相談業務とAIとの相性は?

寺田淳

寺田淳

テーマ:最近の話題から


【はじめに】

 以前ある相談事をAIに相談した後に
私に相談された方の言葉で「AIと同じ結論で安心」
と言われたという出来事を採り上げたことがありました。

 実際に現時点でも裁判の判例を一瞬で精査して
即断で回答する、事務手続きについても即時に回答する等
人間では到底叶わない処理能力を発揮することから
いずれ全ての相談案件は人からAIに移るのではと危惧されています。

 当然私の仕事もその対象ですから
ある日突然に「お役御免」となるかもしれませんね。

 個人的な見解ではありますが、
AIと相談業務について思うところをまとめてみました。

【ヒトの感情は白黒の一択だけではありません?】

 人間は何か悩み事や決断を促されるような相談をする場合、
自分の思うところを肯定して欲しい場合と否定して欲しい場合、
相反する回答を期待する場合があります。

 相談の切り口は全く同じであっても
その本意が上記のように正反対と言うケースは少なくありません。

 背中を押して欲しいのか、袖を掴んで引き止めて欲しいのか?

 人間とは複雑な感情の生き物なのです。
この点は、さすがのAIと言えども今の時点では完璧に
見通せるものではないようです。

 真意を聞き出す、見透かす、本音を引き出すという技術は
今のところ、人間による言葉のやりとりからしか叶わないと思います。

 その言葉の綾に気付けるか
自分の本当の想いを口にしているのか?
行間にある想いに気付けるか、

 いわゆる「本音と建前」まで見極めてのアドバイスが出来るのか?
日本的な「運用の妙」という応用編は持ち合わせているのか?

 一かゼロかの結論だけではなく、相手の逃げ道を用意しての
6分の勝ちと言う考えや、思い切った妥協案や折衷案といった
アナログの極致の様な解決策にも対処できるのか?

 例えば兄弟間で争族の只中にあるような場合でも
相手を法律上では完全に追い詰めることが可能であっても
経験上では多くの場合、なかなか相談者はその提案を採用しません。

 自分も血を流す、双方痛み分けで良しとする、
損をして得を取るような解決策や提案は
私の知るところでは今のAIではまだまだ対応は難しいと思います。

【終わりに】

 例えば法律の範疇で明快な答えが出るような相談であれば、
膨大な法令や過去の類似した判例を記憶しているAIはその強みを
最大限に発揮出来ると思います。

 ですが、

 今の自分に向いている仕事は何か?
 起業や独立に踏み切るのは今なのか、まだ時期尚早なのか?
 終活の開始時期は何時がベストなのか?

 この様な相談に対して
ただ一つの正解があるはずがないのです。

 私が取り扱っている相談はまさにこのジャンルのものですから
相談を受けて即座に一つの答えを出すことはありません。

 時に同意をし、時に疑念を呈し、時に否定を突き付ける等、
相談者の望むような答え以外を伝える方が多いかもしれません。

 軍事用語から出た言葉に「第三善を採用しろ」というものがあります。
最善の策は結局実現しない、次善の策は好機に間に合わない、
だから、三番目に有効、適当な策が成功に繋がるというものです。

 AIであれば最善の策(だけ)を回答するでしょうが
それが実際に実行出来る内容なのか、タイミングは間に合うのか?
等を吟味すれば一択の回答は最適な回答にならない場合も出てきます。

 実現はするものの、想定の6割、7割という選択肢は
実際の戦争、ビジネスにおいては大成功と言われるものです。

 個人的な見解ですが、
会社時代の営業会議等で「満場一致、全会一致」の結論の時ほど
漠然とした不安を感じることが多々ありました。

 事業計画等の相談や資金計画の説明等でも
あまりに完璧な内容の時ほどより慎重に精査するようにしています。

 この手の場合、いわゆる万が一の状況の変化の際に
脆弱性がもろに出てくることが少なくありません。

 穴だらけの計画にも問題ありきですが、
一見、穴の見えない計画でも別の問題が内包されている、
こう考えることは決して無駄ではないはずです。

 相談業務と言うものの本質は常に裏から、横から、
縦から、多角的な視点を持ち、穿った見方で突き詰めること。

 当然時間はかかりますが、その価値はあると思っています。


 ただ、いずれはこの様な手法すら修得したAIも登場するでしょう。
ですが、その時までは人間が扱う分野としての相談業務は安泰である、
と信じたいものです。 

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

寺田淳
専門家

寺田淳(行政書士)

寺田淳行政書士事務所

 起業・独立や転職、再就職を考えるシニア世代に対して、現時点での再就職市場の動向や起業する際の最低限の心構えを始め、私自身が体験した早期退職から資格起業に至るまでの経験やノウハウを紹介します。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼