記できない。

〇空家を再利用する用途としては、その立地条件や土地の条件にもよりますが、ランダムに挙げると以下が考えられます。

戸建住宅、共同住宅、コワーキングスペース、コミュニケーションスペース、インキュベート施設、アトリエ、レストラン、民泊、ゲストハウス、温浴施設、核シェルター、防災のための敷地、公園、農園、作業所、工場、倉庫、デイサービス施設、介護施設、福祉作業所、保育園、研修施設、駐車場、コインパーキング、トランクルーム、自販機、ネット放送スタジオ、保養所、保養所兼仕事場、専門店舗、ヨガスタジオ、音楽スタジオ、パーソナルトレーニングスペース、ネットゲーム場、投資場、サークル等の集会場、NPO等の事務所、宗教施設、プロジェクトルーム、勉強部屋、塾、日替わり店舗、日替わり飲食店、太陽光発電設置、風力発電設置・・・・・・・・・


今後の問題点


例えば、空家を除却して野に返しても、結局は管理の問題に突き当たります。また、空家を不動産ストックビジネスと捉えてデータベースやネットワークを構築しても、不動産仲介に該当すれば、手数料が収入となりますが、低額な手数料しか期待できないため参入者が集まらない可能性が考えられます。
ただ、この「管理」と「ネットワーク化」の諸問題がビジネスの問題として解決できれば、空家問題の一部は対策できるのではないかと考えます。

当初は、空家に関して贈与税を改正し、隣地所有者等に引き取ってもらうのが一番なんじゃないかと考えておりましたが、到底それだけでは対策とは言えません。
ただ、実際に成功事例も見受けられ、国土交通省が今年3月発表した「地域の不動産関連事業者向けの不動産ストックビジネス事例集」には参考となる事例が紹介されています。
http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo05_hh_000083.html


「カシニワ制度」(柏市)


このコラムを書くために下調べしていると「カシニワ」というキーワードに目が留まりました。現在は登録団体が里山等を借り受けるのが中心のようですが、一つの可能性を感じることができました。
以下、柏市役所のHP上の文章を抜粋します。
――
 この制度は、柏市内で市民団体等のかたがたが手入れを行いながら主体的に利用しているオープンスペース(樹林地や空き地等)並びに一般公開可能な個人のお庭を「カシニワ=かしわの庭・地域の庭」と位置付け、カシニワへの関りを通じて、みどりの保全・創出、人々の交流の増進、地域の魅力アップを図っていくことを目的としています。
 具体的には二つの柱により構成されます。一つ目はみどりの保全や創出のために、土地を貸したい土地所有者、使いたい市民団体等、支援したい人の情報を集約し、市が仲介を行うカシニワ情報バンクであり、二つ目は一般公開可能な個人の庭、地域の庭を市に登録をして頂くカシニワ公開です。いずれも、市のホームページ等で情報の閲覧が可能です。
 また、平成26年度からスタートしたカシニワ・スタイルは、お庭や広場など緑の空間で楽しむイベントをホームページで紹介することで、多くの方に柏市の緑を楽しんでいただくことをねらいとした枠組みです。
――

想像の範疇を超えていませんが、この制度を応用し、空家(空地)データベース、ネットワークを組み合わせることによって、主に除却後の更地を「カシニワ」として賃貸すれば、周辺の共同住宅に住む方々の需要はあるような気がします。また、戸建にお住まいの方の家庭菜園用の土地としての需要も考えられます。
ただ、ここでも問題となるのは、ネットワーク化してビジネスになるか、管理の問題をどう対処するかが壁になってきます。


結び


正直言いまして、空家問題は難しいです。今の私の頭の中を文章化しましたが、まだまだ取り止めのない状況です。また、この問題と共存する所有者不明土地の問題もございます。所有者不明土地になると、物理的にも法律的にもその土地自体を利用できるまでに相当な労力が掛かります。
ただ、課題が見えているということは、何らかの解決策も出てくるのではないかと期待することもできます。
私自身、不動産鑑定士という立場ではありますが、現在は傍観者のようなものです。今後、何かの機会が与えられましたら、不動産鑑定士の立場から何等かの形でお力になりたいと考えております。

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小川哲也(不動産鑑定士)

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不動産コンサルティング会社、デベロッパーでの実務が豊富な不動産鑑定士。相続における借地権・底地の問題に強い。また、証券化案件の豊富な実績から、実態に即した価格や計画の提示で、投資判断をサポート。

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