建物だけ法人に売却できる?税務リスクと適正価格の考え方【前編】
前編では、建物だけを法人へ売却する目的や、同族会社間取引で注意すべき税務リスクについて解説しました。
後編では、実際に売買価格をどのように考えればよいのか、評価方法の選択や手続きの流れ、専門家が果たす役割についてご紹介します。
3 適正な「時価」はどのように決めるのか
3-1 一体価格から建物価格を導き出す考え方
建物だけを法人へ売却する場合、最も悩ましいのが「いくらで売却するのが適正なのか」という点です。
実務では、建物だけを独立して評価するのではなく、まず土地と建物を一体の収益不動産として評価し、その後、土地と建物へ合理的に価格を配分する方法が採られることがあります。
収益不動産では、賃料収入など将来生み出す収益に着目した収益還元法を中心に評価し、これに原価法による価格を参考として総合的に時価を判断するケースが一般的です。
例えば、
- 一体の時価
- :5,000万円
- 原価法による価格構成比:土地70%・建物30%
という評価結果になれば、
- 建物 約1,500万円
- 土地 約3,500万円
という形で価格を配分する考え方ができます。
このような手法であれば、「なぜ建物価格がこの金額なのか」という説明がしやすくなり、税務上も一定の合理性を示しやすくなります。
3-2 どの評価方法を採用すべきか
建物価格を決める方法はいくつかありますが、それぞれ特徴や注意点があります。
| 評価方法 | メリット | 留意点 |
| 固定資産税評価額 | 入手しやすく実務でも利用しやすい | 時価と一致するとは限らず、築古建物では割高になることもある |
| 帳簿価額(簿価) | 会計上の根拠が明確 | 減価償却により実態より低い価格になっている場合がある |
| 不動産鑑定評価 | 時価の根拠として説明力が高い | 費用と日数が必要 |
固定資産税評価額や帳簿価額でも十分なケースはあります。
例えば、
- 建物価格が比較的小さい
- 評価額と時価との差が大きくない
- 税といった場合には、簡便的な評価方法でも実務上問題にならないことがあります。
- 一方、務上の争点になりにくい
- 売買金額が大きい
- 同族会社間取引である
- 建物と土地を分けて価格設定する必要がある
- 将来的な税務調査を見据えたい
このようなケースでは、不動産鑑定評価によって価格の妥当性を裏付けておくことが安心につながります。
「どの評価方法を採用するか」は案件ごとに異なるため、一律の正解があるわけではありません。
4 建物売却に伴う税金と法人化のメリット
4-1 売却時に発生する主な税金やコスト
建物を法人へ売却すると、売買価格だけでなく、さまざまな税金や費用も考慮する必要があります。
代表的なものは次のとおりです。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 消費税(売主が課税事業者の場合)
- 登記費用
- 必要に応じて鑑定評価費用
築浅の建物では固定資産税評価額も比較的高くなるため、取得税や登録免許税も相応の金額になります。
逆に築年数が経過した建物ではこれらの負担は小さくなる傾向がありますが、その場合でも売買価格とのバランスを踏まえた検討が必要です。
4-2 法人化によって期待できる効果
建物を法人所有にする最大のメリットは、所得を法人へ移転できる点にあります。
例えば、
- 個人所得と法人所得を分散できる
- 法人で減価償却を活用できる
- 地代を個人へ支払いながら建物収益は法人へ帰属させることができる
- 将来的な役員退職金や保険活用など、中長期的な資産管理がしやすくなる
といった効果が期待できます。
もっとも、「法人化すれば必ず節税になる」というわけではありません。
法人設立費用や維持コスト、社会保険料なども考慮しなければならず、個々の状況によって最適な方法は異なります。
そのため、法人化そのものではなく、「自分の資産構成や将来設計に合っているか」という視点で判断することが大切です。
5 スムーズに進めるための実務上のポイント
5-1 建物売却までのおおまかな流れ
建物だけを法人へ売却する場合、一般的には次のような流れで進みます。
① 売却目的と税務上の影響を確認する
まずは法人化の目的や税務上のメリット・デメリットを整理します。
② 時価を検討する
必要に応じて不動産鑑定士へ依頼し、適正価格を把握します。
③ 社内手続きを行う
利益相反取引となる場合には、取締役会や株主総会での承認など、会社法上必要な手続きを進めます。
④ 売買契約を締結する
価格の根拠を明確にしたうえで契約書を作成します。
⑤ 所有権移転登記を行う
司法書士が登記申請を行い、売買手続きが完了します。
このように、一見すると単純な売買であっても、税務・法務・不動産評価の各分野が関係する手続きとなります。
5-2 専門家が連携することでリスクを減らせる
建物だけを法人へ売却する案件では、一人の専門家だけですべてを判断することは難しい場面があります。
それぞれの役割は次のようになります。
| 専門家 | 主な役割 |
| 税理士 | 税務上の影響、法人化スキームの検討 |
| 不動産鑑定士 | 売買価格(時価)の妥当性を判断 |
| 司法書士 | 登記手続き、法的書類の作成 |
特に税務上問題になりやすいのは、「価格設定が適正だったか」という点です。
税理士が税務面を確認し、不動産鑑定士が価格の根拠を示し、司法書士が法的手続きを適切に進めることで、それぞれの専門性を生かした対応が可能になります。
まとめ
建物だけを法人へ売却する方法は、収益不動産の資産管理や相続対策において有効な選択肢となる場合があります。
しかし、同族会社間取引である以上、「適正な時価で売買したか」という点は税務上極めて重要です。
価格が安すぎても高すぎても税務上の問題が生じる可能性があるため、価格設定には客観的な根拠が求められます。
案件によっては固定資産税評価額や帳簿価額で十分な場合もありますが、金額が大きいケースや税務リスクが高いケースでは、不動産鑑定評価を活用することで、価格の合理性を説明しやすくなります。
当事務所でも、相続や資産管理会社への建物売却に伴う不動産評価についてご相談をお受けしています。
「建物だけを法人へ売却したいが、価格をどのように決めればよいか」「税務上問題のない進め方を確認したい」とお考えの際は、税理士など関係する専門家と連携しながら、状況に応じた評価方法をご提案いたします。
本記事では概要をご紹介しましたが、ホームページのブログでは、建物のみを法人へ売却する際の税務リスクや時価の考え方、実務上の注意点について、より詳しく解説しています。
詳しく知りたい方は、ぜひホームページのブログもご覧ください。
建物だけ法人に売却できる?税務リスクと否認されないためのポイ


