ドライバーが長期休職するとき、会社はどうする?――休職規程と休職・復職命令書の重要性
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
「うちは歩合給で支払っているから、残業代の計算も問題ない」
「時間外手当は給与明細にきちんと載せている」
運送会社の経営者から、こうした話を聞くことがあります。
しかし、賃金規程に「歩合給」と記載されていても、法律上の出来高払制賃金として認められるとは限りません。
同様に、給与明細に「時間外手当」と記載されていても、労働基準法で定められた割増賃金を支払ったことになるとは限りません。
近年の運送業に関する裁判例を見ていくと、共通する問題が浮かび上がります。
それは、
【賃金の名称や計算式だけでなく、実際に何の対価として支払われているのかが問われている】ということです。
1.「1運行いくら」なら歩合給なのか?
例えば、次のような賃金制度です。
東京から大阪までの運行は3万円。
東京から名古屋までの運行は2万円。
このように、運行ごとに単価を決めて支払う賃金を、歩合給としている運送会社があります。
しかし、
【「1運行いくら」と定めているだけで、法律上の出来高払制賃金になるわけではありません。】
ケイディエス事件(令和元年9月13日判決)では、運行ごとに定められた賃金の出来高払制該当性が問題になりました。
添付資料で紹介されているこの事件では、賃金規程や給与明細に歩合給としての定めがなく、支給額と労働の成果との関係も問題になっています。
重要なのは、単価を設定していることではありません。
その単価が、どのような仕事の成果を評価して決められているのか。
そして、会社とドライバーの間で、その賃金制度がどのように定められているのかです。
2.「残業代を増やすと歩合給が減る」仕組みは認められるのか?
次に、割増賃金の支払い方です。
国際自動車事件(最高裁・令和2年3月30日判決)では、時間外労働などに対する割増賃金が増えると、その分だけ歩合給が減る賃金体系が問題になりました。
熊本総合運輸事件(最高裁・令和5年3月10日判決)でも、賃金体系全体の仕組みが問題になっています。
例えば、運行実績などから月額給与40万円を決め、次のように振り分ける仕組みを考えてみましょう。
ある月は、基本給25万円、時間外手当10万円、調整手当5万円。
翌月は、基本給25万円、時間外手当13万円、調整手当2万円。
時間外手当は3万円増えています。
しかし、調整手当が3万円減っているため、給与総額は40万円のままです。
この例は判例そのものの計算式ではありませんが、問題の所在を理解するためのものです。
【残業代という項目が増えていても、通常の賃金を別の名目に振り替えているだけではないか。】
最高裁は、手当の名称だけでなく、賃金体系全体の中での位置づけや、時間外労働などに対する対価性を検討しています。
ここで問題となるのは、通常の労働時間に対する賃金と割増賃金を判別できるか、そして、その手当が実際に時間外労働などの対価として支払われているかという点です。
「時間外手当」という名称で支給していればよい、という話ではありません。
3.「売上歩合は認められない」という理解でよいのか?
令和6年5月15日、サカイ引越センター事件の東京高裁判決が注目されました。
この事件では、売上給、件数給、愛車手当、無事故手当などが、出来高払制賃金に当たるかが争われました。
裁判所は、問題となった各手当について、出来高払制賃金には該当しないと判断しました。
特に注目したいのは、
【会社の売上や作業件数が、ドライバーや作業員の労働の成果と、どのように結びついているのか】という点です。
売上は、営業担当者による価格交渉などにも左右されます。
作業件数が同じでも、作業量や運搬距離が同じとは限りません。
こうした事情が、出来高払制賃金としての判断に影響しました。
では、この判決によって、運送会社の売上歩合は認められなくなったのでしょうか。
私は、そのように一律に理解するのは適切ではないと考えます。
4.その後の裁判では、売上歩合も距離歩合も認められている
サカイ引越センター事件の後にも、歩合給の該当性が争われた裁判があります。
**正和自動車事件(東京地裁・令和6年11月29日判決)**では、タクシー乗務員の営業収入に応じて計算される歩合給が問題になりました。
この事件では、営業収入に応じて歩率が変わる複雑な仕組みも採用されていましたが、裁判所は、問題となった歩合給について出来高払制賃金としての性質を認めています。
また、**東輪ケミカル事件(福岡地裁小倉支部・令和7年3月27日判決)**では、トラック運転手の走行距離に応じて計算される賃金が問題になりました。
この事件では、毎月の計算書に走行距離や1km当たりの単価などが記載されており、距離に応じた賃金について出来高払制賃金としての性質が認められました。
一方、会社が主張した固定残業代としての性質は認められていません。
これらの裁判例から分かるのは、
【売上歩合だから認められない、距離歩合だから認められる、という単純な話ではない】ということです。
何を労働の成果として評価しているのか。
その成果と賃金額が、どのような計算方法で結びついているのか。
制度の内容と実際の運用を確認する必要があります。
なお、これらはそれぞれ異なる事案についての判断であり、裁判所が歩合給の判断基準を一律に変更したという意味ではありません。
5.裁判例を横断すると、何が見えてくるのか?
ここまでの裁判例を整理すると、運送会社が確認すべきポイントは三つあります。
【第一に、歩合給が労働の成果に応じた賃金になっているか。】
「運行手当」「業績給」「売上給」などの名称ではなく、どのような成果を、どのような計算方法で評価しているかが問われます。
【第二に、通常の賃金と割増賃金を区別できるか。】
給与総額を先に決めて、基本給や時間外手当に振り分けるだけの制度では、割増賃金の支払いとして認められない可能性があります。
【第三に、賃金制度の内容が明確で、実際の運用と一致しているか。】
賃金規程、雇用契約書、給与明細に記載された内容と、実際の計算方法が一致していることが重要です。
ドライバーが自分の賃金の計算方法を理解できるかどうかも、見直しの際には欠かせない視点です。
つまり、裁判例から見えてくるのは、単に歩合給の計算方法を工夫すればよいという話ではありません。
【会社が何を評価し、何の対価として、どのような根拠で賃金を支払っているのか。】
その仕組みを説明できることが重要なのです。
6.運送会社が見直したい、賃金制度の五つのポイント
裁判例を踏まえると、実務上は次の五つを確認しておきたいところです。
① ドライバーに賃金制度を説明しているか
何を評価し、どのように給与が決まるのか。従業員が理解できる説明になっているでしょうか。
② 賃金制度が複雑になりすぎていないか
長年の間に手当が増え、会社自身も支給目的を説明できない項目が残っていないでしょうか。
③ 就業規則・賃金規程・雇用契約書に反映しているか
歩合給の計算方法、出来高払制に必要な保障給、固定残業代の支給条件などを明確にしているでしょうか。
④ 割増賃金を適切に計算しているか
固定給部分と歩合給部分では、割増賃金の計算方法が異なります。
また、固定残業代を支給している場合も、法定の割増賃金に不足があれば追加支払いが必要です。
⑤ 労働時間を正確に把握しているか
運転時間だけでなく、荷待ち、荷役、点呼などの実態を把握しているでしょうか。
賃金制度を整備しても、労働時間の把握が不十分では、割増賃金を正しく計算できません。
7.「今まで問題がなかった」は、これからも大丈夫という意味ではない
運送会社の賃金制度は、会社の歴史とともに作られてきたものです。
先代から引き継いだ手当。
採用難に対応するために追加した手当。
給与総額を維持するために導入した調整手当。
それぞれに、導入した当時の事情があったはずです。
しかし、現在の労働時間や運行実態、賃金計算の方法に合っているとは限りません。
裁判例を知る目的は、他社の勝敗を眺めることではありません。
【自社の賃金制度を、第三者に説明できる仕組みにしておくこと。】
それが、未払い残業代のリスクを抑えるだけでなく、ドライバーにとって納得できる賃金制度を作ることにもつながります。
自社の賃金制度を、一度点検してみませんか?
「歩合給として支払っているが、計算方法に不安がある」
「固定残業代や調整手当があり、賃金体系が複雑になっている」
「賃金規程と実際の給与計算が一致しているか分からない」
こうした運送会社では、賃金制度と労働時間制度を一緒に点検することをおすすめします。
運送業専門の社会保険労務士として、賃金制度・労働時間制度の点検、見直し、就業規則・賃金規程の整備を支援しています。
【裁判例を踏まえて、自社の賃金制度がどのような状態にあるのか確認したい。】
そのような運送会社の経営者の方は、ご相談ください。
運送業専門社労士としての活動はこちら。
公式LP:https://yutoli-sr.com/


