賃金制度は「給与の計算方法」ではない。評価したい行動を“給与項目として構造化する仕組み”だ。

吉元康裕

吉元康裕

テーマ:人事評価・定着

運送業専門社労士の吉元です。

■ 前回のキャリアパス編とのつながり
前回の投稿では、運送会社にすでに存在しているキャリアを“見える化”する重要性について書きました。

キャリアは現場にすでに存在している。 ただし、体系化されていないだけ──という話でした。

今回はその続きとして、 キャリアと必ずセットで語るべき「賃金制度」について深掘りします。

■ 賃金制度は「給与の計算方法」ではない
多くの会社で、賃金制度=給与の計算方法だと思われています。

しかし本質は違います。

賃金制度とは、 会社が評価したい行動を、給与項目として構造化する仕組みです。

現場にはすでに価値が存在しています。

安全

品質

顧客評価

応援

指導力

積載効率

燃費

ただし、 給与にどう反映されるのかが見える形になっていない会社が多い。

つまり、 価値はあるのに、賃金制度として言語化されていない。 これが問題の本質です。

■ 歩合給=成果主義ではない
「歩合給=頑張った分だけ稼げる」と単純に考えるのは、裁判例を踏まえると危うい理解です。

荷主の都合、交通事情、積み地の段取り、積載効率など、 ドライバーの努力だけではコントロールできない要素が多く、 実際には“成果”というより 仕事量の変動 が給与に反映されているに過ぎません。

歩合給は成果主義ではなく、 仕事量の変動を給与に反映する仕組みです。

参考【運送業の❝気になる話❞】S社事件の“誤解”と歩合給の実務上の混乱を正すため、今こそ歩合給の正しい意味を整理します|YUTOLI 運送業専門社労士・吉元康裕

■ 固定給=安定ではない
固定給は「安定」ではなく、 会社が仕事量の変動リスクを負担する給与構造です。

固定給でも、

残業代の計算が誤っている

固定残業代の明確性が不足

賃金規程が古い

労働時間管理が曖昧

こうした理由で未払い残業代は普通に発生します。

■ 固定給と歩合給の残業代計算の違い
複雑なのではなく、 計算方法の違いを知らないだけです。

● 固定給の残業代単価
月の所定労働時間で割って、時間単価を算出。

● 歩合給の残業代単価
月の総労働時間(残業時間を含む)で割って、時間単価を算出。

この違いを理解していないために、 歩合給の残業代が誤って計算されているケースが多いのです。

参考【運送業の❝気になる話❞】歩合給と固定給の“本当の違い”──誤解しやすいポイントと正しい計算方法|YUTOLI 運送業専門社労士・吉元康裕

■ 固定残業代の誤解
固定残業代は「ブラック」ではありません。 正しく設計すれば、むしろ透明性が高い制度です。

裁判例で争点になるのは常に “明確性”があるかどうか。

参考【運送業の❝気になる話❞】固定残業代の“落とし穴”──判例が示す運送会社のリスクと有効運用のポイント|YUTOLI 運送業専門社労士・吉元康裕

■ 2024年問題・環境変化は賃金制度に直結している
キャリアの変化は環境変化で起きている── これは前回の投稿でも触れました。

同じことが賃金制度にも当てはまります。

長距離の減少

中継輸送の増加

地場・短距離の比率増加

拘束時間の制限

荷主のリードタイム短縮

燃料高騰

労働時間管理の厳格化

これらは、 賃金制度の設計に直結する“外部要因”です。

にもかかわらず、制度が昔のままの会社も少なくありません。

■ 賃金制度は「会社の戦略」とセットで設計する
賃金制度は、会社の戦略によって変わります。

地場中心の会社

中距離中心の会社

幹線輸送中心の会社

トレーラー比率が高い会社

高齢者比率が高い会社

若手育成を重視する会社

これらによって、 反映すべき評価軸・給与構造が変わるのです。

■ 賃金制度の設計ステップ(簡易版)
STEP1:現状の把握(データ × 現場 × 経営者の評価軸)

賃金データ

労働時間

運行形態

コース別の特徴

経営者が評価したい行動

現場の不満・課題

STEP2:未払い残業代のリスク診断(固定給・歩合給の違い)
固定給 → 月の所定労働時間で時間単価を算出

歩合給 → 月の総労働時間(残業含む)で時間単価を算出

固定残業代の明確性

裁判例に照らしたリスク確認

STEP3:評価したい行動の“構造化”(手当の最小化)
例:

安全 → 無事故手当

品質 → 配送品質評価手当

応援 → 応援手当

指導力 → 指導手当

積載効率 → 積載率評価手当

燃費 → 燃費評価手当

ただし、 手当は増やせば良いわけではありません。 評価したい行動を“必要最小限”に絞ることが制度の安定性につながります。

■ 最後に
賃金制度は「給与の計算方法」ではなく、 会社が評価したい行動を、給与項目として構造化する作業です。

ただし、STEP4以降(賃金構造の設計・シミュレーション・賃金規程作成)は 法律・裁判例・労働時間管理・最低賃金・固定残業代の明確性など 専門領域が多く、会社だけで設計するのは非常に難しい部分です。

私の方では、 未払い残業代ゼロ・公平性・分かりやすさ・運用しやすさを満たす賃金制度の設計を専門としており、 実際のデータ分析から制度設計、賃金規程作成、説明会まで 一貫してサポートしています。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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吉元康裕
専門家

吉元康裕(社会保険労務士)

YUTOLI社会保険労務士・FP事務所

運送業の労働時間や賃金の課題に対応。2024年問題や36協定を踏まえ、ドライバーの勤務実態に応じた制度運用を支援します。幅広い業種で企業型DCの導入や就業規則の作成・見直しも手掛けています。

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