言問学舎の冬期講習2024‐25 1年生も頑張っています
・男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
紀貫之『土佐日記』の、あまりにも有名な書き出しです。起筆にあたって貫之が自らのスタンスを明らかにしている印象的な一文とあると同時に、このみじかい一文の中で、サ変動詞「す」と、助動詞「なり」の識別が完璧に身につくという、うれしい例文でもあります。
まずは上の一文を、品詞分解してみて下さい(自信のある人は、このつづきを読まずに、縦書きに例文をうつしてやってみましょう)。
そんなの簡単だよ、という人も、今までのおさらいの意味でどうぞ。文法を暗記でなく、文中から判断していくこと=すなわち受験対策に直結することであり、あるいは現代語訳のキーポイント(これも受験直結)でもあります。
では、品詞分解をしてみましょう。はじめは区切るだけにします。
男 / も / す / な る / 日 記 / と / いふ / もの / を
/ 女 / も / し / て / み / む / と て / す る /な り
さて、サ変動詞は「す」は何回出て来ましたか?答えは3回です。
「す」なる 終止形+伝聞推定の助動詞「なり」(ここでは伝聞)
「し」て 連用形+接続助詞「て」
「する」なり 連体形+断定の助動詞「なり」
では、くわしく品詞の説明をします。ただしフォーマットの都合上、名詞と助詞は先に、まとめて抜き出して示します。
名詞(順に) 男 日記 もの 女
助詞(順に) も・係助詞 と・格助詞 を・格助詞 も・係助詞 とて・格助詞
つづいて、動詞・助動詞です。
す・なる サ変動詞「す」の終止形+伝聞推定の助動詞「なり」(ここでは伝聞)の連体形
いふ ハ行四段動詞「いふ」の連体形
し・て サ変動詞「する」の連用形+接続助詞「て」
み・む マ行上一段動詞「みる(見る)」の未然形+推量(意志)の助動詞「む」の終止形
する・なり サ変動詞「する」の連用形+断定の助動詞「なり」の終止形
サ変動詞「す」については、ほかには未然形「せ」(せ+ず)、已然形「すれ」(すれ+ども)命令形「せよ」があるだけですから、掲出した連用、終止、連体がきちんとわかって、「せ」+「ず」/「し」+「たり」と続けて行く活用の訓練ができていれば、もう何の問題もありませんね。
いっぽう助動詞「なり」は「伝聞推定」と「断定」の二種類があります。
助動詞の、用言からの接続の形には、未然形接続、連用形接続、終止形接続、連体形接続、已然形接続の五種類があり、上にある用言の活用から、助動詞が何形接続かを判断し、その助動詞自体の活用形と、さらにその下の助動詞との接続を見きわめて行くことが、よくあります。
そしてこの「接続」「活用」の関係は、きちんとていねいに勉強する機会が、あまり多くありません。その結果、大学受験に近い時期まで、「文法が苦手」なままになってしまう高校生が、多くいるようです。
土佐日記のこの例文では、少なくとも「伝聞推定の『なり』=終止形接続」と「断定の『なり』=連体形接続」が、一文の中で完全に判別できるので、これをしっかり理解して覚えておけば、最低限「なり」については不安がなくなります。これまでご説明した内容に加え、土佐日記冒頭のこの一文は、まるまる暗誦してしまいましょう。それだけの価値のある文なのです。
こうした勉強の積み重ねが、文法・古文の苦手意識を払拭(ふっしょく)し、得意科目もしくは得点源へと変えて行きます。極言すれば、古文の勉強は、この品詞分解がきちんとでき、それに基づいた口語訳がおおむねできれば、高校レベルでの勉強としては十分なのです。
なお、助動詞の「用法」は、代表的なものを先にまとめて覚えた上で、細かい使い分けをマスターして行くようにしましょう。「む」をはじめから「①推量②意志③婉曲④適当・勧誘」と覚えるのでなく、「推量の『む』」と覚えてしまってから、あとで意志、婉曲・・・と理解して行くような方法です。最初からすべてを覚えようとすると、ただでさえわからないものが混乱を極めるばかりで、よい勉強法とは言えません。
※作品に即して文法理解を深めて行く、言問学舎の「塾での夏期講習」にもご注目下さい。
国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師
小田原漂情
文京区の総合学習塾・言問学舎