退職前に有給を全部使いたい時、会社は断っていいの?
無料で渡すか売るかは、作品ごとに分けていい
――新井さん、今日は手芸の型紙をデータ販売していた方の相談です。知り合いから、「手書きのままでいいので無料で送ってほしい」と頼まれることが増えて、断るのが苦しくなり、販売そのものをやめてしまったそうです。作ったものは無料で渡してもいいのでしょうか?
新井:無料で渡すこと自体が悪いわけではありません。ただ、全部を一つの基準で決めようとすると苦しくなります。大事なのは、その作品を広めたいのか、資産として手元に残したいのかを作品ごとに分けることです。広めたいものは無料や配信に回していい。手を入れて販売したいものは、300円でも値段をつけて守る。答えは一つではなくていいですよ。
――「無料で頼まれたら断るべきか」と考えると、白黒をつけたくなります。
新井:そうですね。でも本当は、「この作品はどの棚に置くのか」という整理です。無料の棚、販売の棚、まだ決めない棚。この3つに分けるだけで、相手ごとに毎回悩む場面が減ります。
個別に手渡す形だと、条件は交渉されやすい
――なぜ「無料で送ってほしい」という依頼が繰り返されるのでしょうか?
新井:ひとりずつ手渡す形で配っているからです。相手が毎回変わり、渡し方も毎回違うと、条件もその場で相談できるものに見えます。値段が安すぎるからでも、断り方が下手だからでもありません。
――販売サイトに置いているのに、個別の依頼が来ることもありますね。
新井:あります。そこで先に買った人がいるなら、あとから頼んできた人にだけ無料で渡すと公平が崩れます。これは感情の問題ではなく、値段をつけた以上の約束です。先に払った人を軽く扱わないためにも、販売の棚にあるものは販売として扱う。その線は守ったほうがいいですね。
断る言葉より、置き場所を先に決める
――でも、断るたびに後味の悪さが残る方も多いと思います。
新井:だから、断る文章を毎回考えない形にします。無料で広めたい型紙は、誰でも受け取れる場所に置いて案内する。販売する型紙は、販売ページのURLを送る。まだ決めていないものは「今は配布していません」で終わりにする。人によって答えを変えると消耗しますが、棚によって答えを変えるなら淡々とできます。
――無料にする作品があると、販売の価値が下がるようにも感じます。
新井:無料の作品は入口です。販売の作品は、仕上げ、使いやすさ、更新、扱いの管理まで含めたものです。無料に回すものと販売するものが違っていれば、価値は下がりません。むしろ、無料の棚があるから「試してみたい人」にも届きます。
無償で渡すなら、将来の扱いを一言添える
――無償で渡すときに気をつけることはありますか?
新井:一言だけ添えることです。「この先、有料で扱ったり、使い方に条件をつけたりする場合があります」と先に伝えておく。渡したあとで条件を言うと後出しに見えますが、渡す前なら自然です。
――著作権のことも気になります。
新井:著作権は、作品を作った時点で発生します。無料で渡したからといって、権利まで手放したことにはなりません。ただし、型紙のような実用品の図面は、内容によって判断が分かれることもあります。権利や利用範囲が心配なら、もめる前に専門の相談窓口で確認してください。起業では、法律論を強く振り回すより、先に扱いを明記しておくほうが現実的です。
待つだけでは、声がかかる機会も消えてしまう
――販売をやめる判断そのものは、間違いなのでしょうか?
新井:間違いではありません。疲れたら止めるのも大事です。ただ、止めることで作品が誰の目にも触れなくなり、声がかかる機会まで消えることがあります。無料で広める作品と、販売して守る作品を分けて置いておけば、全部を止めなくて済みます。
――最初に何をすればいいでしょうか?
新井:手元の作品を一つだけ選んで、「広めたい作品」「手元に残して販売したい作品」「まだ決めない作品」のどれかに置いてください。そして無料で渡すなら、誰でも同じ条件で受け取れる場所に置く。販売するなら価格を示す。相手の顔を見て毎回揺れるのではなく、先に決めた置き場所で答えるのです。
――断るか受けるかではなく、作品の扱いを先に決めるのですね。
新井:そうです。無料で頼まれるたびに心をすり減らす必要はありません。作品を広げるものと守るものに分ければ、断る言葉を考える時間は減り、手はまた制作に戻ってきますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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