運送会社の賃金制度、今のままでいいのか?――歩合給・固定給・採用難から考える
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「うちのドライバーには、毎月30万円を支払っています」
運送会社の経営者から、このような説明を受けることがあります。
しかし、その30万円はどのような賃金で構成されているのでしょうか。
基本給30万円でしょうか。
基本給20万円と歩合給10万円でしょうか。
それとも、基本給に固定残業代を組み合わせた30万円でしょうか。
【実は、給与総額が同じ30万円でも、賃金の構成によって残業代の計算方法が異なります。】
しかも、歩合給と固定給では、計算に使う労働時間数も、割増賃金の考え方も違います。
運送会社では、長年使ってきた給与計算方法をそのまま引き継いでいるケースもあります。
今回は、固定給と歩合給の割増賃金計算について、具体的な数字を使って考えてみましょう。
1.固定給と歩合給では、何が違うのか?
固定給は、基本給や職務手当など、あらかじめ定められた金額を支払う賃金です。
一方、歩合給は、売上、走行距離、配送件数など、仕事の成果に応じて金額が決まる賃金です。
運送会社では、固定給と歩合給を組み合わせた賃金制度も多く見られます。
ここで重要なのは、
【固定給と歩合給では、法定時間外労働に対する割増賃金の計算方法が異なる】
ということです。
固定給の場合、月給額を原則として1か月平均所定労働時間で割り、時間単価を求めます。
歩合給の場合は、その賃金計算期間の歩合給を総労働時間で割り、時間単価を求めます。
そして、法定時間外労働に対する割増賃金は、原則として次のように計算します。
固定給部分
固定給 ÷ 1か月平均所定労働時間 × 1.25 × 法定時間外労働時間
歩合給部分
歩合給 ÷ 賃金計算期間の総労働時間 × 0.25 × 法定時間外労働時間
※いずれも法定時間外労働が月60時間以内の場合の基本的な計算例です。
なぜ、固定給は1.25倍で、歩合給は0.25倍なのでしょうか。
ここが、今回最も理解していただきたいポイントです。
2.なぜ歩合給の残業代は0.25倍なのか?
固定給の場合、月給は原則として所定労働時間に対する賃金です。
そのため、法定時間外労働を行った場合には、通常の賃金100%に割増部分25%を加えた125%を支払う必要があります。
一方、出来高払制として認められる歩合給は、時間外労働を含む総労働時間の成果に対して支払われる賃金です。
そのため、通常の賃金100%部分は、すでに歩合給に含まれていると考えられます。
したがって、法定時間外労働については、原則として25%の割増部分を追加して支払うことになります。
【「歩合給だから残業代が不要」なのではありません。】
通常の賃金部分がすでに支払われているため、追加で支払う割増部分が異なるのです。
この仕組みを理解せず、単に「歩合給は残業代込み」と考えていると、未払い残業代の問題につながりかねません。
3.同じ月給30万円でも、残業代はこれだけ違う
それでは、具体例で比較してみましょう。
次の条件を設定します。
1か月平均所定労働時間:170時間
当月の総労働時間:200時間
法定時間外労働:30時間
深夜労働・法定休日労働:なし
比較する賃金:月額30万円
※計算方法を理解するための簡略化した例です。30万円には割増賃金の基礎から除外できる手当や固定残業代を含めず、歩合給は適法な出来高払制に該当するものとします。
ケース① 固定給30万円
固定給30万円を170時間で割ります。
300,000円 ÷ 170時間 ≒ 1,764.71円
これに1.25を掛け、30時間分を計算します。
300,000円 ÷ 170時間 × 1.25 × 30時間
= 約66,176円
これが法定時間外労働30時間に対する割増賃金です。
ケース② 固定給20万円+歩合給10万円
固定給部分と歩合給部分を、それぞれ計算します。
まず、固定給部分です。
200,000円 ÷ 170時間 × 1.25 × 30時間
= 約44,118円
次に、歩合給部分です。
100,000円 ÷ 200時間 × 0.25 × 30時間
= 3,750円
合計すると、
44,118円+3,750円
= 約47,868円
となります。
計算結果を比較すると
賃金構成 法定時間外労働30時間分
固定給30万円 約66,176円
固定給20万円+歩合給10万円 約47,868円
差額 約18,308円
※円未満の端数処理により実際の支払額は異なる場合があります。
同じ月額30万円でも、割増賃金の計算結果には違いが生じます。
ただし、ここで誤解していただきたくないことがあります。
【「歩合給を増やせば残業代を減らせる」という話ではありません。】
歩合給として認められるかどうかは、名称ではなく、実際の賃金の決定方法や支払いの仕組みなどによって判断されます。
また、歩合給の割合を増やすことで、ドライバーの収入が不安定になる場合もあります。
残業代の負担を減らすことだけを目的に賃金制度を変更するのは、適切な考え方とはいえないでしょう。
4.「歩合給」という名前なら、出来高払制になるのか?
ここも重要なポイントです。
例えば、毎月決まった金額を「歩合給」という名称で支払っている会社があったとします。
しかし、その金額が売上や配送件数などの成果と関係なく、実質的には固定的な賃金であれば、出来高払制としての取扱いが認められるとは限りません。
反対に、実際の成果に応じて計算されている歩合給であれば、その性質を踏まえて割増賃金を計算する必要があります。
裁判でも、歩合給の名称だけではなく、賃金の計算方法や実際の支払いの仕組みなどが問題になります。
つまり、
【賃金規程に「歩合給」と書いてあることと、法律上の出来高払制として認められることは、同じではありません。】
この点については、今後の連載で具体的な裁判例を取り上げて解説します。
5.歩合給には最低賃金と保障給の問題もある
歩合給については、残業代だけでなく、最低賃金や保障給にも注意が必要です。
労働基準法第27条では、出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、労働時間に応じた一定額の賃金保障を求めています。
また、自動車運転者の歩合給制度については、改善基準告示に関連する通達で、固定的給与と合わせて通常の賃金の6割以上が保障されるよう保障給を定める考え方が示されています。
そして、最低賃金についても、固定給と歩合給では時間額への換算方法が異なります。
固定給と歩合給を併用している場合には、それぞれを適切に時間額へ換算し、最低賃金との関係を確認する必要があります。
【「月額給与が高いから問題ない」という判断だけでは不十分です。】
賃金の構成や実際の労働時間を確認することが重要になります。
6.御社の給与計算は、賃金規程と一致していますか?
ここまでの説明を読んで、自社の給与計算を確認してみようと思った経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、次のような点です。
① 固定給と歩合給を区別して割増賃金を計算しているか。
② 歩合給の算定基準が賃金規程に明確に定められているか。
③ 歩合給の計算に使う総労働時間を正しく把握しているか。
④ 固定残業代を支払っている場合、その仕組みと超過額の精算は適切か。
⑤ 賃金規程、雇用契約書、給与明細、実際の給与計算が一致しているか。
特に運送会社では、賃金体系が長年の慣行によって形成されている場合があります。
そのため、経営者が把握している制度と、実際の給与計算が一致していない可能性もあります。
【「これまで問題にならなかったから大丈夫」とは限りません。】
労働時間規制や採用環境が変化する今こそ、賃金制度の仕組みを改めて確認する意味があります。
【まとめ――残業代の計算を知ることは、賃金制度を見直す第一歩】
今回、固定給と歩合給の割増賃金計算を比較しました。
同じ月額給与でも、賃金の構成や性質によって計算方法が異なることをご理解いただけたでしょうか。
しかし、ここでお伝えしたいのは、計算式を覚えることだけではありません。
【自社がどのような賃金制度を採用し、どのような考え方でドライバーに給与を支払っているのか。】
その仕組みを経営者自身が理解し、説明できることが大切です。
前回のコラムでは、次の問いを投げかけました。
【「自社はドライバーに何を提供し、どのような働き方を評価するのか?」】
その考えを賃金制度に反映するためにも、まずは現在の制度が適切に設計・運用されているかを確認する必要があります。
自社の賃金制度を一度点検してみませんか?
運送会社の賃金制度は、固定給・歩合給・固定残業代の組み合わせによって複雑になりがちです。
私は運送業専門社労士として、賃金制度の設計・見直し、就業規則・賃金規程の整備、労働時間制度との整合性の確認などに取り組んでいます。
「歩合給の計算方法が適切なのか分からない」
「固定残業代の仕組みを見直したい」
「採用・定着を考えて賃金制度を再構築したい」
こうした課題をお持ちの運送会社の経営者の方は、ぜひご相談ください。
次回は、**「ベテランは歩合給、新人は固定給――同じ会社で異なる賃金体系をどう考える?」**をテーマに、採用・定着と賃金制度の関係を考えます。
運送業専門社労士としての活動はこちら。
(公式LP)https://yutoli-sr.com/


