ドライバー不足なのに、なぜ採用できないのか?――「人を採る会社」から「人に選ばれる会社」へ ナビタイム調査から考える、運送会社の「採用・定着」の本当の課題
運送業専門社労士の吉元です。
〜ドライバー不足時代に生き残るための「制度化」の話〜
前回は「年齢で処遇しない時代へ」というテーマで、 運送業に必要な“職務・評価・キャリア”の仕組みについてお話ししました。
今回はその続編として、 「では、運送会社は何から人事制度づくりを始めればいいのか?」 という実務的なステップをまとめます。
ステップ1:経営理念・人事方針の策定
制度づくりの出発点は、会社が何を大切にするかを明確にすることです。
運送会社であれば、
安全最優先
法令順守
働き方改革への適応
顧客品質の維持向上
この4つを理念に入れることで、制度全体がブレなくなります。
「どんな人材を求め、どう報いるか」 この方針があるだけで、評価制度も賃金制度も一貫性が生まれます。
ステップ2:職務の整理
制度づくりの最初の実務は、職務の棚卸しです。
運送会社では、
ドライバー
運行管理者
配車
点呼
事務
安全教育 など、役割が混在しがちです。
まずは、 「誰が、どの業務を、どこまで担当しているか」 を整理することが重要です。
これを怠ると、評価項目が曖昧になり、制度が形骸化します。
ステップ3:職務ごとの“求める役割”を言語化する
職務を整理したら、次は 「その職務に求める責任・成果」 を言語化します。
例:ドライバー
安全運行(事故ゼロ・違反ゼロ)
顧客対応
時間管理
車両管理
生産性(運行効率)
例:運行管理者
点呼
運行計画
労務管理
安全指導
コンプライアンス対応
ここで重要なのは、 「運転スキルの高さ=評価」ではない ということです。
安全運転(デジタコ・ドラレコ基準)や、 ホワイトな働き方を守れることを最上位の役割に置くことで、 会社の理念と評価制度が一致します。
また、
地場
中長距離
定期便
スポット など運行パターンごとの肉体的負荷も整理しておくと、 公平な評価につながります。
ステップ4:キャリアパスをつくる
評価項目を作る前に、 「社員がどんな成長ルートを歩めるか」 を決めることが重要です。
運送業の離職理由の多くは、
将来の見通しが持てない
この会社で長く働くイメージが湧かない という“キャリア不安”です。
そこで、
専門職ルート(生涯ドライバー)
管理職ルート(運行管理者など) の複線型キャリアを用意します。
さらに、 体力が落ちたシニア層が、
地場便
倉庫作業
新人指導(横乗り) へ移行できるルートを用意することで、 高齢者の雇用延長がスムーズになります。
ステップ5:評価項目の作成
役割とキャリアパスが決まったら、評価項目を作ります。
ポイントは2つ。
1. 項目は「3〜5個」に絞る
細かすぎると現場が運用できません。
例:
安全(事故・違反ゼロ)
品質(誤配・破損ゼロ)
燃費(エコドライブ)
協調性(急なシフト変更への協力度)
事務処理(日報提出・報告連絡)
2.主観を排除する
「頑張っている」ではなく、 デジタルデータや事実で評価する仕組みが必要です。
ステップ6:賃金制度の確認・再構築
評価制度は「賃金に反映するため」に作るものです。 そのため、賃金制度が曖昧だと評価制度は機能しません。
よくある問題
基本給の根拠が不明
手当が属人的
歩合給の計算方法が曖昧
昇給ルールが存在しない
賞与の支給基準がない
退職金制度が慣習ベース
未払い残業代・未払い賃金が発生している (就業規則・賃金規程に定義や計算方法が書かれていないことが原因)
方向性としては、 「固定給+運行(歩合)+評価手当」のハイブリッド型が現実的です。
働き方改革で労働時間が短くなる中、 完全歩合給では給与が下がり離職につながるため、 固定給を高めに設定することが重要です。
ステップ7:評価を給与にどう反映するか
評価制度は、給与に反映されて初めて意味を持ちます。
反映方法は3つ。 ① 評価手当 ② 基本給の昇給 ③ 賞与(ボーナス)
運送業では、 評価手当として月例給与に反映する方法が最も運用しやすい という傾向があります。
ステップ8:高齢者の働き方を制度に組み込む
高齢者を「どう扱うか」ではなく、 「どう活かすか」という視点が重要です。
例:
夜勤なし
地場配送中心
点呼・運行管理への転換
安全教育担当
車両管理・洗車・構内作業
体力は落ちても、 安全意識が高くルートを熟知しているシニアは会社の宝です。
ステップ9:退職金制度・企業型DCの検討
退職金制度は、今後の採用・定着の大きな武器になります。
最近は、
退職一時金廃止
企業型DC(確定拠出年金)への移行 が進んでいます。
企業型DCには、会社・社員・経営者の全員にメリットがあります。
1.会社のメリット
退職給付債務ゼロ(財務リスクが消える)
採用力が上がる(若手に強い)
節税効果(会社拠出は損金)
退職金制度を“制度として見える化”できる
2.社員のメリット
掛金は全額所得控除
運用益非課税
受取時に優遇税制(退職所得控除など)
将来の資産形成ができる
選択制なら手取りが増える(社保負担減)
3.経営者自身のメリット
経営者自身も加入できる(中小企業の大きな利点)
会社拠出で“自分の退職金”を積み立てられる
節税しながら老後資産を形成できる
役員退職金の代替としても使える
中小運送会社でも、 企業型DCを導入することで若手採用に強い会社になります。
ステップ10:運用ルール策定と社員説明会
制度は作って終わりではありません。
評価マニュアル作成
評価者(管理職)研修
全社員への制度趣旨説明
この3つをセットで行うことで、制度が会社に根付きます。
最後に
人事制度は「一気に作るもの」ではありません。 理念 → 職務 → 役割 → キャリア → 評価 → 賃金 → 高齢者 → 退職金制度 という順番で、少しずつ整えていくものです。
次回以降は、各ステップをさらに深掘りしていきます。
最後までお読みいただきありがとうございます。


