湯治の効果効能
人間は2本の足で歩行する生き物ですが、大昔の祖先たちはよつんばいになって移動していました。4本足から2本足に進化したことで、首から肩、背骨、腰の筋肉への負担が大きくなりました。
この負担が増加するにつれ、筋肉や背骨に障害が起こり、それが腰痛を引き起こす原因と言われています。ほとんどの人が、加齢に伴う慢性的な腰痛に悩まされることになり、腰痛は、2本足で立って歩く人間の宿命といえるかもしれません。
また、加齢に伴う椎間板機能の老化・劣化により、激痛に悩まされる椎間板ヘルニアを発症することもあります。
温泉に入ったら腰の痛みが和らいだ、という話はよく聞きますが、それはどうしてなのでしょうか。温泉の腰痛への効果や温泉の選び方、効果的な入浴方法を紹介します。
温泉で緩和が期待できる腰痛
温泉に含まれているさまざまな成分が皮膚を通して体内に吸収されて、一般適応症(神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、健康増進)に効能があるとうたわれています。これは全国各地のほとんどの温泉に共通しています。
慢性的腰痛の場合は、温泉成分が体内で作用して腰痛の元を改善するというよりも、温泉自体の温熱効果や浮力効果、水圧効果が腰痛改善に効果をもたらすといえます。
【温熱効果】
温泉に入ると体が温まり、血液循環とリンパの流れが良くなり、筋肉のコリがほぐれて軽くなります。
【浮力効果】
お湯に入ると浮力がかかって体が軽くなり、いつも重力に耐えて緊張していた筋肉がゆるみます。
【水圧効果】
お湯の中では全身に約500㎏~1tの水圧がかかるといわれており、この水圧によって全身がマッサージをされている状態になります。そして血液循環を促進します。
以上の3つの効果により、全身の血の巡りがよくなることで痛みが緩和するのです。ですから泉質に関係なく、温泉に入ることは腰痛によい効果があるといえますね。
ただ、腰痛にはさまざまな原因があり、筋肉や背骨への負担が原因となるだけでなく、腎臓結石や尿管結石、悪性腫瘍などの内臓疾患によるもの、椎間板ヘルニアや骨粗しょう症、腰部脊柱管狭窄症、変形性脊椎症などの背骨の疾患によるものもあります。そのような疾患が原因の場合は、医療機関で治療を受けましょう。
温泉の選び方
腰痛に効果があるとされている温泉には、次のようなものがあります。
【単純泉】
他の成分よりも刺激が少なく、幅広い効能があるといわれています。
【ナトリウム温泉】
塩分を主成分としているので塩化物泉ともいわれ、高い保温効果があります。
【硫酸塩泉】
硫酸イオンが主成分で、高血圧症や動脈硬化症、脳卒中、慢性関節性リウマチ、外傷や皮膚病にも効果があるとされます。
【マグネシウム泉】
鎮静効果があるといわれています。
【ラジウム泉(放射能泉)】
リウマチなどに効果があるといわれています。
以上のように、いろいろな成分を含んだ温泉がありますが、腰痛には、含まれている成分によらずゆっくりつかることで効果が期待できるのです。成分にこだわらず、できるだけ行きやすい、近場の温泉を探してみましょう。
効果的な入り方や注意点
【長期間の湯治】
温泉地への小旅行では、効果は期待できません。じっくり時間をかけて、できれば3~4週間、毎日一定時間はお湯に入ることで、自然治癒力が高まり腰痛が軽減する可能性があります。
【体の芯まで温める】
腰痛を軽減するためには、体表温度だけでなく、脳や内臓などの深部体温を上げることが大切だと言われているので、ぬるめのお湯にゆっくりつかって体の芯まで温めましょう。
温泉に入って体が温まり、体温が上昇することによって、血液の流れがよくなり、痛みがやわらぎます。
【十分な水分補給】
水分補給をすることも忘れずに、入浴前後や入浴中に水分をとりましょう。
【軽く体を動かす】
浴槽の中で肩回しや腰を左右にひねるなどして、体を軽く動かすのもいいでしょう。痛みに耐えて緊張して、縮んでいた筋肉を伸ばすことで痛みがやわらぎます。
お湯の中では浮力が働いて、筋肉や関節への負担が軽くなり、体を動かしやすくなります。繰り返し行うと筋力も強くなります。
【湯冷めしない】
温泉から上がると体温が急に下がります。これは腰痛にとってはよくないことなので、ゆっくり温泉につかり、体の芯まで温めます。上がったら体表の水滴をきちんと拭き、体が冷えないように、温かくしておきましょう。
【急性の腰痛は温めないで冷やす】
突然発症したケガやぎっくり腰などによる腰痛も、温泉で温めると痛みは軽減して楽になります。しかしそれらの急な腰痛は、患部に炎症を起こしているので、温めることで炎症を増幅させて症状を悪化させてしまうこともあります。
急性の腰痛は、患部の炎症を抑えるために冷やすことが大切だと言われているので、冷たい湿布などで対処しましょう。
移動時の負担が与える影響を考える
温泉で体を温めることは大事ですが、温泉地まで距離がある場合は、移動時の負担が大きくなります。慢性腰痛の場合は、姿勢を変えることが困難な乗り物に座っているだけで、腰に大きな負担がかかり、さらに悪化する可能性があります。
温泉につかれば、腰痛に効果があるような気がしますが、痛みの軽減は、成分よりも温熱効果・浮力効果・水圧効果が影響します。ですから、無理に遠くの有名な温泉に行かなくても、移動に負担がかからない住まいの近くの温泉や銭湯を探してみましょう。