人材育成をスタートする際に考えて欲しいこと(1/3)
今年、京都大学で「マネジメント演習」の講義をさせて頂きました。
その中で気がついたことがあります。
それは、学生が取り組んでいるのは「自分が達成すること」が殆どで、
「他人を成功させる」こと に関する鍛錬をする機会が少ないということです。
塾の講師やサークル活動をしている人は多いかもしれませんが、
どこまで自分事としてそれに取り組んでいるかというと疑問が残ります。
また、先日は鹿島建設様で講演をさせて頂き、その質疑応答で問われたことは、
「後輩の育成をどうすれば良いか?」という質問でした。
実際の企業現場でも人を育てることに頭を悩まされている方は多くおられます。
そういう意味で、今回は「人材育成」に関して、一つの視点を提供させて頂きます。
■小さな輪
まず、子供の教育現場の事例を紹介したいと思います。
「お米のシューアイス(株式会社 洋菓子のヒロタ)」
という商品名を聞いたことはあるでしょうか?
これは小学校高学年の子供が企業と一緒に商品開発~販促までに携わり、
ヒット商品に育て上げた事例です。
創業90年の洋菓子屋の創業以来のヒット商品になっています。
元々は、小学生が「日本の食料自給率を高めよう」
という問題に取り組んだところからスタートしたのですが、
「食料自給率を高めるには、
主食であるお米をもっと食べるようにする必要がある」と考え、
企業に提案を持ち込んだのです。
ここで考えるべきは、
「小学生がなぜこんなことができるまでに成長したのか?」
「どのように導いたのか?」という点ではないでしょうか。
仕掛け人であるNPO法人コヂカラ・ニッポンの方に
お話を伺う機会がありましたので、その回答を紹介させて頂きます。
「子供を育てる際には、輪を少しずつ広げていくことが ポイントです。
いきなり『企業に提案しよう』と言ってもできません。
まずは、学級の中で意見を出させてみる。
地元の商店街で商売の経験をさせてみる。
そういう経験を経て、活躍できる場を少しずつ広げていくことで、
大きなチャレンジもできるようになるのです」ということです。
これは大人が成長する際にもあてはまる原則だと思いました。
多くの大人はそれまでの人生で数々のチャレンジをしてきているので、
既に器の容量が広がっていると思いがちですが、
全く経験をしたことが無い領域では子供と同じです。
いきなり、「自分で考えて主体的に挑戦してみろ」と言われても、
(できる人もいるのですが)できない人にはできないのです。
できない人には、「まずここを固めなさい」と
最初の小さな輪を設定してあげることが必要なのです。
多くの方には
「小さな自信を持てる部分を作ることで、
次のチャレンジができるようになり、輪が広がっていく」
という経験があるのではないでしょうか?
『学校の勉強で、得意科目を作ることによって、
勉強が面白くなり(自分に自信がつき)、他の教科の成績もよくなる』とか
『スポーツで、ここぞという時に頼れる技を持つことで、
余裕が出て自然体で闘える』といった経験です。
これを仕事に当てはめるとどんな事例が思い当たるでしょうか?
■ある企業の事例を紹介します。
新任営業マネージャーは、部門長から
「部下とのMTG(ミーティング)の実施」を
最初に取り組むべき事として設定されました。
「どんな事情があろうとも3日/週はMTGをしろ」ということです。
最初は、問題解決が上手くできません。
営業の結果をヒアリングするだけで終始し、
担当者もそのMTGの価値を感じられていない状態でした。
推測ですが、当初はMTGをしようとすると、
担当者の表情が曇ったのではないでしょうか?
そういうことを予測した部門長は、
担当者にも「MTGだけは義務だ」と伝え、
強制的に実践させたのでした。
しかし、MTGを重ねれば、担当者の考え足りていないことや、
解決してあげないといけないことが見えてきます。
そのマネージャーは、現場に出向いて実態を確認したり、
営業前に担当者の考えを聴いたりすることで、
問題を解決できる事例が出てきました。
そして、MTGの価値を感じられるようになった担当者は
積極的な参加をするようになり、
問題解決の場としてMTGが有効に機能しはじめているという事です。
ここでのポイントは、「なぜMTGが必要なのか?」という
理屈を教えることから入っていない点です。
当然、そのような話も必要ですが、理屈だけを「理解」をしても、
その必要性を「認識」できないことがあります。
片手間で中途半端に実践しても、
MTGの価値に気がつくところまでたどり着かず、
サボってしまったり、形だけの実践になってしまいます。
それを回避する為に、この支店長は、
「強制的に実行させる」ところから指導されたのです。
強制という響きが誤解を与えてしまう懸念があるので補記しておきますが、
本人が「実践することを目的にする」となかなか良い結果に結びつきません。
「成果を出すため」など、本来の目的を忘れずに実践することで、
実践上のヒントや秘訣が見つかります。
このマネージャーの方は、愚直に実践されたことだけでなく、
何度も目的に立ち返って実践された点が良かったのだと思います。
これは、周りの人からは見えませんので、
本人が「やるからには価値あるものにしたい」と
プライドを持って取り組むことが大事だという事です。
最初の「小さな輪」ができれば、
次々と新たな輪を設定して取り組んでいけるようになります。
このマネージャーの方は、
次に「アクションプランの活用」「営業同行での部下育成」と
自らテーマを設定し、一つ一つ身につけて成長中です。
■まとめ
「小さな輪=自信の持てる部分を作る」ことが成長の出発点になるということです。
その「小さな輪」を最初から自分で設定できる人はそうすれば良いですが、
「何から手を付けて良いか分からない部下」がいたとすると、
上司が「小さな輪」を設定してあげることが必要になります。
如何でしょうか?
あなたの部下は「小さな輪」をしっかり作って成長できているでしょうか?