「うつ」の背景にあるグレートマザーのはたらき 親子関係と心の構造を考える グレートマザーシリーズ⑥
先日、企業で実施したストレスマネジメントセミナーで、「自分を整えることから始める職場のメンタルヘルス対策」という視点から、「心理的安全性」について話題提供を行いました。
近年、会社の成長や生産性の向上に向けて、「心理的安全性」を重視した職場づくりに取り組む企業が増えています。
では、心理的安全性を高めるためには、どのような働きかけが必要なのでしょうか。
今回は、少し違った角度から考えてみました。
「心理的安全性」とは?
「心理的安全性」は、最近になって突然注目され始めた考え方ではありません。1960年代から研究されてきた、60年ほどの歴史を持つ概念です。
1965年には、組織心理学者のシャインとベニス(Schein & Bennis)が、組織が変化・学習していくためには、人が「変わることへの不安」を乗り越えられる心理的な安全が必要だと論じました。
その後、ウィリアム・カーン(William A. Kahn)などによる研究を経て、現在「心理的安全性」という言葉を広く知られるきっかけとなったのが、エイミー・エドモンドソン(Amy C. Edmondson)の研究だと言われています。
簡単にいうと、心理的安全性とは、
「この職場・部署・チームでは、目的のために対人関係上のリスクを取っても大丈夫だ」
とメンバーが共有している状態です。
例えば、
〇 「わかりません」と言っても怒られない
〇 「それは違うと思います」と言っても嫌われない
〇 ミスを報告できる
〇 助けを求めたり、SOSを出したりできる
〇 新しい提案ができる
〇 上司に疑問や意見を伝えられる
といったことです。
「言いたいことを何でも言える」ということではありません。
必要なことを、必要なときに、安心して伝えられる。そこに心理的安全性の大切なポイントがあります。
みなさんの職場には、こうした文化や雰囲気があるでしょうか?
心理的安全性は、会社だけがつくるもの?
心理的安全性について語られるとき、
「経営者が変わらなければならない」
「管理職が部下の話を聴く必要がある」
「コミュニケーションを改善しなければならない」
といった、組織側からの働きかけが注目されることが多くあります。
もちろん、それはとても重要です。
しかし、職場は経営者や管理職だけでできているわけではありません。
そこには、一人ひとりの社員がいます。
例えば、
● 緊張すると、うまく話せなくなる
● 周囲の反応を気にしすぎてしまう
● 失敗を必要以上に恐れてしまう
● 自分の意見を伝えることが苦手
●ストレスに対処することが難しい
このようなことがあると、「本当は相談したい」、「意見を言いたい」、「助けてほしい」
と思っていても、それを行動に移すことが難しくなる場合があります。
だからこそ、職場の心理的安全性を高めるためには、組織側の取組だけでなく、一人ひとりが自分自身を整えることも大切なのではないでしょうか。
「自分を整える」ことも、職場環境改善の一歩
例えば、ストレスマネジメントには次のような取組があります。
〇 自分のストレス状態を把握する
〇 ストレスを感じやすい考え方のクセを知る
〇 感情を適切に調整する方法を身につける
〇 相手の話を聴き、自分の意見を適切に伝える
〇 リラクセーションによって心身の緊張を和らげる
〇 必要なときに「助けてください」と援助を求める
これらは一見すると、「自分自身のため」の取組に見えます。
しかし、自分の状態を把握し、気持ちを整え、相手と適切にコミュニケーションを取り、必要なときには助けを求める。
こうした一人ひとりの行動が積み重なることで、「相談できる」「意見を言える」「助け合える」職場の文化も少しずつ育っていきます。
つまり、ストレスマネジメントは、単に「自分がストレスでつらくならないため」のものではありません。
「自分を整えることから、職場を整えていく」
そんな役割も、ストレスマネジメントにはあるのではないでしょうか。
職場のメンタルヘルス対策を「個人」と「組織」の両面から
もちろん、心理的安全性を社員一人ひとりの努力だけでつくることはできません。
〇経営者や管理職が、従業員の心身の健康を大切にする姿勢を示すこと。
〇仕事の量や進め方、人間関係、コミュニケーションなどの職場環境を見直すこと。
〇そして、そこで働く一人ひとりが自分自身の心の状態を理解し、適切に対処すること。
組織と個人、その両方から職場のメンタルヘルスを考えることが大切ではないでしょうか。
私たちは、ストレスチェックによる個人のストレス状態の把握だけでなく、職場環境についても把握し、必要に応じて職場環境改善につなげる取組を行っています。
さらに、ストレスマネジメント研修や個別相談などを通して、一人ひとりが自分自身の心を整え、職場の中でよりよく働くための支援も行っています。
「社員のメンタルヘルス対策を、個人への支援だけで終わらせたくない」
「職場環境を改善したいが、何から始めればよいかわからない」
「心理的安全性のある職場づくりに取り組みたい」
そのような企業・組織のみなさまと一緒に、個人と組織の両面から、働きやすく力を発揮できる職場づくりを考えていきたいと思います。
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参考文献
大塚泰正 落合悠子 2025 心理的安全性と産業保健における定義 産業医学レビュー Vol.38 No1 2025
エイミー・C・エドモンドソン (著), 野津智子 (翻訳) 2021 恐れのない組織: 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす 英治出版


