おひとり様の死後問題(相続財産管理人と遺言執行者)
【はじめに】
今日はいつもとは異なってある相談例を採り上げてみました。
一般の方ではなくて、新規登録されたある同業者の方からの相談でした。
開業以来初めての改葬手続きを一任されたものの全くの未経験。
手続きの流れはある程度調べたものの、実務の際に必ず起きるアクシデントや
事前に注意しておくべきことがあれば詳しく教えて欲しいというものでした。
士業で独立した場合の初経験の仕事の進め方の一例として
改葬手続きの進め方を例にして紹介したいと思います。
【スタートは一致団結から?!】
改葬のスタートは新墓の購入、ではありません。
それ以前にまずは親族全員の想いの確認が第一です。
仮に相談者が本家の跡取りであったり、祭祀承継者であっても
独断での改葬決定では禍根を残すリスクは決して小さなものではありません。
レアケースですが、兄弟間で親の遺骨争奪戦というトラブル中だった、
という場合には思わぬもらい事故になり兼ねません。
改葬に限らず郷里の空き家の処分等の場合も同じことです。
親族全員の同意、合意の下での相談という点の確認は欠かせません。
【先に新墓を決めること】
稀に、「とりあえずは我が家に安置してから墓探ししたい。」という
間違った計画を口にする相談者がいますが、それは出来ません。
いったん埋葬(収蔵)された遺骨は手元安置は法律で禁じられてます。
あくまでも「新墓を確保している事実」あっての「改葬」です。
例えれば貴方が賃貸物件からの引っ越しを決めた場合です。
実家に一時避難というケースを除けば100%先に新居を決めますね。
当てもなく退去するような無鉄砲な行動はしないはずです。
改葬はこれと同じで、先に引っ越し先ありきで退去手続きに入ります。
実家への一時避難は墓の場合は認められないのは前述したとおりです。
【現墓の現状把握】
現墓の状況の把握をしましょう。
・埋葬してあるのは、寺? 霊園? 納骨堂? 共同墓地?
・寺ならば菩提寺はどこにあるなんという寺か?
・現住職(管理責任者)とは懇意?疎遠?
・近親者の埋葬に立ち会った経験は?
・埋葬されてある骨壺の数は何柱か?
これ以外にも地域によっては
同姓(一族?)の墓が集中している場合があります。
我が家の墓の場所は本当に間違っていないか?
これだけは親族でなければ確認出来ません。
私が経験した事例では
相談者から聞いていた場所に墓がありませんでした!
その代わりその両隣から前後までの墓は
全て相談者と同姓の墓碑なのです。
さすがにこれでは手が出せませんので、
失礼ながら片っ端からスマホで撮影し即相談者宛に送信し、
相談者の責任で本当の墓の位置を確認してもらいました。
相談者と言えど記憶違いや思い込みは避けられません。
上記以外の例でも80才の高齢者でも見慣れているはずの代々の墓を
間違えていました。
必ず墓の場所の詳細を事前に確認し、現地では出来れば画像送信でダメ押し。
ここまですれば、ほぼ墓間違いなどという失態は避けられます。
【新墓を決めたなら】
自宅近く、あるいはアクセスが便利など、理由はとにかく新墓が決まった。
無事に契約も終了したら、新墓の管理責任者から「受入許可証」が発行されます。
新しい住処はこの通り確実に確保して準備は済ませています。
という保証とも言えますが、これで初めて現墓のある地での交渉が可能になります。
補足になりますが、
綿密な改装スケジュールを組み、その遂行に絶対の自信がるならば
この時点で「遺骨を納める日程」までを話し合ってもいいでしょう。
その際には後述する「開眼供養」が付きものなので
新墓の住職も事前に予定を立てやすくなるからです。
ただ、次項で説明する「離檀手続き」にはかなりの覚悟が必要ですので
あまり余裕のないスケジュールは避けた方が賢明と思います。
【現地自治体へ】
いよいよ現地での手続きです。
まずは現墓を管轄する自治体に連絡しましょう。
各自治体が用意している「改葬許可申請書」を入手して必要事項を記入します。
ここで注意すべきなのは、自治体ごとに微妙に書式、様式の差異がある点です。
場合によっては、現地での修正が渦かしいものもあるので
事前に電話などで確認しておく方が無難です
例えば申請者が孫の場合に、
申請書にある「続柄」の欄に「埋葬者の孫」と記載すれば普通はOKです。
ですが地域によっては「子の子」「(親が)長男の子」「(親が)次男の長男」
といった独特の表現を指定している自治体もあるのです!
書類自体は郵送での入手も可能ですので先に入手し、
記載事項を書き込んで自治体に出向いたものの記載の訂正を求められる…
これでは二度手間になるので、事前に電話などで記載時の注意事項を
確認しておくことが必要になるのです。
先に郵送での入手と書きましたが、
自治体のHPからダウンロードは出来ないか?といった相談もありました。
これも自治体によって可能なケースもあれば、
原紙が複写式の用紙での申請しか認めないケースもありました。
なのでダウンロードして印刷という手が使えない場合もあります。
これらについても直接自治体の窓口に確認しておきましょう。
【第一難関は遺骨の数の把握】
多くの場合、改葬許可申請書の2枚目に「埋蔵証明」の項目があります。
「申請されている故人の遺骨は間違いなく当寺に埋葬されているものです。」
といった確認書であり、そこに現墓の管理責任者の署名・押印があることで
お墨付きとなるのです。
ここで注意すべきは
「骨壺(遺骨)一体(一柱)につき、1枚の証明書が必要」
という点です。
事前に骨壺の数を確認する理由はここにあります。
最近の改葬時の難問としてこの点があります。
以前は大家族、親戚も多く、その分葬儀への参列の機会も多くありました。
骨壺を安置する際に以前に何柱安置されているか等は親族中に一人や二人は
詳しい方がいて情報源としての役割を担っていました。
ですが最近の少子化や郷里を離れて世代交代したような場合、
葬儀への参列もなく、親戚との交流も途絶えたままというケースが増えました。
自分の両親が埋葬されているのは確実だけど
祖父母や先祖代々については親からも「聞いてないよ~」といったケース、
かなり増えてきています。
書類の必要枚数に加えていざ墓じまいの際に用意する新しい骨壺の数にも影響します。
さらに土地によっては骨壺に納めずに地面にそのまま散骨するやり方もあります。
この場合は年月の経過によって完全に「土に還る。」ケースがあり
慣れない業者の場合、その時点で作業が立ち往生したケースもあるのです。
本来ならば、両親が健在のうちにこの点を問い質すことでしょう。
それが叶わない場合は事前に骨壺の数(何柱が安置されているか)を目視で確認します。
後の面倒発生のリスクを考えればこの点は相談者の責任で解消して欲しい案件です。
【最難関の署名・押印と離檀問題】
まず「埋蔵証明」への現墓の管理責任者からの署名と押印です。
地方になればなるほど、
檀家の減少が深刻な問題となっている寺は増加の一途です。
はいそうですかと署名してくれるケースは非常にレアと思って下さい。
「〇〇家と当寺とは100年のお付き合いがあるのですが・・・・」
「果たして、あの世の御父上やお爺様はそれを是とされるでしょうか?」
といった情に訴えてくるケースもあれば、
「何か悪いことが起こらなければいいのですが・・・」
「ご家族の将来が心配です」といった半ば脅しのような口調で
翻意を促すケースもよくあります。
おまけに帰途に事故に遭った、帰宅直後に発病したなどとなれば、
どうしても「因果」を考えてしまいがちです。
「やはりご先祖様は嫌がっているのか?」
「そういえば親父はいつか郷里に帰りたいと言っていたなあ・・・」等など、
当初の決意がどんどん鈍っていき、最後は「この仕事は息子に任せるか=責任放棄」
を考え始めるのです。
正直な話、この管理責任者とのやりとりに失敗するとまさに泥仕合の開始です。
感情論が入り混じると今度は離檀料の問題が悪化します。
週刊誌等では離檀料として何百万を提示といった記事が出たこともありますが、
そこまででなくとも、もはやカネの問題ではない、意地でも署名しない!
といった最悪な関係に陥ってはせっかく用意した新墓はいつまでも空き家のままです。
下手をすれば解約の憂き目もあり得るのです。
離檀料に法的な拘束力はありませんが、
けんか別れして改葬を強行しても実に後味の悪い幕切れです。
これで改葬後に何か不幸が生じれば下手をすれば
今度は家族間でのトラブルにもなり兼ねません。
こういう悲劇を招かない為にも
事前の情報収集は重要な課題となります。
まず管理責任者が誰なのかを把握し、どういった性格の方なのかを調べます。
ひとつのやり方ですが、
管轄の自治体の当該窓口に過去においてこの寺からの改葬で問題は発生していないかを
それとなく問い質したり、地元の墓石業者で当該の寺に出入りしている会社を探します。
そこでも管理責任者の人となりを聞き出したり、
過去に墓じまいの経験ががあれば
その時の様子などを教えてもらいます。
あとは、当事者(相談者)にも一役買ってもらいます。
事前に墓じまいの件で専門家が出向く旨を伝えてもらいます。
何故当事者本人が来ないということも微妙な問題になり兼ねませんので、
仕事の都合がつかない、体調を崩しどうにも動きようがない等、
嘘も方便で ひとこと断りを入れておくことを依頼してます。
同様に、諸事万端片付いた後にも抜かりないように、
お礼の電話と手紙での挨拶を必ずするように念をしています。
最後まで気を緩めず、
感謝の気持ちを重ねておくことは双方にとっても損は全くありません。
大原則は相談者自らが立ち会うこと、または私のような専門家と同席で
真摯に墓じまいの許諾を求めればほぼ署名・押印迄行き着けます。
どうしても顔を会わせられない、会わせたくない、ならば
全権を委任された専門家による交渉に委ねる方が早道でしょう。
【その後の手続き】
正直、この後の手続きにはこれといった難題はありません。
必要事項をすべて記入した「改葬許可申請証」を当該自治体に提出、
不備がなければその場で「改葬許可証」として再度受け取ります。
あとは墓じまいの手はずです。
墓石撤去と墓地の更地化の専門業者を選定し作業の日程を調整します。
ですが業者は必ず墓地の下見をします。
当然ですが、即日又はこちらの都合で即応可能ということは
まずあり得ません。
クルマが近くまで入り込める場所かどうか?
墓石撤去用の重機が使えるかどうか?
必要人数は何名か?
雨の場合の作業が可能かどうか?
等々について慎重に事前チェックを行います。
多くの場合は後日に実地検分となるので、
結果を受けて費用も確定しますし作業日程も確定するのです。
この業者による実地検分も季節や地域によっては
かなりの時間を要する場合があります。
今の季節では雪国にある墓です。
地域によっては墓石すら雪の中に埋没するような豪雪地帯での改葬となれば
雪解けまでは手が出せないといった笑えない事態も生じます。
改葬の相談の受任時期については季節と地域を考慮する必要があることも
覚えておいていいことと思われます。
無事に実地検分も終わりあとは撤去作業の開始を待つのみ、
ではありませんで、ここでも大切な注意事項が控えています。
墓じまいの際には「閉眼供養=魂抜き」の手続き(行事)が必須という点です。
寺ならば住職による「読経」を済ませてから撤去作業が開始されます。
変な例えですが解体する家屋の中にまだ住人がいるうちに解体作業は出来ませんね、
これと同じことが墓にも言えるのです。
墓の穴に眠る「魂」をまずはお引き取り頂いてから空き家となった墓を解体するのです。
ですから閉眼供養なしで墓石業者の作業は始まりません。
寺に黙って撤去などは出来ないのでご注意を!
うちの墓は村の共同墓地、管理者は村の総代で住職でないから
この手続きは省けるのでは? と思われる方もいるでしょう。
ですが墓は村の墓地にあっても、代々の位牌等は近隣の寺に安置してある。
このケースはかなりの確率で発生しています。
位牌は寺に放置するので閉眼供養は無しで、というわけにもいきませんし、
先に述べたように肝心の墓石業者が作業に応じてくれません。
そして、当然ながらこの際には
離檀料とは別に「読経料=お布施」としてある程度をお渡しすることになります。
最近では墓じまいの際には、
遺骨の取り出しと墓石の解体・撤去までで
最終的な更地化は後日というケースもあるようです。
その場合は更地化された墓地の写真を送付してもらうようにします。
あとは立ち会った親族によって骨壺を移送してもらい
新墓での納骨となります。 位牌の確保も忘れないように。
この際も今度は「開眼供養=魂入れ」といった行事が必要な場合があるので
納骨の日程調整が必要になる場合がありますし、当然その際にも「お布施」が
絡んできますので、注意が必要です。
【終わりに】
長々と説明してきましたが、実際の作業が始まれば意外に短時間で遂行出来るものです。
改葬に限らず、どんな手続きも最初の仕事は緊張します。
慎重に進めることで非効率な進捗になることは仕方のないことです。
かといって独断で進めてしまい、後になって取り返しのつかない事態を招いては
その後の仕事の継続にも悪影響を及ぼしかねません。
まずは、習うことに躊躇しないことです。
同様にあやふやなままで進まないこと、
誤字脱字程度でもプロとなれば許されるものではありません、
一言一句でも不安や疑問が生じたならば
専門書や参考資料を調べ直す習慣をつけましょう。
最後に、この相談をしてきた当事者の士業従事者は
ほぼノーミス、ノートラブルで遂行し、この仕事への自信が持てましたと
丁寧な手紙を頂きました。
こちらもなんだか満足感と達成感を得られました。