育休中の起業準備は「30分の細切れ」が正解。復職後も続く時間の作り方
一方的な値引き通知はそのまま受け入れない
――新井さん、取引先から「インボイスの登録番号が確認できないので、次回から消費税分を差し引きます」とメールが来た場合、個人事業主は受け入れるしかないのでしょうか。
新井:受け入れるしかない、とは限りません。もちろん、登録番号の有無によって取引先の税額計算に影響が出ることはあります。ただ、それと「話し合いなしに金額を下げてよい」は別です。まず見るべきなのは、値引きの根拠と協議の有無です。
――「消費税分」と書かれると、仕方がないように感じてしまいます。
新井:そこが危ないところです。消費税分という言葉だけで、10%をそのまま引く理由にはなりません。経過措置で一定割合を控除できる期間もありますし、免税事業者側にも仕入れや経費で消費税相当の負担がある場合があります。
登録番号の有無と値引き額は直結しない
――取引先は、なぜ登録番号を気にするのでしょうか。
新井:取引先が課税事業者の場合、インボイス登録事業者への支払いは仕入税額控除に使えます。一方、免税事業者への支払いは控除できる割合が制限されます。だから登録番号の確認が出てくるのです。ただし、免税事業者との取引でも経過措置があります。取引先が今すぐ消費税額を丸ごと失うわけではありません。
――それなら、10%を一律に引くのは乱暴ですね。
新井:はい。実際の負担、これまでの単価、仕事の内容、双方の交渉状況を見ずに「登録していないから引きます」とだけ言われたなら、根拠を確認してください。強い口調で反論する必要はありません。「差し引く金額はどのように計算されたものですか」と聞けばいいのです。
協議があったかをメールで残す
――値引きが問題になるかどうかは、どこで分かれますか。
新井:ひとつは、実質的な協議があったかどうかです。取引先から説明があり、こちらも事情を伝え、双方が納得して金額を変えるなら、話し合いの余地はあります。反対に、メール一本で「次回から引きます」と通知され、協議の機会がないなら、一方的な通告です。
――記録を残すことも大事ですね。
新井:とても大事です。電話だけで済ませると、後から何を確認したのか分からなくなります。金額の根拠、経過措置を踏まえた計算、今後の請求方法、合意した単価。これらはメールで残してください。感情的に争うためではなく、取引条件を明確にするためです。
立場が弱いから聞けない、で止まらない
――個人事業主だと、取引先に強く言いにくい方も多いと思います。
新井:そうですね。特に取引先が限られていると、1件を失う不安が大きくなります。ただ、根拠を尋ねることは失礼ではありません。むしろ、事業者として当然の確認です。値引きに応じるかどうかは、根拠を聞いたあとに決めればいいのです。
――聞き方を工夫すれば、関係を壊さず確認できますね。
新井:はい。「登録番号がない場合の御社の控除額と、今回の差引額の計算根拠を確認させてください」と送るだけでも違います。もし協議に応じてもらえない、通常より著しく低い金額を一方的に決められる、という状態なら、取引かけこみ寺などの相談窓口に持っていく選択肢もあります。
登録するかどうかは別の判断として分ける
――では、インボイス登録をすればすべて解決するのでしょうか。
新井:そこも分けて考えてください。登録すれば請求書の扱いは変わりますが、消費税の申告や納税の負担も生まれます。登録するかどうかは、自分の取引先が企業中心なのか、一般消費者中心なのか、年間の売上や事務負担を見て判断します。今回の値引き要求への対応とは、別の経営判断です。
――目の前のメールに慌てて登録するのではなく、まず金額の根拠を見る。
新井:その通りです。今日やることは3つです。差し引く金額の計算根拠を聞く。協議の記録をメールで残す。登録するかどうかは税理士や税務署にも確認して別に判断する。これだけで、いきなり不利な条件を飲み込む流れを止められます。
――「消費税分」という言葉に飲まれず、計算と協議を確認する。ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
→ 新井一のセミナー日程一覧


