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トップ選手の功罪

安澤武郎

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テーマ:スポーツから学ぶ

タレント過剰効果


今年の日本シリーズ面白かったですね。前年最下位のヤクルトとオリックスが優勝し、日本シリーズでも熱戦を繰り広げました。スポーツの世界の話は共通の話題として理解しやすく、マネジメントにも参考になります。今回はスポーツの話から考えてみたいと思います。

組織力を最大化する際に、「チームワークにより個々の強みを掛け合わせて強いチームを作るべき」なのか、「突出した個を育てる、もしくは獲得することでチームを強くすべき」なのか、どちらが良いだろうか?という議論になることがあります。

もちろん両方ができれば良いわけですが、現実には難しい問題です。スポーツ界でもスーパースターを獲得してチームを強くしていくことは普通に行われていることですが、スーパースターを集めたチームが必ずしもうまくいっているとは限りません。

本当にスーパースター(トップ選手)を集めたらチームは強くなるのだろうか?ということを調べた「The Too-Much-Talent Effect(タレント過剰効果)」という論文がありましたので、その内容を少し紹介してみたいと思います。

この論文は、サッカー(ワールドカップ予選、2大会x約200チーム)とバスケットボール(NBA、10シーズンx30チーム)と野球(メジャーリーグ、10シーズンx30チーム)で、「チーム内のトップ選手比率」と「チーム成績」の相関を調べたものです。トップ選手をどういう基準で選ぶか、チーム成績を何で測るか、など分析の仕方によって結果に違いは出るでしょうが、選手の力量を分析しトップ選手にランク付けした選手がほぼオールスターに選出されているなど信頼性もある内容です。

その検証の結果分かったことは以下です。

① 人はトップ選手が多いほどチームが強くなると思っている
しかし、
②③ サッカーとバスケにおいて、
  トップ選手比率が一定の水準を超えるとチーム成績が下がる
④ 野球においては、
  トップ選手比率を高めるほどチーム成績は伸びる




タレント過剰効果



なぜサッカーとバスケにおいてトップ選手比率が上がるとチーム成績が下がるのか、野球においては下がらないのか、ということを調査すると、「人と人との相互作用」が高い場合に、トップ選手比率を高めすぎるとチーム成績が下がる、という結果でした。

例えば、バスケットボールの「アシスト数」「リバウンド数」などチーム内での連に関わる数値が落ちるという結果です。トップ選手はプライドがあってチーム内で競い合ってしまうのか、周りの選手と連携するよりも自分の力で決めようとしてしまうのか、連携の力が落ちる要因はもう少し分析が必要ですが、サッカーやバスケでは単に素晴らしい選手を集めただけでは勝てない傾向があるということです。

一方で、野球はトップ選手を集めすぎてパフォーマンスが下がるということはありません(4番バッターばかり集めるとかそういうことをすると落ちるでしょうが)。その理由は、連携の度合いが低いからということです。連携が全くないわけではありませんが、個人で完結するプレーが多いので、トップ選手の追加効果を得やすいということです。

この論文の分析は一般化したデータですので、全盛時のシカゴブルズのようにトップ選手が揃っていて強いチームもありますし、例外もあるでしょう(少し事例が古いか?)。しかし、多くの示唆を与えてくれるデータだと思います。

ビジネスの場合は?


ビジネスでマネジメントを考える際も、「人と人との相互作用」の度合いが高い組織では「連携力」が鍵になるでしょうし、「個々の仕事で完結する」ビジネスでは、優れた個を育てることが業績へのインパクトを与える重要な活動になるということが言えます。

そして、深掘りしてみると面白そうな問いもいくつか浮かんできます。
①「どうすればトップ選手同士での連携力を高め、最強のチームを作ることができるか?」
という点は、当然検討に値します。「自分の成功」と「チームの成功」は完全に一致するものではありませんし、これからの時代、労働流動性が高まると「自分の成功」を優先する人の比率が高まるかもしれません。企業としては、「連携力」のないトッププレーヤーを入社させることはリスクになるでしょうし、転職市場で「チームの成功」を尊重できる人物を見極めて採用をしていくことが必要になってきます。

②「トップ選手の加入により、周りのメンバーの能力が高まっているか?」
ということも考えたいところです。野球であってもトップレベルの投手が加入すると、練習で相手をする選手の力量も上がるということは起きます。この効果もチーム成績に加算されていると、トップ選手を入れる意義は大いにあります。しかし、意図してトップ選手と周りの選手が対戦する機会を設定するなど、工夫をしないとこの効果は限定的でしょう。企業においてもトッププレーヤーに業績だけを求めるのか、チームの成長も含めて求めるのかで変わってくるでしょう。

③「健全な新陳代謝(新しい選手との入れ替わり)が起きるトップ選手比率はどの程度か?」
ということも検討に値するでしょう。
日本企業の組織を考える際には、選手の入れ替えが簡単なプロスポーツと違って、「育成」の重要性が高まります。この研究ではカバーされていませんが、「長期的にチームの強さを維持する」ためにはトップ選手比率を高めすぎると不利になるでしょう。「トップ選手比率が高まり、ポジションが固定化をしてしまうと、その下の選手が試合に出られず育たない」という現象が起きるからです。

自分がトップ選手ならばどうする?


この「深掘りしてみると面白そうな問い」は全てトップ選手の存在価値に関わる問いです。大なり小なり組織の中には「できる社員」が存在します。企業のレベルによって「できる社員」のレベルもまちまちですが、その組織の中での中心選手という役割を担う人がいます。

この中心選手は自分の「連携力」を高めると、よりプレーヤーとしての価値が上がるということです(野球の場合であっても、周りの選手の能力を高める視点があるとよりチームは強くなる)。単一選手としての技量だけでなく、そのチームの中での存在価値という観点を持てると素晴らしいと思います。

中心選手の連携力を高めるコツは、「周りの人から学ぶ姿勢」にあります。
自分の間違えを認めたり、出来上がった自分の考えと違う考えを否定しなかったり、謙虚に取り組むことで高まります。
中心選手ですから技量はあります。周りの人より良い結果を出す力が高いので、自分の持っているものを正解だと考えがちです。そして、「自分が正しい」と考えて過ごしているうちに、「意見されない」「相談されない」「顔色を窺われる」存在になります。

そうなってしまうと、アシストはもらえないし、アシストをする頻度も落ちてしまいます。自分の存在によってチームのパフォーマンスは下がります。
「謙虚であり続けるトップ選手」が組織においては最強です。

これは、我々のような専門性を持つ職業をされている方にとっても注意が必要な観点でしょう。特に組織を変化させたり、経営を変化させるコンサルタントには「断言力」が必要な面もありますが、「断言力」が強すぎると「連携力」が落ちます。数多くの企業を見てきた経験や、組織マネジメントに関する知見では負けませんが、「その企業の事情」に関しては相手の方が専門家です。そういう専門性の違いを掛け合わせて組織のあり方を一緒に再考する仕事ですので「連携力」は大切です。

言葉のあやですが、提供するものを「成長法」と呼ぶと、受け手は成長するための正解を学ぶ姿勢になり、「再考法」と呼ぶと、一緒に探求を進める姿勢になります。「再考法を提供する存在であること」はトップ選手や人を指導する立場の人のスタンスとしてお勧めです。

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安澤武郎
専門家

安澤武郎(経営コンサルタント)

株式会社熱中する組織

どのような組織にも「常識の壁」「アクションの壁」「スキルの壁」「仕事のやり方の壁」「コミュニケーションの壁」「情熱の壁」があり、能力を活かしきれていません。その壁を取り除き、組織を生まれ変わらせます。

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