運送会社の変形労働時間制は本当に必要か?制度と現場の実態が合わない理由【第1部】
運送業・企業型DC・助成金専門社会保険労務士の吉元です。
【36協定を守っていても、改善基準告示に違反することがある】
前回の第1部では、運送会社の変形労働時間制について、制度の目的と実際のドライバーの働き方が合っているかという問題を取り上げました。
今回は、その続編です。
トラックドライバーの労働時間管理について、次のような認識はないでしょうか。
「36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ているから問題ない」
「時間外労働を年間960時間以内に抑えているから大丈夫」
「デジタルタコグラフで運転時間を管理しているから、労働時間管理はできている」
しかし、これだけでは十分ではありません。
トラックドライバーには、労働基準法に加えて、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準、いわゆる「改善基準告示」が適用されます。
重要なのは、労働基準法と改善基準告示を、別々の規制として理解したうえで、両方を重ねて管理することです。
今回は、運送会社の経営者や運行管理者が理解しておきたい改善基準告示の基本と、実務上の注意点を解説します。
1. 労働基準法と改善基準告示は何が違うのか?
労働基準法では、主に次の事項を規制しています。
① 法定労働時間
② 休憩時間
③ 休日
④ 時間外労働・休日労働
⑤ 36協定と時間外労働の上限規制
一方、改善基準告示では、トラックドライバーの働き方に合わせて、次の事項を規制しています。
① 拘束時間
② 休息期間
③ 運転時間
④ 連続運転時間と運転の中断
⑤ 休日労働
なぜ、2つのルールがあるのでしょうか。
トラックドライバーは、運転だけでなく、荷待ち、荷役作業、点呼など、さまざまな業務を行います。
また、長時間の拘束や休息不足は、ドライバーの健康だけでなく、交通事故のリスクにも関係します。
そのため、単に労働時間や残業時間を管理するだけでなく、勤務の開始から終了までの拘束時間や、次の勤務までの休息期間なども管理する必要があるのです。
36協定は時間外・休日労働を管理するための仕組みであり、改善基準告示は自動車運転者特有の働き方を規制する基準です。
両者は、どちらか一方を守ればよいという関係ではありません。
2. 労働時間と拘束時間は同じではない
改善基準告示を理解するうえで、最初に整理したいのが「労働時間」と「拘束時間」の違いです。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
例えば、次のような時間が該当します。
トラックを運転している時間
荷物の積み込みや荷卸しをしている時間
点呼や業務上必要な作業を行っている時間
使用者の指示を待ち、自由に利用できない荷待ち時間
一方、拘束時間とは、始業から終業までの時間です。
労働時間だけでなく、勤務中の休憩時間も含みます。
例えば、次のような勤務を考えてみましょう。
始業:午前7時
終業:午後8時
途中の休憩:1時間
この場合、拘束時間は13時間です。
休憩が適切に与えられ、その他の時間が労働時間に該当するなら、労働時間は12時間になります。
つまり、労働時間と拘束時間は同じではありません。
労働時間を把握しているだけでは、改善基準告示の拘束時間を管理できているとは限らないのです。
3. 拘束時間には1日・1か月・1年の基準がある
2024年4月から適用されている改善基準告示では、トラックドライバーの拘束時間について、主に次の基準が設けられています。
区分
基本となる基準
1日の拘束時間
13時間以内を基本、上限15時間
1か月の拘束時間
原則284時間以内
1年の拘束時間
原則3,300時間以内
なお、労使協定による月・年の拘束時間の延長や、一定の長距離貨物運送に関する例外などがあります。
例えば、ある月の時間外労働が36協定の範囲内であっても、1か月の拘束時間が改善基準告示の上限を超えていれば問題になります。
反対に、拘束時間が改善基準告示の範囲内であっても、36協定の上限を超える時間外労働が認められるわけではありません。
ここで重要なのは、36協定の時間外労働と改善基準告示の拘束時間では、管理する時間の範囲が違うということです。
運送会社では、どちらも確認できる管理体制が必要です。
4. 休憩時間と休息期間を混同していないか?
次に、非常に重要なのが「休憩時間」と「休息期間」の違いです。
休憩時間
労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上の休憩を、労働時間の途中に与える必要があります。
休憩時間は、労働から解放され、自由に利用できる時間です。
休息期間
一方、改善基準告示の休息期間は、勤務終了後から次の勤務開始までの、使用者の拘束を受けない期間です。
トラックドライバーについては、継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らないこととされています。
例えば、午後10時に勤務を終え、翌朝6時に勤務を開始した場合、休息期間は8時間です。
勤務中に十分な休憩を取っていたとしても、勤務終了後の休息期間が不足していれば、改善基準告示上の問題が生じます。
ただし、休息期間についても、一定の長距離貨物運送などに関する特例があります。
ここで経営者や運行管理者に考えていただきたいことがあります。
ドライバーの翌日の始業時刻を決めるとき、前日の終業時刻を確認していますか?
勤務の終了と次の勤務の開始を一体として管理することが重要です。
5. 運転時間と連続運転時間にも制限がある
改善基準告示では、運転時間についても基準が設けられています。
◆運転時間
① 2日を平均して1日9時間以内
② 2週間を平均して1週間44時間以内
ここでいう運転時間は、労働時間全体ではなく、実際に運転している時間です。
荷役作業や荷待ち時間などは、運転時間には含まれませんが、労働時間に該当する場合があります。
◆連続運転時間
連続運転時間は、原則4時間以内です。
運転の中断については、1回おおむね10分以上、合計30分以上などの基準があり、原則として休憩を与える必要があります。
また、運転の中断については、一定の場合に1回10分未満の中断を認める取扱いなど、細かな規定もあります。
したがって、運転時間をデジタルタコグラフなどで把握するだけでは十分ではありません。
連続運転時間や運転の中断が適切かどうかも確認する必要があります。
さらに、運転の中断として記録されていても、その時間に荷役作業などを行っていれば、休憩として扱えるかという問題が生じます。
運転していない時間が、すべて休憩時間になるわけではないのです。
6. 36協定と改善基準告示を「二重チェック」する
ここまでの内容を整理しましょう。
運送会社の労働時間管理では、2つの視点が必要です。
チェック1. 労働基準法と36協定
◆法定労働時間を超える労働を適切に管理しているか
◆36協定を締結・届出しているか
◆協定で定めた時間外・休日労働の範囲内か
◆自動車運転業務の年間時間外労働960時間の上限を守っているか
◆割増賃金を適切に計算・支払っているか
チェック2. 改善基準告示
◆1日・1か月・1年の拘束時間を守っているか
◆勤務終了後の休息期間を確保しているか
◆2日平均・2週平均の運転時間を守っているか
◆連続運転時間と運転の中断を適切に管理しているか
◆休日労働の回数などを適切に管理しているか
例えば、時間外労働が年間960時間以内であっても、拘束時間や休息期間が改善基準告示に適合しているとは限りません。
反対に、改善基準告示の拘束時間を守っていても、36協定の範囲を超えた時間外労働や、未払い残業代の問題が生じることがあります。
「36協定を守っているから大丈夫」「改善基準告示を守っているから大丈夫」という考え方では、適切な労働時間管理はできません。
両方を重ねて確認する必要があります。
7. 労働時間管理の問題は、運送会社だけで解決できるのか?
ここで、もう一つ考えておきたいことがあります。
ドライバーの拘束時間や労働時間は、運送会社の管理だけで決まるわけではありません。
例えば、
① 荷主の都合による長時間の荷待ち
② 荷役作業の追加や予定外の作業
③ 納品時間の指定による運行計画の制約
④ 急な運送依頼や運行予定の変更
こうした事情によって、ドライバーの拘束時間が長くなることがあります。
もちろん、労働時間管理の責任は運送会社にあります。
しかし、運送会社だけが努力しても、荷主や取引先の協力がなければ改善が難しい場合があります。
だからこそ、労働時間管理は単なる労務管理の問題ではありません。
配車計画、取引条件、運賃交渉、荷主との協議など、経営全体の問題として考える必要があります。
ここには、物流2024年問題の本質的な課題が含まれています。
8. 経営者が確認したい5つのポイント
最後に、運送会社の経営者が確認しておきたい項目を整理します。
① 36協定と改善基準告示を別々に管理していないか?
両方の基準を確認できる仕組みになっているでしょうか。
② 労働時間と拘束時間を区別して記録しているか?
始業・終業時刻だけでなく、休憩時間の実態も把握できているでしょうか。
③ 休息期間を翌日の配車計画に反映しているか?
前日の終業時刻を踏まえて、翌日の始業時刻を決めているでしょうか。
④ 荷待ち時間や荷役時間を適切に把握しているか?
運転時間だけでなく、労働時間全体を管理できているでしょうか。
⑤ 労働時間の問題を運行管理や取引条件の問題として考えているか?
長時間労働の原因を把握し、必要に応じて配車計画や荷主との取引条件を見直しているでしょうか。
これらを確認することで、現在の労働時間管理に改善の余地があるかを考えることができます。
まとめ. 変形労働時間制・36協定・改善基準告示を一体として考える
第1部では、変形労働時間制が運送会社の実際の働き方に合っているかという問題を取り上げました。
今回の第2部では、36協定と改善基準告示の関係を解説しました。
運送会社の労働時間管理では、次の3つを一体として考えることが重要です。
① 変形労働時間制などの労働時間制度が、実態に合っているか
② 36協定に基づく時間外・休日労働を適切に管理しているか
③ 改善基準告示の拘束時間、休息期間、運転時間などを守っているか
これらのうち、一つだけを確認しても十分ではありません。
私は運送会社の賃金制度、労働時間制度、就業規則、賃金規程などの整備に携わってきました。
その経験から、運送会社の労務管理では、制度を整えるだけでなく、実際の運行や働き方との整合性を確認することが大切だと考えています。
労働時間管理は、法律の数字を守るだけの問題ではありません。
ドライバーの健康と安全を守り、会社の事業を継続するための経営課題でもあります。
そして、運送会社だけでは解決できない課題については、荷主や取引先との関係も含めて考えていく必要があります。
YUTOLI 社会保険労務士・FP事務所
運送業・企業型DC・助成金専門社労士
運送会社の賃金制度、労働時間制度、36協定、就業規則・賃金規程の整備などについてご相談を承っています。
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