投信の手数料打ち切りも 米国投資家に学ぶべきコト
「大学ファンド」の2025年度運用リターンは+10.7%でした。
一方でGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2025年度リターンは+16.47%でした。
どちらもプラスリターンではありますが、その差は5.77%と無視できない大きさです。
では、なぜこれだけ差がついたのでしょうか?
大学ファンドのリターンはGPIFより劣っている?
大学ファンド 2025年度運用データ
大学ファンド・2025年度の収益率は+10.7%。
資産別では、グローバル債券+3.0%、グローバル株式+27.2%、オルタナティブ+17.1%でした。
出所:国立研究開発法人科学技術振興機構 『2025年度 業務概況書 -大学ファンドの運用状況等-』
GPIF 2025年度運用データ
GPIF・2025年度の収益率は+16.47%。
資産別では、国内債券-5.11%、外国債券+12.33%、国内株式+34.62%、外国株式+27.16%でした。
出所:GPIF『2025年度 業務概況書』等
大学ファンドとGPIFは2025年度の全体リターンで5.77%もの差があります。
しかも、大学ファンドで最も多く配分されているグローバル債券の収益率は+3.0%に留まりました。
GPIFの外国債券+12.33%と比べると見劣りします。
なぜ、これほどの違いがあるのでしょうか?
なお、筆者は大学ファンドやGPIFの運用分析を生業にしている訳ではありません。また、どちらにも勤務経験があるわけでもありません。
投資アドバイスのプロの立場から、疑問に感じた点や違和感の中身について私見を述べるものです。
「グローバル債券」の中身は?情報開示は検証できるレベルか?
公開資料では、大学ファンドのグローバル債券には国内債券が含まれるとされています。
つまり、この「グローバル債券」は、GPIFの外国債券と同じカテゴリーではありません。
GPIFの「外国債券」「国内債券」の配分比率も含めて、大学ファンドとGPIFの比較をしたいと考えました。
しかし公開資料では用語の定義が異なるため、「比較可能」では無いのです。
大学ファンドの2025年度業務概況書では、
上位保有銘柄として米国債、日本国債、英国債、フランス国債、スペイン国債などが開示されています。
しかし、GPIFと比較可能な情報が開示されているとは言えないでしょう。
国内債券と外国債券の比率はどうか。
国債・社債・MBS・ABSの構成比はどうか。
投資適格債とハイイールド債の比率はどうか。
ヘッジあり・なしの内訳はどうか。
仕組債は入っているのか。
今回確認した公開資料からは、こうした点を十分に読み取ることはできません。
上位銘柄を見る限り、露骨に「仕組債」と分かるものは確認できませんが、だからといって「入っていない」と断言することもできません。
大学ファンドとGPIF、差の背景にある資産構成の違い
大学ファンドの2025年度末の資産構成は、グローバル債券56.8%、グローバル株式28.8%、オルタナティブ13.9%、短期資産0.4%です。
これに対しGPIFは、国内債券26.91%、外国債券24.48%、国内株式23.81%、外国株式24.80%と、主要4資産にかなり均等に近い配分です。
2025年度は株高の恩恵が大きかった年と言えます。
株式比率が高く、かつ広く分散されたGPIFの方が有利になるのは当然の結果でしょう。
大学ファンドは借入金インパクト大
大学ファンドは運用資金10兆円のうち、約9割を財政融資資金からの借入に依存しています。
政府出資金1兆1,111億円に対し、財政融資資金8兆8,889億円です。
つまり、大学ファンドは単なる長期投資家ではなく、借入金を抱えた上で運用している主体です。
資金繰りやリスク管理の発想がGPIFと異なるのは当然なのでしょう。
ただし、ここで重要なのは、「だから比較は難しい」で話を終えることではありません。
むしろ、ポートフォリオの違いがある、資金繰りの違いがある。
だからこそ、その差の中身を外部から検証できるような透明性の高い開示が必要ではないでしょうか?
不透明なヘッジコスト、リターン低迷の要因の一つか?
今回の差を考える上で、検討すべき内容が為替ヘッジです。
大学ファンドは、外貨建て資産の為替リスクの一部について、為替予約取引等を活用してヘッジを行っています。
2025年度末の外貨建て資産全体に対するヘッジ比率は41.7%で、通貨別では米ドル40.9%、ユーロ51.1%、その他33.9%です。
公開資料では、ヘッジしたことによる損益はグローバル債券に反映されていると説明されています。
しかし、肝心のヘッジコストはいくらだったのか。
これが業務概況書等の公開情報では開示されていません。
年間でいくらコストがかかったのか、どの程度リターンを押し下げたのか、という数字は単独では確認できないのです。
「ヘッジをしている」という説明だけでは不十分ではないでしょうか?
外から検証できる形の情報提供がない姿勢は、開示したくない事柄を隠したい意図があるのでは?と勘繰られても仕方がないのではないでしょうか?
これは、ガバナンスに問題がある開示のように感じるのは筆者だけでしょうか?
「運用手数料等173億円」では、知りたいことは分からない
2025年度業務概況書では、運用手数料等173億円という数字が出ています。
ただし、これはヘッジコストに限った費用ではありません。
大学ファンド側の説明では、運用手数料のほか、業務費、一般管理費、財政融資資金の支払利息等を含むとされています。
つまり、この173億円を見ても、「ヘッジにいくらかかったのか」は不透明なままなのです。
ヘッジを使った。
その結果はグローバル債券に入っている。
しかし、コストは切り出されていない。
・・・・・・。
ベンチマークに対して、十分な成果だったのかも見えにくい
大学ファンドの運用では、グローバル債券やグローバル株式について、それぞれ指標が定められています。
出所:2022年9月 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 『大学ファンドの運用について』P7より抜粋
債券については、FTSE世界国債インデックスとNOMURA-BPI総合を合成した考え方が示されています。
ところが、2025年度業務概況書で表記されているのはFTSE世界国債インデックスの変化率です。
日本円ベース10.4%、米ドルベース3.7%です。
一方で、NOMURA-BPI総合(除くABS)の年度リターン数値は業務概況書には見当たりません。
ここは読み手からすると、かなりチグハグです。
FTSE世界国債インデックスとNOMURA-BPI総合を合成した考え方を示していますが、
業務概況書ではFTSE世界国債インデックスのみの公表です。
NOMURA-BPIの計数発表が無いのです。
グローバル債券+3.0%が十分だったのか?評価できるか?
債券のベンチマークが、前述のように不明です。
野村BPIはベンチマークに含まれないのか、FTSE世界国債インデックスだけがベンチマークなのか。
GPIFが公表しているような、資産カテゴリー別の超過収益率も公表されていません
ベンチマーク対比が行いにくい公表だと思います。
グローバル債券+3.0%が、良かったのか、悪かったのか。
この公表資料では、外部から判断ができない、開示不十分だとも考えられるのです。
2025年度の国内債券環境が厳しかったことは、外部データからもある程度うかがえます。
だからこそ、大学ファンド側でも、国内債券部分を含めたベンチマーク対比を、もっと分かりやすく示すべきではないでしょうか。
グローバル債券の中身はどうなっているのか。
ヘッジコストはいくらだったのか。
ベンチマーク対比で十分な成果だったのか。
その観点を、外部の人間でも検証できるように、もっと高い透明性を持つ情報発信をする必要があるのではないでしょうか。
大学ファンドの事業内容は『世界最高水準の研究大学を形成するため、10兆円規模の大学ファンドを創設し、
研究基盤への長期的・安定的な支援を行うことにより、我が国の研究大学における研究力を抜本的に強化する』と記載されています。
(出所:2023年3月文部科学省『大学ファンドについて(概要)』より一部抜粋)
次世代の優秀な研究者や研究機関の研究力を強化するため、外部評価に十分対応するガバナンス体制を期待したいものです。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券その他の投資商品についての勧誘や、売買の推奨を目的としたものではありません。
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