資産形成・資産運用の基本知識。やり方と押さえておきたい非課税制度
世界でも有数の長寿国である日本。そこで問題となるのが定年退職後の人生設計です。一時期、老後資金には2000万円必要と話題になりましたが、金額にかかわらず、老後の人生設計はできるだけ早い段階から検討しておく必要があるでしょう。また、定年に至るまでの間にも結婚、出産、子育て、住宅購入などお金のかかるライフイベントは数多く存在します。いざという時のためにも自分の資産はしっかりと形成、運用しておかなくてはなりません。資産形成、資産運用の基礎知識のほか、さまざまな金融商品のなかでも特に税制上、優遇されるNISAやiDECOについて、詳しくお伝えします。
資産形成の必要性
現在、そして老後において健康で豊かな生活を送っていくためには、さまざまなものが必要ですが、特に資産は何をするにも持っておかなくてはならないものです。ここでは、老後、そして定年までにかかる費用とともに、資産形成の必要性をお伝えします。
老後に必要な生活資金
厚生労働省が発表した「令和元年簡易生命表」では、男性の平均寿命は81.41歳。女性は87.45歳です。そして、勤務延長、再雇用制度も含め、ほとんどの企業で65歳を定年(厚生労働省平成29年就労条件総合調査)としているため、男性は約16年、女性は約22年の老後生活があるという計算になります。
総務省による「家計調査報告(2018年)」から、二人以上の世帯のうち、高齢無職世帯の家計収支を見てみましょう。
平均年齢 | 可処分所得(※1) | 消費支出(※2) | 収支 |
---|---|---|---|
60~64歳 |
15万7169円 |
27万2713円 |
-11万5544円 |
65~69歳 |
20万4013円 |
26万2122円 |
-5万8109円 |
70~74歳 |
19万2482円 |
25万2654円 |
-6万172円 |
75歳以上 |
19万1566円 |
21万9742円 |
-2万8176円 |
※1可処分所得
個人の所得から、支払い義務のある所得税や住民税といった税金、健康保険や厚生年金といった社会保険料などが差し引かれた金額。生活費にまわせる手取りのこと。
※2消費支出
食費や住宅費、水道・光熱費など生活を営む上で必要なお金のこと。
このように、どの年代でも毎月赤字という結果です。また、病気、けが、介護などへの備えや旅行、趣味も楽しみたいと思えばさらに資金が必要です。
特に、医療費の負担は大きく、3割負担だとしても、急性心筋梗塞で約53万円、脳梗塞で約48万円、脳出血で約64万円の費用がかかります(入院医療費の平均(2020年1月~3月)全日本病院協会調べ)。
老後生活は、住宅ローンや教育ローンのような制度もないため、自分たちで毎月の赤字分を補填しつつ、万が一の際の資金も用意しておかなければなりません。
定年までにかかる生活資金
老後に備えた生活設計も重要ですが、そればかりを重視していると、現在の生活が立ちいかなくなってしまいます。前出の家計調査報告では、1世帯当たりの実収入は49万2594円(2018年)ですが、世帯主の収入は前年比-1%と減少しています。そして、消費支出平均額は24万6399円で、差額約24万円でさまざまなライフイベント、そして老後に備えていかなくてはなりません。主なライフイベントは次のとおりです。
【挙式・披露宴・ウエディングパーティー】
362.3万円
(結婚トレンド調査|ブライダル総研(2019年4月~2020年3月)調べ)
【教育費】
公立か私立かによってかかる費用は大きく異なるため、それぞれの費用を紹介します。
区分 | 公立 | 私立 |
---|---|---|
幼稚園(3~5歳) |
64万9088円 |
158万4777円 |
中学校 |
192万6809円 |
421万7172円 |
高等学校 |
137万2072円 |
290万4230円 |
大学(4年制) |
428万円 |
文系 630万4000円 |
短期大学 |
295万6000円 |
幼稚園~高等学校まで「平成30年度子供の学習費調査|文部科学省」
大学・短期大学「令和元年度教育費負担の実態調査結果|日本政策金融公庫」
※すべて塾や家庭教師などの費用も含む。
【住宅購入費】
人生の中でも、最も大きな買い物ともいえる住宅購入。国土交通省が発表した「令和元年度住宅市場動向調査」によると、主な住宅の購入費用は次のとおりです。
j住宅の種類 | 購入費用 |
---|---|
注文住宅 |
5085万円 |
分譲戸建住宅 |
3851万円 |
中古戸建住宅 |
2585万円 |
分譲マンション |
4457万円 |
中古マンション |
2746万円 |
結婚や子育て、住宅購入などは個人差があるものの、定年までの間にも、かなりの費用がかかることがわかります。これだけの費用をローンも活用しつつ、やりくりしていくには、計画性を持っていないと破たんが生じる可能性があります。家計をひっ迫させないためにも、資産形成は早い段階から考えておくことが大切です。
資産形成のやり方
資産形成とは、資産がない状態から運用できる段階までコツコツと貯めていくことを指します。一般的には、1000万円が資産形成から運用への目安です。資産形成をするには、毎月の収入から余剰金を出す必要があります。毎月赤字の状態が続くようでは、日々の生活に追われてしまい資産形成どころではありません。
余剰金を出すには収入口を増やし、支出を抑えるのが基本です。しかし、それ以上に重要なのが、毎月の貯蓄額を先に決め、そのお金には手を出さないようにすることです。
貯蓄が苦手な人は、収入が増えるとその分は消費に回し、残った金額だけを貯蓄しようとします。これでは、いつまでたっても資産形成はままなりません。例えば、「収入の1割は必ず貯蓄する」と決めておき、収入を得たらその分はすぐに貯蓄に回すのが、資産形成を行うための重要なポイントといえます。
また、収入と支出の口座を一つにまとめてしまうと、ついつい貯蓄に回すお金にも手をつけてしまいます。収入と支出の口座は別々にして管理するようにすると、貯めやすくなるでしょう。
月の収支計算
資産形成を行っていくには、使途不明金をなくす必要があります。そのための方法が、毎月の収支計算です。
前項で説明したように、収入と支出の口座を分けるのも重要ですが、それだけでは、何にお金を使っているのかが把握できません。毎月の収入がいくらあり、家賃や水道・光熱費、通信費のほか、食費や交際費、趣味に使うお金など、どれぐらいの支出があるのかを明確にしないと資産形成は難しいでしょう。
ポイントは、それ以外の支出が毎月どれぐらいあるかの把握です。交際費や趣味に使うお金は不定期に出ていくうえ、常に記載しておかないと後になってから何に使ったかを思い出すのが非常に困難です。そのため、家計簿では固定費とそれ以外の出費を色分けするなどして、別々に管理します。
家計簿をつけ、毎月の収支計算をすれば、使途不明金を減らし、節約できる部分もわかるようになります。ただ、あまり詳細にやろうとすると途中で飽きてしまう可能性もあるため、まずはおおざっぱでもよいので、とにかく継続を意識するようにしましょう。
最近はレシートを撮影するだけで詳細を取り込める便利な家計簿アプリも増えているので、家計簿をつけるのが苦手な人は、そうしたアプリを使って管理するのもおすすめです。
ライフプランを考える
資産形成は重要ですが、ただ漠然と貯蓄をしようと思っても、なかなか思うようには貯まりません。そこで欠かせないのがライフプランの立案です。
目標を決めずに貯蓄をしていると、何のために貯めているのかがわからなくなってしまい、長続きしません。そのうえ、毎月、いくら貯めればいいのかも明確にできないでしょう。
そのため、例えば「5年後に車を購入する」「10年後に住宅を購入する」といった大きな目標から、「年に1回、旅行に行く」「月に一度、豪華な食事をする」など、貯蓄をするための目的を具体的に設定します。老後のための資金形成も必要なので、老後資金の目標額も別に設定し、併せて貯金をするのも忘れないようにしましょう。
これらを行ったうえで、「目標を実現させるには、毎月いくら貯める必要があるか」を算出していくと現実性が出て、貯蓄をするモチベーションがアップします。「少しでも早く目標を達成したい」という思いも生まれ、資産形成のスピードアップも期待できます。
金融商品の特徴の把握
資金形成から運用の目安は1000万円と先述しましたが、「できるだけ早い段階で運用を始めたい」という場合におすすめなのが、貯蓄以外の資金形成方法です。
ただ、株式やFXといった「投資」による資金形成はリターンが大きいものの、その分リスクも高くなります。投資などの経験が豊富で実績もある場合を除き、できればローリターンローリスクの金融商品がおすすめです。
ひと口に金融商品といってもその種類は多様で、前述の株式やFXは少額からでも始めることができ、リスクを取らない方法もありますが、資産形成には向いていません。また、不動産投資は、ある程度の元手がないと始めることさえ難しい商品です。
資産形成を目的とした金融商品として検討したいのは、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」「NISA(少額投資非課税制度)」「つみたてNISA」「個人年金保険」などの投資信託や年金、保険です。これらは、大きなリターンは期待できませんがリスクが低く、一般的な貯蓄に比べて利率が高いため、資産形成を目的としているならば、知っておくべき金融商品といえるでしょう。
知っておきたい非課税制度
前項で挙げた金融商品のなかでも、特におすすめなのは投資信託や個人型確定拠出年金です。その最大の理由は課税制度が利用できる点にあります。そこで、ここでは「非課税制度とは?」「非課税制度の金融商品とはどういったものなのか」についてお伝えします。
非課税制度とは、文字通り、課税されない、税金がからない制度を意味します。では、何に税金がかからないのかといえば、金融商品を購入し、そこで得た利益です。例えば、通常、投資信託は比較的リスクの少ない金融商品です。しかし、資金の運用を専門家に依頼するため、販売手数料、信託報酬、信託財産留保額など、さまざまな手数料が発生します。
さらに売却して得た利益や、保有している投資商品から得られる分配金は課税対象で、その額は利益の20.315%(所得税:15%、住民税:5%、復興特別所得税:0.315%)です。つまり、100万円の利益が出た場合、20万3150円は税金として差し引かれます。これに上述した手数料が加わるため、資産形成をする上では大きな負担となってしまいます。
低金利が続くいま、銀行に預けるのに比べれば資産を増やせますが、そもそも投資信託は元本保証の商品ではありません。場合によっては資産を減らしてしまう可能性もあるのです。
ローリスクであるとはいえ、資産がマイナスになる可能性があるならば、利益が出た際には、「できるだけ手元に残しておきたい」と考えるのではないでしょうか。そこで、そうした声に応えた金融商品が、非課税制度の投資信託や個人確定拠出年金です。
投資信託なかでも、毎月定額の積立によって投資を行う積立投信は、1000円からでもスタートすることができます。また、投資のプロが運用してくれるメリットもあります。非課税制度の積立投信は、これらメリットに加え、約20%の税金が非課税になる制度です。これは、少しでも早く資産形成を進めたいかたにとって、必ず知っておきたい金融商品だといえるでしょう。
NISAについて
では、実際に非課税制度の金融商品を紹介します。一つめはNISAです。
NISAとは、「Nippon Individual Savings Account」の略称で、2014年1月に生まれた小額投資を対象とした非課税制度です。具体的には、証券会社や銀行、運用会社などNISAを扱っている金融機関で非課税口座(NISA口座)を開設し、毎年一定金額の範囲内で金融商品購入する仕組みで、そこから得られる利益が非課税になります。
利用できるのは、日本在住の20歳以上の人で、開設できるのは一人一口座です。非課税になるのは、株式・投資信託などから得られる配当金です。例えば、1年目に100万円分の株式を購入し、そのまま保有し続け、5年目に売却した際に利益が100万円出ていた場合、通常であれば20万3150円かかる税金が0円になります。
また、1年目に100万円分の株式を購入し、毎年、5万円の配当金を受け取った場合、通常であれば、毎年約1万158円の税金がかかりますが、これもやはりかかる税金は0円です。
※口座からは、自由にお金を引き出すことができます。
投資できる額(非課税投資枠)は、年間120万円が上限です。なお、未使用だった投資枠を翌年以降に繰り越すことはできません。例えば、1年目に80万円を投資に使った場合、残りの40万円を2年目以降の投資枠にプラスして使うことはできません。つまり、毎年、非課税投資枠は120万円にリセットされるということです。
非課税期間は5年間のため、非課税投資枠は最高で600万円です。また、投資可能期間は現状、2023年までとなっています。
NISAには、ほかに2016年に始まった「ジュニアNISA」、2018年から始まった「つみたてNISA」があり、それぞれの概要は次のとおりです。
【ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)】
NISAは対象年齢が20歳以上ですが、ジュニアNISAは日本在住の0~19歳を対象にしています。非課税対象、口座開設可能数、非課税期間、投資可能期間は通常のNISAと変わりません。
異なるのは、非課税投資枠で、通常のNISAが毎年120万円が上限であるのに対し、ジュニアNISAは毎年80万円が上限です。
また、運用管理者は口座開設者本人の親や祖父母といった二親等以内の親族で、口座開設者本人が18歳になるまでは、原則として払い出しもできません。
【つみたてNISA】
つみたてNISAは、少額で長期にわたり積立・分散投資ができる制度で2018年1月からスタートしました。公募の対象年齢、口座開設可能数は通常のNISAと変わりません(ただし、つみたてNISAとNISAの併用はできません)。異なるのはそれ以外の項目ですが、NISAと比較してみましょう。
NISA | 積み立てNISA | |
---|---|---|
非課税対象 |
株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益 |
一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益 |
非課税投資枠 |
新規投資額で毎年120万円が上限 |
新規投資額で毎年40万円が上限 |
非課税期間 |
最長5年間 |
最長20年間 |
投資可能期間 |
2014年~2023年 |
2018年~2037年 |
つみたてNISAの投資対象商品は、金融庁が定める長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託(公募株式投資信託とETF)に限定されます。
例えば、公募株式投資信託であれば、販売手数料がかからない、分配頻度が毎月ではない、信託期間が20年以上であることなど、6つの項目すべてを満たしていなければなりません。また、NISAでは対象外の債券が含まれることも特徴です。株式よりもリスクが低く、保有することで利息を受け取ることができるなど、長期運用に適した商品です。
iDeCoについて
次にNISAに並び税制の優遇処置が受けられる個人拠出型年金、iDeCoを紹介します。iDeCoとは、日本在住の20歳~60歳未満の人を対象にした、自分でつくる年金制度です。通常の年金額は国が毎年金額を決め、集めた資金を国が運用します。
これに対しiDeCoは、自分が拠出した掛け金を自分で運用して資産を形成するものです。NISA同様、運用で得た定期預金利息や投資信託運用益が非課税となります。拠出する金額は学生や主婦、会社員などによって異なります。具体的には次のとおりです。
※国民年金基金または国民年金付加保険料との合算枠
専業主婦(夫)等(第3号被保険者):月額2.3万円(年額27.6万円)
会社員等(第2号被保険者):月額1.2~2.3万円(年額14.4~27.6万円)
※会社員は勤める企業により4種類に分かれます。
公務員等共済加入者(第2号被保険者):月額1.2万円(年額14.4万円)
受け取りは60歳以降に限定されますが、その方法は「一時金として一括で受け取る」「有期年金(5年以上20年以下)として受け取る」「一時金と年金を組み合わせて受け取る」の3種類です。
iDeCoのもう一つのメリットが、積立金額のすべてが所得控除の対象になる点です。利益が非課税になるだけではなく、所得税や住民税の節約にもつながります。受け取る際は、公的年金等控除、退職所得控除の対象にもなります。
まとめ
今後あるであろう、大きなライフイベント、そして老後生活。生涯を安心して過ごすためには、できるだけ早い資産形成を行い、適切に運用していくことが大切です。
今回、紹介した非課税制度の金融商品は、資産形成の助けとなるうえ、税制優遇も受けられるため、有用な活用策となるでしょう。