起業が「怖い」と感じたら、まずリスクの正体を言語化してみてください
「継ぐ」と返事をする前に、確かめておきたいこと
――実家の家業を継ぐか、それとも自分で別の商売を始めるか。親に答えを求められたら、どう考えればいいでしょうか?
新井:親から直接聞かれると、その場で返事をしなければと思いますよね。ただ、「工場を継ぐ」という言葉だけでは、何を引き受けるのかが分かりません。私なら、直近3期の利益、借入の残高、連帯保証人の名義を見せてもらいます。数字を見ないまま「継ぐ」「継がない」と答えても、親子で想像している仕事の中身が違うかもしれませんから。
――親の仕事をほとんど手伝ったことがない人ほど、決算書を見せてほしいとは言いにくそうです。
新井:親を疑うために見るわけではありません。「いつまでに返事をするか決めたいので、工場の今の状態を教えてほしい」と頼んでみてください。親にも、答えがほしい時期があるでしょう。だからこそ、返事の期限と、その前に確認する書類を一緒に決めるのです。決算書を読んで分からない数字があれば、分かったふりをせず、経理を担当している人に説明してもらいましょう。親子だけで話すより、数字の意味を取り違えずに済みます。
利益だけでは、決められない
――黒字なら、安心して継げると考えてよいのでしょうか?
新井:利益は大事ですが、それだけで決めるのは早いですね。工場の機械を近く入れ替えるなら、その費用もかかります。借入が残っているなら、毎月いくら返しているのか、いつまで返すのかを見なければなりません。売上の大半が一つの取引先から来ているなら、その取引が続く見込みも確認したいところです。今の利益と、これから必要になるお金を並べてはじめて、事業を続ける負担が見えてきます。
――連帯保証人の名義を確かめるのは、何のためでしょうか?
新井:工場を引き受ける話と、借入の保証を引き受ける話は、分けて考えてください。親の保証が自動的に自分へ移る、と決めつけることもできません。取引銀行がどう考えているのか、現在の契約と今後の条件を、銀行に直接聞く必要があります。もし保証を求められるなら、金額や条件を確認してから判断しましょう。ここは、親子の口約束だけで済ませないほうがいいのです。
工場の仕事を、一部だけ手伝う道もある
――まだ会社勤めをしていて、工場で働けるかどうかも分からない場合は、どうすればよいですか?
新井:すぐに退職して工場へ入るかどうかを、決める必要はありません。工場の仕事を書き出して、機械や現場の人がいなければできない作業と、勤めを続けながら手伝える作業に分けてみましょう。たとえば、取引先への連絡や請求書づくりなら、手伝えるかもしれません。ただし、実際にどの仕事を引き受けられるかは、工場の人員と今の担当を見て決めます。
――一部を手伝えば、継ぐかどうかの判断にも役立ちますか?
新井:役立ちます。外から見ていたときには分からなかった、注文の入り方や忙しい月、取引先との約束が見えてきます。親も、子どもがどこまで仕事を担えるのかが分かります。もちろん、勤務先の兼業規定と自分の休み方も確認してください。無理に仕事を増やして、本業も工場も続けられなくなるのは避けたいですね。
「自分で始める」案と、比べるとき
――工場を継がずに、自分の経験を生かして別の商売を始める案とは、どう比べればよいですか?
新井:自分で始めるなら、工場の設備や取引先を当然のように使えると思わないことです。一方、工場を継ぐ場合は、すでにある設備やお客様だけでなく、返済や将来の設備費も考えます。どちらの道でも、何を売って、誰がお金を払ってくれるのかを、具体的に言えるでしょうか? 法人営業をしてきた人なら、その経験を使える仕事を考えることもできますが、実際に注文があるかどうかは、別に確かめる必要があります。
――親には、最初に何を伝えればよいでしょうか?
新井:「今は継ぐとも継がないとも決められない。決算書と借入、保証の書類を見てから、いつまでに答えるかを相談したい」と話してみてください。親の希望も聞きましょう。工場を続けてほしいのか、従業員の仕事を守りたいのか、設備をどうしたいのか。それによって、話し合う相手や選択肢が変わります。返事を急ぐ前に、親が何を任せたいのかを聞くところから始めてください。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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