定年後に元の会社から、業務委託で仕事を受けることはできる?
応募するか迷ったら、まず募集要項を開く
――起業準備を進めている会社員の方に、気になっていた部署の社内公募が出ました。会社の中で新しい仕事を経験するか、社外の仕事づくりを優先するか、迷う方も多いと思います。
新井:私なら、「新しい経験ができそう」という印象だけでは決めません。応募後に何を任されるのか。その中に、会社の外でも人の役に立つ作業があるのか。今の起業準備に使っている時間が、異動後にどのくらい変わるのか。この三つを具体的にしてから考えたいですね。
――社内公募への応募と起業準備は、必ずどちらか一方を選ぶ話ではないのですね。
新井:ええ。異動先で仕事の幅を広げながら、社外でも小さく試す道はあります。ただ、新しい部署の仕事を覚える期間は、今と同じ時間を起業準備に使えるとは限りません。両方できると言い切る前に、勤務時間や引き継ぎ、異動後の仕事量を調べておく必要があります。
部署名より、実際に任される仕事を見る
――「外でも役に立つ仕事」は、どう見分ければいいのでしょうか?
新井:その仕事を、会社名と部署名を外して説明してみてください。たとえば、取引先の困りごとを聞いて、原因を調べて、再発しない手順を作る。これなら、相手が社外の人でも、仕事の内容が伝わります。一方、その会社だけの申請画面の操作や、独自の承認の順番を覚えることは、ほかの会社にそのまま持って行けません。どちらも社内では必要ですが、起業準備とのつながり方は違います。
――社内だけで通じる知識が多い部署なら、応募しないほうがいいのでしょうか?
新井:そこまで早く決めなくていいですよ。募集要項には、仕事の一部しか書かれていないことがあります。担当する相手は誰なのか、社外の人とどこまでやり取りするのか、成果をどのように測るのか。募集元に聞いてみましょう。読み取れなかった部分を確かめるだけで、応募の意味が変わるかもしれません。
異動後の時間を、先に見積もる
――仕事の内容が魅力的でも、準備の時間が減るのは気になります。
新井:新しい部署では、仕事を覚えることが先になります。起業準備を今は週末だけで進めているなら、その週末にも、休む時間が必要になるかもしれません。異動の時期、引き継ぎにかかる期間、最初の数カ月に求められる仕事を聞いて、今の予定表に書き込んでみてください。時間が足りないなら、準備の項目を減らすのか、応募を見送るのか。そこから判断できます。
――合格したあと、すぐ退職するつもりでも、応募してよいのでしょうか?
新井:それは、募集の条件と自分の予定を、きちんと合わせて考える必要があります。異動先は人を迎える準備をしますから、すぐ辞める予定が固まっているなら、応募の目的を見直したほうがいいでしょう。反対に、まだ起業準備の途中で、数年かけて仕事の経験を積みたいなら、異動が役立つ場合もあります。退職時期を決めていない人まで、一律に応募を避ける必要はありません。
起業準備とつながるか、自分の言葉で確かめる
――応募前に、何を書き出すと考えが整理できますか?
新井:まず、募集要項から任される業務を抜き出して、一つずつ「誰の、どんな問題を解く仕事か」を書きます。次に、その仕事を社外の人に説明するとしたら、何と言うかを考える。最後に、異動後も起業準備を続けられる時間を、平日と休日、それぞれで見積もります。この三つがつながれば、応募する理由もはっきりしてきます。
――うまく言葉にできない仕事は、どう扱えばよいですか?
新井:分からないからといって、「自分には売れるものがない」と決めてしまわないでください。社内の品質管理や顧客対応でも、作業を細かく見ていくと、ほかの会社が困っていることを解いている部分があります。自社の手順に従っただけなのか、相手の問題を見つけて方法を考えたのか。実際に自分がしたことを分けていくと、社外で説明できる範囲が見えてきます。
――応募の判断には、会社の中で得る経験と、会社の外で試す時間と、その両方を見る必要があるのですね。
新井:そうですね。社内公募は起業準備の近道だとも、遠回りだとも、決めつけることはありません。募集要項の仕事を読んで、異動後の時間を確かめて、その経験を誰に届けたいのかまで考える。応募するかどうかは、そのあとに決めれば十分です。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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