ドライバーが長期休職するとき、会社はどうする?――休職規程と休職・復職命令書の重要性
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「運賃を上げてもらうだけでも大変なのに、その収入をドライバーの給料に回したかどうかまで確認されるのか?」
そう感じる運送会社の経営者もいるのではないでしょうか。
2028年6月の制度開始が予定されている「適正原価」。
国土交通省の検討会では、運賃・料金の算定方法だけでなく、
【収受した運賃・料金をドライバーの賃金改善につなげ、その状況を確認する仕組み】
についても議論されています。
これは、運送会社の経営にとって見逃せない変化です。
運送会社の賃金制度を考えるシリーズの最終回として、適正原価の議論から見えてくる3つの経営課題を考えます。
1.「運賃の使い道まで確認されるのか?」という疑問
改正後の貨物自動車運送事業法では、ドライバーの知識や技能などの公正な評価に基づく適正な賃金の支払いをはじめ、適切な処遇を確保するための措置が求められています。
これを受けて国土交通省の検討会では、事業許可の更新時に、ドライバーへの賃金の支払い状況を確認する方向性が示されています。
確認には、毎年度提出する事業報告書の人件費明細表などを活用する考え方が示され、賃金の支払い状況が十分でない場合の改善計画も検討されています。
ただし、具体的な判定方法や運用は、まだ検討段階です。
値上げした運賃の一定割合を、そのまま昇給に充てることが決まったわけではありません。
経営者には、さまざまな疑問があるでしょう。
「燃料費も車両費も上がっている。賃金だけに回せるわけではない」
「適正原価どおりの運賃を収受できる保証はあるのか」
「すでに高い給与を支払っている会社は、どう評価されるのか」
いずれも、現実的な問題です。
【運賃収入を確保することと、ドライバーの処遇改善を実現すること。その両方が問われようとしているのです。】
【経営者が今から取り組むこと】
まず、自社のドライバーに支払っている賃金総額と労働時間を正確に把握する。
そして、賃金改善の状況を説明できるよう、人件費の集計方法や給与データを整理しておくことです。
2.残業代に頼った賃金構造をどう変えるか
国土交通省の検討会資料では、トラックドライバーと全産業の賃金が比較されています。
令和7年賃金構造基本統計調査による年間賃金は、次のとおりです。
【残業代などを含む年間賃金】
・全産業:546万円
・大型トラック:507万円
・中小型トラック:449万円
【残業代などを除いた年間賃金】
・全産業:510万円
・大型トラック:411万円
・中小型トラック:383万円
年間の超過労働時間は、全産業132時間に対し、大型トラック396時間、中小型トラック312時間です。
【ドライバーは全産業の約2.4~3倍の超過労働をしても、年間賃金が全産業平均に届いていません。】
そこで検討会では、残業代を含まない全産業平均の賃金水準を、人件費算定の土台とする方向性が示されています。
長時間働くことで給与総額を確保する賃金構造を、どう変えていくのか。
これは、運送会社にとって大きな課題です。
例えば、会社が残業時間を減らした結果、ドライバーの給与も大きく減ってしまう。
会社にとっては労働時間の改善でも、ドライバーにとっては収入減少です。
【長時間労働の是正と賃金改善を、どう両立させるのでしょうか。】
【経営者が今から取り組むこと】
ドライバーごとに所定内給与と残業代を分け、残業時間を月10時間、20時間減らした場合の給与を試算する。
現在の賃金制度が、どの程度残業代に依存しているかを確認することです。
3.賃上げの原資を、どう確保し、どう配分するか
賃金改善の必要性は理解できても、原資がなければ継続できません。
例えば、ドライバー20人の給与を月額3万円引き上げれば、給与だけで年間720万円の増加です。
さらに、法定福利費や割増賃金への影響も考慮する必要があります。
この費用を、どの車両、どの運行、どの取引先からの収入で賄うのでしょうか。
適正原価が導入されても、すべての運送会社の運賃収入が一律に増えるわけではありません。
特に、多重下請け構造の上流と下流では、運賃交渉の立場も課題も異なります。
そして、原資を確保できたとしても、もう一つ問題があります。
【その原資を、どのような賃金制度でドライバーに還元するのか。】
基本給を引き上げるのか。
歩合給の単価や歩合率を見直すのか。
技能や職務に応じた手当を設けるのか。
ここで、これまで5回にわたって取り上げてきた賃金制度の問題が関係します。
固定給と歩合給では割増賃金の計算方法が異なり、固定残業代や各種手当についても、実際の支払い方や計算方法が問われます。
単に給与総額を増やせばよいという問題ではありません。
【経営者が今から取り組むこと】
まず、車両ごとの人件費や労働時間、実車率、待機・荷役時間を把握し、賃上げに必要な原資を試算する。
そのうえで、基本給・歩合給・手当の配分を検討し、ドライバーごとの賃金への影響を確認する。
【「いくら賃上げするか」と「どのような賃金制度で賃上げするか」を、一緒に考えることが重要です。】
4.適正原価への対応は、賃金制度の見直しからも始められる
適正原価の具体的な算定方法や運用には、まだ検討中の部分があります。
しかし、運送会社が今から準備できることはあります。
① ドライバーの賃金と労働時間を正確に把握する。
② 残業代に依存した賃金構造になっていないか確認する。
③ 賃上げに必要な原資を試算し、賃金制度と運賃交渉の準備を進める。
そして、もう一つ重要なことがあります。
【行政に確認されるから賃上げするのではなく、自社がどのような仕事を評価し、どのような待遇でドライバーを確保・定着させるのかを考えることです。】
適正原価は、そのための経営基盤を見直す契機にもなります。
自社の賃金制度は、これからの運送業に対応できていますか?
「残業時間を減らすと、ドライバーの収入も減ってしまう」
「賃上げを考えているが、基本給と歩合給をどう見直すべきか分からない」
「適正原価への対応に向けて、人件費と賃金制度を整理したい」
こうした課題を抱える運送会社では、賃金制度と労働時間制度を一体で見直すことが重要です。
賃金制度は、就業規則や賃金規程を書き換えるだけでは変わりません。
実際の給与計算、労働時間、運行の実態を踏まえ、会社の経営方針に合った仕組みを考える必要があります。
【適正原価への対応をきっかけに、自社の賃金制度を一度点検してみませんか。】
運送業の賃金制度・労働時間制度の点検や見直しについて、運送業専門の社会保険労務士としてご相談に対応しています。
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