2024年問題は終わっていない――適正原価と物流効率化が運送会社の賃金制度につながる理由
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
人材の採用や定着が難しくなるなか、従業員の福利厚生を充実させたいと考える中小企業経営者も増えています。
その選択肢の一つが、企業型DC(企業型確定拠出年金)です。
企業型DCは、会社が経営者と従業員の将来の資産形成を支援する企業年金制度です。
制度を設計する際には、会社が掛金を負担するだけでなく、従業員本人が希望すれば追加で積み立てられる仕組みも考えられます。
その代表的な方法が、
【A+B方式とマッチング拠出】
です。
どちらにもメリットがありますが、給与の取扱いや税金・社会保険料への影響には違いがあります。
今回は、制度の優劣ではなく、経営者が自社に合った企業型DCを考えるためのポイントを整理します。
1.A+B方式とマッチング拠出に共通する仕組み
まず、両制度に共通する基本的な仕組みを確認しましょう。
A+B方式もマッチング拠出も、
【会社が経営者・役員を含む加入対象者全員に対して、毎月掛金を拠出することが基本】
です。
そして、
【従業員本人が追加で掛金を積み立てるかどうかは、どちらも任意】
です。
追加の積立てを希望しない従業員も、会社が負担する掛金によって将来の資産形成を進められます。
違いは、従業員が追加の積立てを希望した場合の仕組みにあります。
A+B方式
会社が負担する基本給付金(A)に加え、従業員が希望する場合、給与の一部を振り替えて加算給付金(B)として積み立てます。
Bは従業員本人の選択によるものですが、制度上は事業主掛金として取り扱われます。
マッチング拠出
会社が負担する事業主掛金に加え、従業員が希望する場合、給与から加入者掛金を控除して積み立てます。
こちらは従業員本人が拠出する掛金であり、事業主掛金とは区別して取り扱われます。
この違いが、税金や社会保険料の取扱いにも関係してきます。
2.A+B方式の特徴――税金・社会保険料の負担軽減
A+B方式では、従業員が給与の一部を企業型DCの掛金に振り替えることで、その金額は給与として課税されず、原則として社会保険料の算定対象にもなりません。
そのため、所得税・住民税の負担軽減が期待できます。
また、給与の振替額や標準報酬月額の等級によっては、健康保険料・厚生年金保険料などの負担が軽減される場合もあります。
ただし、ここには注意点があります。
【毎月1万円を積み立てれば、社会保険料も毎月一定額減るという仕組みではありません。】
社会保険料は標準報酬月額などを基に計算するため、給与を振り替えても等級が変わらなければ、保険料の負担軽減につながらない場合があります。
また、社会保険料の算定対象となる報酬が下がることで、将来の厚生年金や傷病手当金、出産手当金などの給付に影響する可能性もあります。
さらに、従業員への説明では別の課題があります。
「給与の一部を減らして、年金の掛金に振り替える」
制度を理解すれば合理的な選択だと感じる人もいるでしょう。
一方、税金や社会保険料の仕組みに詳しくない従業員にとっては、
【「給与が減る」という説明そのものが不安につながる】
ことも考えられます。
制度上のメリットがあっても、それが従業員に十分伝わるとは限りません。
3.マッチング拠出の特徴――給与を減額せずに所得控除を受ける
マッチング拠出では、会社が毎月掛金を負担することに加えて、従業員が希望する金額を自分の給与から積み立てます。
加入者掛金は給与から控除されるため、その分の手取り額は減ります。
しかし、A+B方式のように、給与の支給額そのものを減額する仕組みではありません。
そして、従業員が拠出した加入者掛金は、
【全額が小規模企業共済等掛金控除の対象】
になります。
年末調整などを通じて、所得税・住民税の負担軽減を受けられる仕組みです。
一方、加入者掛金は社会保険料の算定対象となる給与から拠出するため、マッチング拠出そのものによる社会保険料の負担軽減はありません。
この点だけを比較すれば、A+B方式の方が有利に見えるかもしれません。
しかし、社会保険料の負担軽減は、A+B方式でも給与額や掛金額によって生じない場合があります。
それならば、
【社会保険料の負担軽減がないことを、マッチング拠出の大きな欠点と考える必要はない】
のではないでしょうか。
従業員にとっては、給与の支給額を変えず、自分の意思で積立額を決め、所得控除を受けられるという分かりやすさも重要です。
なお、2026年4月からは、マッチング拠出の加入者掛金が会社の事業主掛金を超えてはならないという制限が撤廃されました。
これにより、会社の掛金が比較的少額であっても、法令上の拠出限度額の範囲内で、従業員が自分の希望に応じた積立額を選びやすくなっています。
4.医療法人で気づいた、マッチング拠出の別の価値
私自身、以前はA+B方式に魅力を感じていました。
従業員が任意で積み立てられ、所得税・住民税の負担軽減に加えて、条件によっては社会保険料の負担軽減も期待できるからです。
一方、マッチング拠出には社会保険料の負担軽減がありません。
そのため、当初はマッチング拠出を積極的に選ぶ意義を十分に見いだせていませんでした。
考え方が変わるきっかけになったのは、医療法人などの企業型DCの制度設計を検討する機会でした。
医療・介護の現場では、給与や各種手当の取扱いが、報酬制度や処遇改善に関する仕組みと関係する場合があります。
そのため、給与の一部を振り替える制度よりも、給与の支給額を維持したまま追加の積立てができるマッチング拠出の方が、運用しやすい場面があります。
ただ、検討を重ねるうちに、これは医療法人に限った話ではないと感じるようになりました。
税金や社会保険料の仕組みを詳しく理解している従業員ばかりではありません。
「給与を減額する」と聞けば、制度の内容を理解する前に抵抗を感じる人もいるでしょう。
一方、マッチング拠出なら、
「会社が毎月掛金を出します。希望する人は、自分でも追加の積立てができ、その掛金は所得控除の対象になります」
と説明できます。
【制度の説明が分かりやすく、従業員が納得して選択しやすいこと。】
これも、福利厚生制度を設計するうえで大切な価値だと考えるようになりました。
5.採用・定着につながる企業型DCにするために
企業型DCを導入すれば、それだけで採用がうまくいったり、従業員が定着したりするわけではありません。
大切なのは、会社がどのような人材課題を抱え、従業員にどのような福利厚生を提供したいのかを考えることです。
例えば、従業員が税金や社会保険料の仕組みを理解し、給与の振替にも納得できる職場であれば、A+B方式は有力な選択肢になります。
一方、給与の支給額を維持することや、制度の分かりやすさを重視する職場では、マッチング拠出が適している場合もあるでしょう。
どちらの方式にも共通するのは、会社が加入対象者の将来の資産形成を支援し、追加の積立ては従業員本人の意思に委ねるという考え方です。
また、どちらも原則として老後に向けた資産形成の制度であり、掛金は自由に引き出せる預貯金とは異なります。運用商品によっては元本割れの可能性もあるため、加入者への情報提供や投資教育も欠かせません。
制度を検討する際には、会社の掛金負担、従業員の給与水準や年齢構成、既存の退職金制度、就業規則・賃金規程との整合性なども確認する必要があります。
【企業型DCの制度設計は、税金や社会保険料の負担軽減額だけで決めるものではありません。】
経営者と従業員の双方にとって、理解しやすく、納得して利用でき、長く続けられる仕組みであることが重要です。
A+B方式とマッチング拠出。
どちらが優れているかではなく、
【自社の人材課題と従業員の実情に合っているのはどちらか。】
そこから考えることが、採用・定着を支える福利厚生制度づくりにつながるのではないでしょうか。
企業型DCの制度設計や導入をご検討の際は、会社の状況に応じた制度の選択、賃金規程との整合性、従業員への説明まで含めてご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございます。
企業型DC専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/


