ノーベル化学賞候補
地震、豪雨、台風などの大規模災害が発生した際、重要になるのは発災直後の救命医療だけではありません。
避難生活の長期化に伴う体調悪化、慢性疾患の管理、服薬の継続、感染症への対応など、被災後の健康管理をいかに継続するかも大きな課題となります。
しかし災害時には、医療機関そのものが被災する可能性があります。医師や医療スタッフが出勤できない、道路が寸断される、特定の医療機関に患者が集中するなど、平時と同じ医療提供体制を維持することが難しくなります。
そこで、災害時の医療継続を支える手段の一つとして期待されるのが遠隔医療です。
医療資源を「場所」から切り離す
遠隔医療の大きな特徴は、患者や医療情報と、専門的な知識を持つ医師が必ずしも同じ場所にいる必要がないことです。
通信環境が確保できれば、被災地から離れた医療機関や医師が、診療情報や画像などを共有しながら支援することが可能になります。
例えば、被災地域でCTやMRIなどの検査を実施できても、画像診断を担当する専門医が不足している場合には、画像データを被災地域外の医療機関へ送信し、遠隔画像診断によって専門医の支援を受けるという方法が考えられます。
これは、限られた医療資源を地域の中だけで完結させるのではなく、地域を越えて医療資源を共有するという発想です。
一つの医療機関に依存しない体制へ
災害対策では「バックアップ」が重要です。
画像診断についても、一つの医療機関、一人の専門医、一つの地域だけに依存した体制では、大規模災害によって機能が停止するリスクがあります。
平時から複数の医療機関が連携し、必要に応じて画像や診療情報を安全に共有できる仕組みを整えておけば、災害時にも地域外の医療機関が支援できる可能性が高まります。
つまり、保険医療機関間の遠隔医療ネットワークそのものをBCP(事業継続計画)の一部として考えることができます。
遠隔医療だけでは災害医療は成立しない
一方、遠隔医療は通信や電力がなければ十分に機能しません。
そのため、非常用電源、複数の通信手段、医療情報のバックアップ、サイバーセキュリティ、患者情報を共有するための運用ルールなどを平時から準備しておく必要があります。
重要なのは、災害が発生してから遠隔医療を導入することではありません。
平時から使っている仕組みを、災害時にも使えるようにしておくこと。
日常的に医療機関同士が連携していれば、災害発生時にも同じネットワークや運用経験を活用できます。
「遠隔医療」を地域医療の社会インフラへ
遠隔医療の役割は、医師不足への対応や業務効率化だけではありません。
平時には、専門医の負担軽減や地域医療格差の縮小を支援し、災害時には、被災地域の医療機能を地域外から支える。
こうした「平時と有事の両方で機能する医療連携」を構築することが、これからの地域医療に求められる重要な視点ではないでしょうか。
災害が起きたときにも、必要な医療を止めない。
そのために、医療機関の壁や地域の境界を越えて支え合える遠隔医療の仕組みを、平時から社会インフラとして育てていくことが重要です。


