運送会社の歩合給と固定給、残業代の計算はどう違う?――同じ月給30万円でも変わる理由
運送業・企業型DC・助成金専門釈迦保険労務士の吉元です。
2026年10月、厚生労働省が「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査」を公表しました。
今回の調査で、私が注目したのは「運輸業・郵便業」の賃金改定率と定期昇給制度の状況です。
賃金改定率は3.0%。全産業平均の4.4%を下回りました。
さらに、定期昇給制度のある企業の割合も、全産業平均より低い結果となっています。
この数字から、運送会社の賃金制度について考えてみたいと思います。
1.運輸業・郵便業の賃上げ率は3.0%
今回の調査では、1人平均賃金改定額と改定率は次のとおりでした。
・全産業:13,926円(4.4%)
・建設業:20,599円(5.5%)
・製造業:15,134円(4.7%)
・卸売業・小売業:13,173円(4.3%)
・運輸業・郵便業:8,815円(3.0%)
運輸業・郵便業は、全産業平均と比較して、月額5,111円の差があります。
前年の運輸業・郵便業は10,545円(3.6%)でしたので、改定額・改定率ともに低下しました。
ただし、今回の調査対象は常用労働者100人以上の民営企業です。
また、「運輸業・郵便業」にはトラック運送業以外の事業も含まれます。
中小・零細の運送会社の実態をそのまま表しているわけではありませんが、産業間の賃金改定の違いを知るうえで参考になる結果です。
2.定期昇給制度がある企業は72.9%
もう一つ注目したいのが、定期昇給制度です。
定期昇給制度がある企業の割合は、全産業84.2%に対して、運輸業・郵便業は72.9%。
11.3ポイントの差があります。
ここで、定期昇給とベースアップの違いを整理しておきましょう。
**定期昇給(定昇)**とは、勤続年数や人事評価など、会社が定めたルールに基づいて個人の賃金が上がる仕組みです。
例えば、勤続年数や評価に応じて毎年基本給が上がる制度です。
一方、**ベースアップ(ベア)**とは、基本給表や賃金水準そのものを引き上げることです。
例えば、賃金表の金額を一律に5,000円引き上げる場合です。
なお、定期昇給制度がない会社でも、個別の判断で賃上げを行うことはできます。
今回の調査では、定期昇給制度があり、定期昇給とベースアップを区別している企業のうち、ベースアップを「行った・行う」と回答した割合は、運輸業・郵便業で85.3%でした。
これは、運輸業・郵便業の全企業の85.3%がベースアップしたという意味ではありません。
それでも、賃金水準を引き上げる動きがある一方、定期昇給制度の普及には産業間で差があることが分かります。
3.運送会社の賃金制度に置き換えて考える
運送会社では、固定給のほか、売上歩合、距離歩合、運行手当など、さまざまな賃金の支払い方があります。
私は、歩合給そのものを否定する立場ではありません。
仕事の成果を賃金に反映することには、一定の合理性があります。
ただし、歩合給を中心とした賃金制度では、運行内容や売上の変動によって賃金が変わる一方、経験や技能の向上がどのように賃金に反映されるのか、分かりにくい場合があります。
例えば、入社して10年のドライバー。
無事故で勤務し、荷主からの信頼も厚く、後輩への指導もできる。
こうした経験や技能が、賃金にどのように反映されているでしょうか。
勤続給、職務給、役割給、技能手当などを設けている会社もあるでしょう。
一方、運行回数や売上によって賃金が変動する仕組みが中心であれば、経験や技能の向上が処遇に結びつきにくいことも考えられます。
2024年4月から、トラックドライバーには時間外労働の上限規制が適用され、改善基準告示も改正されました。
長く働き、運行回数を増やすことで賃金を増やすという考え方には、制度上も実務上も限界があります。
だからこそ、これからの運送会社では、
【「何に対して賃金を支払うのか」】
を改めて考える必要があると思います。
4.適正原価制度と賃金改善はつながっている
2028年6月からの導入が予定されている「適正原価」の制度では、運送会社が必要な原価を確保できる仕組みについて議論が進められています。
その目的の一つが、ドライバーの適切な賃金水準の確保です。
国土交通省の第4回有識者検討会では、運賃水準の上昇分がドライバーの賃金引き上げに反映されているかを確認する必要性も示されました。
具体的な確認方法や判断基準は、今後の制度設計を見ていく必要があります。
ただし、運賃・料金が改善しても、その増収分をすべて人件費に回せるわけではありません。
燃料費、車両費、修繕費、保険料なども上昇しているからです。
そこで重要になるのが、
【原価管理と賃金制度を結びつけて考えること】
です。
例えば、賃金を引き上げる場合でも、
・基本給を引き上げるのか。
・歩合給の単価や歩合率を見直すのか。
・技能や役割に応じた手当を設けるのか。
・賞与に反映するのか。
会社によって選択肢は異なります。
また、賃金制度の変更は、時間外労働に対する割増賃金の計算にも影響する場合があります。
単に給与総額を増やせばよいという話ではありません。
【「いくら賃上げするか」と「どのような賃金制度で賃上げするか」を、一緒に考える必要があるのです。】
5.自社の賃金制度は、これからの賃上げに対応できるか?
今回の調査では、運輸業・郵便業の賃金改定率は3.0%。
定期昇給制度がある企業の割合も、全産業平均より低い結果でした。
もちろん、これらの数字だけで運送業界の賃金制度全体を評価することはできません。
しかし、運送会社が自社の賃金制度を考えるきっかけにはなると思います。
例えば、
・固定給と歩合給の役割は明確になっているか。
・経験や技能、役割や責任を賃金に反映できているか。
・固定残業代や各種手当の計算方法は適切か。
・今後の賃上げに必要な原資を把握できているか。
・3年後、5年後の賃金水準を考えているか。
これからの運送会社には、ドライバーの待遇改善と、それを継続できる経営基盤の両方が必要です。
適正原価制度への対応も、その延長線上にあります。
【「自社の賃金制度は、これからの賃上げに対応できる仕組みになっているだろうか?」】
今回の調査結果を、そんな問いを考える機会にしていただければと思います。
運送会社の賃金制度の見直し・ご相談について
運送業専門社労士として、歩合給・固定給・固定残業代の見直しから、賃金規程、労働時間制度、36協定の整備まで、会社の実態に合った制度づくりを支援しています。
「賃上げを検討しているが、今の賃金制度のままでよいのか」
「適正原価制度への対応を見据えて、賃金制度を見直したい」
このような課題をお持ちの運送会社経営者の方は、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございます。
運送業専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/
参考資料
厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/
国土交通省「適正原価の設定に向けた有識者検討会」
https://www.mlit.go.jp/


