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記憶に残った起業・開業相談 その1

寺田淳

寺田淳

テーマ:起業・独立


【はじめに】

 行政書士として開業して
起業・独立関係の業務を主とし始めて早10年は経過しました。

 その間にいろいろな起業・開業相談を受けてきましたが
中には非常に記憶に残った印象的な相談案件がいくつかありました。

 詳細を伏せれば紹介が可能な案件について
これから随時この場で披露していこうと思いました。

 今回は開業以来初めての経験だった
親子から同時期に起業・独立の相談を受けた際の話を
紹介したいと思います。

【父親の相談】

 父親は現在もサラリーマンで経理部に所属する60才の方でした。
入社以来経理マン一筋で、65才の会社規程の定年まで5年を残す今、
早期退職で起業したいという相談でした。

 現在進行形の話なので詳細が書けませんが
長年の趣味を活かした商売を始めたい、収入は当然ながら激減、
現収入の2/3で収まれば良しという覚悟は持たれていました。
 
 その理由としては2年後には子供も社会人になり家を出る(はず)
夫婦2人の生活になれば減収の範囲内で十分生活が出来るというものでした。

【息子の相談】

 次にこの方の息子さんは今大学2年生で、
在学中に起業して3年目には年収1千万を目指すという学生起業家です。

 息子さんの意向で内容は詳しくは書けませんが
今の時代には珍しく(?)対面での商売こそが王道と
ネットビジネスとは正反対の事業を計画しています。

 アバウトに言えば、昭和回帰、レトロと令和の若者を
結びつける場を提供するような構想で、捉えどころは
非常にいい点を衝いたものと思えました。

 なぜ卒業を待たずに今なのかと言った質問対しても
彼なりの時代のタイミングの捉え方や競合への対応策として
先行者利益を狙うといった考えがあり、これも納得出来るものでした。

【父親への疑問】

 まず父親の相談に際に気付いたことを紹介します。
起業の準備や事業計画には甘い想定は見当たらずでしたが、
なぜ早期退職して迄?といった点だけは不明瞭でした。
 
 この方の勤め先は早期退職勧奨を行っておらず
定年退職時に支給される退職金をかなり下回る
金額になる中途退職時の金額では単純に勿体ないと思いました。

 2回目の面談でようやく「理由」を話してくれました。
もともと若いころは仕事人間の典型で土日関係なく働いていたそうで
随分と家族には我慢を強いていたそうです。

 ですが50才を超える頃から退職後の生活を奥様と
考える時間が増え、2人で商売をすることは決めていたそうです。

 共通の趣味を持っていたこともあり、その趣味を活かした商売をする、
夫婦間では強固な合意が成立していた中、奥様がこれ以上ない物件を見つけたのです。

 これまでは自分の我を押し通してきた、
 その間奥様には我慢を強いてきた

 今度は、一度くらいは自分が折れてもいい
 奥様の願い叶えてやりたいというのが本音だったのです。
 
 この手の相談を長年受けてきた身としては
だいたいサラリーマンを早期退職して起業を目指す方の中には
何かしら会社への不平不満や肩書、評価、収入面での不満が付きものでした。

 無論、純粋に新しい人生を進みたいといった前向きな方もいますが
多くの場合、根底には見返してやるといった考えが見え隠れしてました。

 このケースは実に初めてといえる起業・開業動機でした。

 逆に言えば、
これといって職場に不満はなく、
相応の地位についていることからも
会社への屈折した想いからの早期起業ではない点が
こちらからするとある意味どう扱えばいいか、
明快な答えを出すに窮するような問題でした。

 ただ、この相談の唯一の誤算というかアナだったのが、
次に述べる息子さんの起業・開業の問題でした。

【息子の問題】 

 息子さんの場合も早期起業を目指す点では親と同じですが、
大学中退と言った行動は想定しておらず、起業で多忙になったとしても
卒業は必ずするという考えで、あくまでも自分だけの考えで決めたことでした。

 ただ、初期投資の費用がかなりの額を見込んでおり
当初はバイトの掛け持ちで捻出すると言ってはいたものの、
この点だけがやや不安定な受け答えでした。

 この点を再三問い質した結果、
在学中の2年間の投資費用は親の援助を当てにしたいという本音が出ました。

 さすがの自信家の彼も3年で年収1千万はかなりのハードルという自覚はあり
必ず返済するので2年分のすねかじりを頼むつもりというものでした。

 簡単に言えば
「自分のビジネスが軌道に乗るまでは親の安定収入に依存したい」
といういささか都合のいいものでした。

 この時にようやく実は親子からの相談という事に気づきましたが
親子とは言え、勝手に親からも起業の相談を受けていること
早期退職して収入激減を想定しているなどを伝える訳には
(この仕事に就いている身としては)行きませんから
この話は親には話しているのかを聞きましたが、案の定まだでした。

 父親は勝手に2年間親子3人の「今の」生活を続けるには十分な貯えはあり、
その後は夫婦2人の生活水準で暮らせると思い込んでいて
息子は父親が早期退職する等夢にも思っておらず、2年間すねをかじるくらいなら
認めてくれるだろうという見事なまでのすれ違いだったのでした。

 【終わりに】

 息子さんから相談を受けたときには父子示し合わせての相談だったのかと思いましたが、
全くの偶然で別々に私のブログを知り、またまた偶然にも同時期の相談となったのでした。

 いっそお二人にこの事実を伝えて3者での話し合いにしようとも思いましたが、
先にも書いたように勝手に相談者の相談内容を、親子とはいえ本人の了承なく話すことは
職責問題になります。

 素知らぬ顔で「まずは家族の同意、特に父親の了解を得ることが第一です。」
といったアドバイスでお互いが起業・開業を目指してることに気付いてもらう。
その後は当事者同士で話し合うか、再度こちらに連絡が来るか?
といった流れに誘導しました。
 
 結果として双方かなり仰天したようで、
さらに相談した相手も私という同一人物だったことにまたまた驚いたとのことでした。

 改めて「3者面談」の場を設けて話し合いに立ち会うこととなりました。

 
 父親が自分の夢を優先するならば、
想定外の2年間の支出は生活に支障をきたすことになり兼ねないとして
息子の夢の実現を2年間(最低)遅らせることになります。

 逆に息子の夢を優先させるのであれば、
父親は自分(と奥様)の夢を遅らせ、早期退職を断念し、
5年間のサラリーマン生活延長を呑むしかないことになります。

 2回にわたる3者面談の結果、父親の夢(というか両親の夢)を先に叶えることに決して
息子さんはアルバイト代で初期費用は全て自前で用意することとなりました。

~この時のやり取りは実にその後の起業相談時にも役立つ話でした、
 いずれ双方の了解が得られれば形を変えて紹介したいと思います~

 あの時から既に数年が経過しました。

 父親の方は予定通りに減収になりましたが
当初描いていたままの第二の仕事を軌道に乗せて夫婦2人の新生活を満喫してます。

 息子さんは在学中の開業は諦め2年間の掛け持ちバイトで貯めた開業資金に
起業支援の助成金を獲得出来たことで卒業と同時にすねをかじることなくスタート出来ました。

 多忙な中、息子さんから頂いた手紙には
「親を頼らず自前で汗を流してカネを稼いだことで自覚と自信を持つことが出来ました
今思えば当初の計画はあまったれの絵空事だったと恥ずかしい思いです。」
とありました。

 父親からは
「妻の夢を叶えることを優先する気持ちは最初から不動の考えでした、
 ただどう息子にその想いを伝えれば分かってもらえるかが不安で
 親子間に亀裂や遺恨だけは生じさせたくないと私なりに悩みました
 今回、おかげさまで円満解決できて本当に助かりました。」
 といった過分な挨拶を受けることになりました。
 


 開業して12年、今振り返っても多くの相談の中でもかなり思い入れのある案件でした。


 

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寺田淳(行政書士)

寺田淳行政書士事務所

 起業・独立や転職、再就職を考えるシニア世代に対して、現時点での再就職市場の動向や起業する際の最低限の心構えを始め、私自身が体験した早期退職から資格起業に至るまでの経験やノウハウを紹介します。

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