世界ETF本数、10,826本に増加。資産規模は約2,073兆円に。17年で資産規模約22.22倍に拡大
iDeCo(個人型確定拠出年金)の初期設定で、予め投信を設定しようという動きが起こりつつあります。ある銀行は2018年5月から確定拠出年金の初期設定を「定期預金」ではなく「投資信託」に変える方針を表明しました。証券会社にも追随の動きが起こるでしょう。
米国の確定拠出年金では7割が投資信託などのリスク資産に対する投資です。ところが日本では元本確保型の比率が高いのが現状です。初期設定を変化させると、98%の人々がプログラムに参加するケースさえあります。初期設定の変更により、人々の資金は投信に向かうことになるでしょう。
■iDeCoの初期設定が「定期預金」問題点はどこにあるのか?
iDeCoとは自分で積立てた資金を、自分で運用商品を選択し60歳以後の老後資金に備える資産形成の制度です。運用益が非課税であることに加え、掛金が全額所得控除になるという大きなメリットがあります。
ところが、日本ではこの制度を導入していても、特に何も指定をしなければ、資金の向かう商品は「定期預金」となっているケースがほとんどです。投資でなく、元本型に向かう結果、利子よりもiDeCoの保有コストの方が高いため、毎年の運用は数千円のマイナスとなるケースが多いのです。
米国では確定拠出年金の7割が投信になっている背景に、こうした初期設定が「投資商品」になっていることが影響していると考えられています。
<初期設定の影響力は絶大 28%と98%の違い>
初期設定=デフォルトが意思決定に及ぼす影響は絶大です。行動心理学の著書で引用される、初期設定の違いで、その後の意思決定に大きな違いが出る事例を紹介します。
欧州で「臓器提供」の意思がある人の割合を調査し2003年に発表された結果では、オランダは28%で隣国のベルギーは98%という違いが出ました。実はオランダは臓器提供を促すように努力を行ってきましたが、結果は28%でした。両国の間における文化や国民性の違いには、大きな違いは無いとの意見が多くあります。しかし、なぜこのような違いになったのでしょうか?
オランダの臓器提供の意思は 「参加する人はチェックして下さい」となっているのに対して、ベルギーの臓器提供の意思は「参加しない人はチェックして下さい」となっているのです。
ベルギーの初期設定=デフォルト設定は「参加することが当たり前」になっています。「チェックすることで参加しない」というベルギーの前提では、チェックをしない「98%が参加」となっているのです。
■初期設定「ターゲット・イヤー型」の注意すべき点
今回のiDeCoにおける拠出金を投信に向ける方針に、筆者は基本的に賛成しています。預貯金の比率が高い日本では、リスクを取った運用をすべきだと考えているからです。そして、iDeCoの拠出金は最大でも年間で81万6千円、多くの会社員は年間20万円程度であり、これから資産形成をする部分に非課税メリットがあるため、ある程度高いリスクで運用することがメリットを享受する方法だと考えています。
しかしながら、ある銀行の初期設定では「ターゲット・イヤー型」となっているものがあります。このターゲット・イヤー型の注意すべき点を考察します。ターゲット・イヤー型というのは、年齢を重ねるにつれてリスクを下げ、債券型の比率を高めるといった商品設計のものです。一例で、日本国債に投資する部分を考えると、日本国債のリターンよりも、このターゲット型のコスト=信託報酬の方が高いならば、日本国債部分は損失を産み出す部分になってしまいます。 日本の10年債のリターンが0.053%、信託報酬が0.4536%とするならば、日本国債で運用する部分はマイナス0.40%と考えられます。
また別の事例で、国債だけでなく社債を含んだ日本債券のリターンが0.50%程度、コストが約0.24%の場合、コスト差引で0.26%程度のリターンが得られます。しかし資産配分のうち約50%が日本債券であれば、この部分のリターンは極めて限定的であることがわかるでしょう。
■初期設定に限らない商品選択と金融知識の充実
初期設定で「バランス型」を設定する場合も予想されます。上記の「ターゲット・イヤー型」同様にバランス型でも日本の債券部分を多く含んだ内容では、リターンが限定的でしょう。
信託報酬というコストが高い場合には、債券部分はリターンにほとんど寄与しなかったり、逆にその部分のリターンがマイナスとなるケースすら考えられます。
実際に企業型の確定拠出年金のセミナーの内容でいえば、投資初心者には「バランス型を」実質的に勧めている場合も多くあります。投資教育は始まったばかりで、金融機関が無料で開催している研修がほとんどであるからです。
企業型の確定拠出年金制度を担当する、人事・総務の担当者は大多数が「年金制度」や「運用商品」の専門家ではないでしょう。よくわからなければ、「金融機関のおススメ通りの内容で」となってしまう場合もあるかもしれません。しかし、会社が決定したラインナップによって、「従業員の運用コスト」の選択肢が決められてしまうことも事実です。
是非コストの面に注意をしてほしいと考えています。そして、長期運用では初期の導入コストよりもむしろ毎年の運用コストの差が大きな違いとなるのです。
自身の長期の運用となる投資家は、コストとリターンの関係をしっかりと理解してほしいのです。また企業の人事・総務担当者のかたには、年金制度の商品選択においては、運用コストにも注意をして商品ラインナップを選択していただきたいのです。今後、充実した投資教育の研修を実施する企業が増加し、金融経済知識を備えた投資家が増えることで、初期設定に限らない商品選択ができる投資家が増加することに期待をしています。貯蓄から資産形成へ資金が向かう日を心待ちにしております。
安東隆司 著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!!』等がある。