企業型DCの導入にはいくらかかる?――従業員の資産形成と会社の負担を考える
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
物流効率化は、これからの運送業に欠かせない取り組みです。
荷待ち時間を短縮する。積載率を高める。空車で走る距離を減らす。こうした改善が進めば、限られた車両とドライバーで、より多くの輸送を担える可能性があります。
しかし、ここで一つ疑問があります。
【物流効率化によって運送会社の原価が下がったら、荷主に請求する運賃も下げるべきなのでしょうか。】
効率化には、荷主の協力も、運送会社の努力も必要です。設備投資やシステム導入など、新たな費用が発生することもあります。
では、その成果は誰が受け取るのでしょうか。
今回は、2026年10月19日に開催された国土交通省の第4回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」の議論も踏まえ、物流効率化と運賃、そしてドライバーの賃金の関係を考えます。
1.物流効率化は、運送会社だけの努力では進まない
2026年4月から改正物流効率化法が全面施行され、一定規模以上の荷主や物流事業者には、中長期計画の作成や定期報告などの義務が加わりました。
物流効率化の主な取り組みは、次の3つです。
① 積載効率の向上
② 荷待ち時間の短縮
③ 荷役等時間の短縮
ここで注目したいのは、これらの改善が運送会社だけで実現できるものではないという点です。
例えば、荷主の物流センターで長時間の荷待ちが発生している場合、運送会社が運行計画を見直すだけでは限界があります。
荷主側のバース予約、入出荷時間の調整、荷役方法の改善などが必要になるでしょう。
反対に、積載率や実車率の改善では、運送会社の配車計画や帰り荷の確保、共同配送などの工夫が重要になります。
つまり、物流効率化は、荷主と運送会社がそれぞれの役割を果たして進めるものです。
【そうであれば、効率化によって生まれた成果についても、双方の取り組みや負担を踏まえて考える必要があるのではないでしょうか。】
2.第1の問い――物流効率化で原価が下がれば、運賃も下がるのか?
例えば、ある運送会社が荷主との協力によって荷待ち時間を短縮できたとします。
それまで1日2運行が限界だった車両で、運行条件によっては3運行が可能になるかもしれません。
同じ車両、同じドライバーで輸送できる仕事量が増えれば、1運行当たりの原価が下がる可能性があります。
一方、荷主から見れば、こうした疑問が生じるでしょう。
「運送会社の効率がよくなって原価が下がったのなら、運賃も下げられるのではないか」
一見すると、合理的な考え方です。
しかし、運送会社が効率化による原価低減の成果をすべて運賃引下げに回してしまえば、どうなるでしょうか。
効率化のために投資を行い、運行方法を見直しても、その成果が会社に残らないのであれば、次の改善に取り組むための資金を確保しにくくなります。
さらに、運送会社には車両更新、安全対策、人材確保、ドライバーの処遇改善など、継続的な支出が必要です。
もちろん、効率化によって原価が下がっても、運賃を一切見直す必要がないという話ではありません。
重要なのは、原価が下がったという結果だけでなく、その改善を誰が実現し、どのような費用を負担したのかを考えることです。
【物流効率化によって原価が下がることと、その分だけ運賃を下げることは、同じではありません。】
そして、この問題は2028年6月に導入が予定されている「適正原価」制度とも関係してきます。
3.適正原価検討会では、物流効率化をどう扱おうとしているのか
2026年10月19日の第4回適正原価検討会では、人件費、燃料費、車両費、待機・荷役料金など、適正原価の算定に関する具体的な論点が示されました。
一方、物流効率化による成果をどう評価するかについては、まだ整理が必要な段階です。
検討会では、物流効率化のインセンティブを適正原価の中に含めるのか、それとも別の仕組みで扱うのか、今後検討する考え方が示されています。
ここは重要な論点です。
適正原価は、運送会社が安全で持続的な輸送を行い、ドライバーに適切な賃金を支払うために必要な原価を確保する仕組みです。
しかし、効率化が進んだ運送会社ほど適正原価が低く評価され、その成果が運賃引下げに直結する仕組みになれば、効率化を進める動機が弱まるおそれがあります。
反対に、効率化の取り組みや成果をまったく考慮しない制度でよいのかという問題もあります。
【適正原価の確保と物流効率化の推進。この2つをどう両立させるか。】
今後の制度設計で注目したい点です。
なお、2026年10月末時点で、効率化による原価低減分を運賃にどのように反映するかについて、具体的な算定・運用方法が確定したわけではありません。
運送会社としては、今後の検討会の議論を引き続き確認する必要があります。
4.第2の問い――効率化の費用を誰が負担し、成果を誰が受け取るのか?
物流効率化には、費用がかかる場合があります。
例えば、
・荷主がバース予約システムを導入する。
・荷主と運送会社が協力してパレット化を進める。
・運送会社が運行管理システムを導入する。
・配車方法を変更し、実車率や積載率を高める。
こうした取り組みは、荷待ち時間の短縮や輸送効率の改善につながる可能性があります。
しかし、投資した側と、効率化の成果を受け取る側が同じとは限りません。
荷主の設備投資によって運送会社の待機時間が減ることもあれば、運送会社の配車改善によって荷主の輸送コストが抑えられることもあります。
また、効率化によって空いた時間を新たな仕事に充てられるかどうかは、取引条件や貨物量、ドライバーの勤務時間などによって変わります。
ここで必要なのは、効率化の成果を一律に分配することではなく、取り組みの内容と実際の効果を把握することです。
荷待ち時間は何時間短縮されたのか。
実車率や積載率はどれだけ改善したのか。
車両1台当たりの収入や原価はどう変化したのか。
そして、改善のためにいくら費用がかかったのか。
こうした実態が分からなければ、効率化の成果を踏まえた運賃交渉も難しくなります。
【効率化による成果をどう分配するかを考えるには、誰が何を負担し、どのような効果が生まれたのかを把握することが必要です。】
5.第3の問い――運送会社に残った成果を、ドライバーの処遇改善にどうつなげるのか?
仮に物流効率化によって運送会社の収益性が改善したとしても、それだけでドライバーの賃金が上がるわけではありません。
ここには、運送会社の賃金制度が関係します。
例えば、時間外労働が減少すれば、時間外手当も減ることがあります。
売上や運行回数に応じた歩合給を採用している会社では、効率化による運行内容の変化が賃金に影響する場合もあります。
一方、運行効率の改善によって仕事量や売上が増えれば、賃金が増加するケースも考えられます。
つまり、効率化がドライバーの収入に与える影響は、各社の運行実態と賃金制度によって異なります。
適正原価検討会では、適正原価を踏まえて収受した運賃・料金をドライバーの賃金改善につなげ、その状況を確認する仕組みも検討されています。
物流効率化による成果を、車両更新や安全対策、ドライバーの処遇改善などにどう配分するのか。
これは制度だけで決まる問題ではなく、各運送会社の経営判断でもあります。
この点については、10月27日のコラムで詳しく取り上げています。
「適正原価で運賃が上がったら、給料に回したかまで確認される?――運送会社が今から考えるべき3つの課題」
https://mbp-japan.com/tokyo/yutoli-sr/column/5240919/
6.運送会社は、今から何を準備すべきか
物流効率化と適正原価の議論は、今後さらに具体化していきます。
ただし、制度の詳細が決まるまで何もできないわけではありません。
運送会社が今から確認しておきたいことは、次の3つです。
① 車両・運行・取引先ごとの実態を把握する
まずは車両1台当たりの収入と原価、実車率、積載率、荷待ち・荷役時間などを確認します。
すべての車両や取引先を一度に分析する必要はありません。代表的な車両や運行から始める方法もあります。
大切なのは、売上だけでなく、その仕事にどれだけの時間と費用がかかっているのかを把握することです。
② 物流効率化の成果を数字で確認する
荷待ち時間が1時間短縮されたとして、その結果、何が変わったのでしょうか。
ドライバーの拘束時間が減ったのか。
別の運行を組めるようになったのか。
時間外労働や燃料費などの費用が減ったのか。
それとも、運行上の余裕が生まれただけなのか。
改善の内容によって、会社の収益への影響は異なります。
【効率化したという事実だけでなく、経営上どのような成果が生まれたのかを確認することが重要です】
③ 原価管理・労働時間管理・賃金制度を一体で見直す
ここは、運送業専門社労士として特に重視している点です。
物流効率化によって労働時間が短縮されても、賃金制度によってはドライバーの収入が減少することがあります。
一方、賃金を引き上げようとしても、その原資をどの運行や取引先からの収入で確保するのかが分からなければ、継続的な処遇改善は難しくなります。
例えば、歩合給の算定方法、基本給と各種手当の構成、時間外割増賃金の計算方法などは、運行実態や労働時間と密接に関係しています。
物流効率化に合わせて運行方法を見直すのであれば、賃金制度も現在の実態に合っているか確認する必要があります。
【運行の効率化だけを進めるのではなく、その成果が会社の経営とドライバーの賃金にどう反映されるのか。】
この視点が、今後ますます重要になると考えています。
7.物流効率化を、運送会社の経営改善につなげるために
物流効率化は、運送会社の原価を下げることだけが目的ではありません。
限られた輸送能力を有効に活用し、安全で持続可能な物流を実現するための取り組みです。
そして、効率化によって生まれた成果を、荷主との取引条件、運送会社の経営基盤、ドライバーの処遇改善にどうつなげていくのか。
ここに、これからの運送業が考えるべき課題があります。
2028年6月に導入が予定されている適正原価制度は、その関係を改めて考える契機になるでしょう。
ただし、適正原価制度が導入されれば、各社の原価管理や賃金制度の課題が解決するわけではありません。
例えば、次のような課題はないでしょうか。
・荷待ち時間や拘束時間は把握しているが、運行ごとの収益性までは確認できていない。
・運行効率が改善しても、ドライバーの賃金がどう変わるのか説明できない。
・歩合給や固定残業代を採用しているが、現在の運行実態に合った制度なのか分からない。
・適正原価への対応を考えているが、人件費や賃金制度をどこから見直すべきか整理できていない。
これらは、原価管理だけ、労働時間管理だけ、賃金制度だけを見直しても、十分な解決につながらない場合があります。
【自社の運行実態を把握し、必要な収入を確保し、その収入を経営の安定とドライバーの処遇改善にどうつなげるのか。】
物流効率化と適正原価への対応を進める今こそ、運送会社の賃金制度と労働時間制度を一体で点検する機会ではないでしょうか。
当事務所では、運送会社の運行実態や賃金の支払い状況を踏まえた、賃金制度・労働時間制度・就業規則・賃金規程の整備を支援しています。
物流効率化や適正原価への対応に合わせて、自社の賃金制度・労働時間制度の見直しを検討されている経営者の方は、ご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございます。
運送業専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/
【参考資料】
国土交通省「第4回適正原価の設定に向けた有識者検討会」(2026年10月19日)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000024.html
※適正原価の具体的な算定方法や物流効率化のインセンティブの扱いについては、2026年10月末時点で検討中の事項があります。


