AI時代の起業アイデア出し | 会社員が身につけるべき「現場感覚」の磨き方とは?
登録しただけで勤め先へ伝わるわけではない
――新井さん、起業準備をしながら転職サイトに登録する方もいますよね。いま辞めるつもりはなく、求人の条件や自分の相場を見たいだけ。でも「登録したことが会社にバレたらどうしよう」と不安になる人は多いと思います。
新井:多いですね。まず分けて考えたいのは、転職サイトの運営会社が本人の同意なく勤め先へ登録情報を渡す話と、スカウト機能などで企業側が見られる範囲に自分で出している話です。前者は原則としてできません。職業安定法では、求職者に関する情報を集めて企業へつなぐ事業者にも、目的を明らかにして、その範囲で保管・使用する義務があります。個人情報保護法でも、本人の同意なしに個人データを第三者へ出すことは原則禁止です。
――「うちの社員が登録していないか教えて」と会社が聞いても、勝手に渡るわけではないと。
新井:そうです。ただし、そこだけ聞いて安心しきるのも危ないですよ。勤め先に見えるかどうかは、法律の原則だけでなく、自分の公開設定と職場の環境で変わるからです。
スカウトを受け取る設定にすると経歴は検索対象になる
――具体的には、どこで見える可能性が出るのでしょうか。
新井:代表的なのはスカウト機能です。スカウトを受け取る設定にすると、企業や紹介会社が登録された経歴を検索し、条件に合う人へ声をかけられるようになります。これは「運営会社が勝手に勤め先へ教えた」という話ではなく、自分が検索対象に入る設定を選んだという話です。
――社名を伏せていても分かることはありますか。
新井:あります。たとえば業界が狭い、社員数が少ない、担当している製品や年次の組み合わせが特殊、という場合です。社名を隠しても「この経歴はあの人では」と見当がつくことがあります。だから、勤め先だけでなく親会社、グループ会社、主要取引先までブロック設定に入れる必要があるかを見ます。
――サービスごとの非公開設定ですね。
新井:はい。名称はサービスによって違いますが、特定企業に見せない設定や、企業ブロックの機能が用意されていることがあります。大事なのは、登録したあとで安心するのではなく、スカウト公開、企業ブロック、表示される職務経歴の欄を実際の画面で確認することです。
不安は「消せるもの」と「残るもの」に分ける
――勤め先に知られる不安は、どの順番で整理するとよいですか。
新井:3つに分けると落ち着きます。1つ目は設定で消せるもの。勤め先や関連会社からの検索、閲覧ですね。これはブロック設定で今日のうちに対処できます。2つ目は設定では消えないもの。社名を伏せても、職種、年次、担当分野の組み合わせで分かる可能性です。ここは書き方をぼかすか、スカウト機能を使わない判断になります。
――3つ目は何でしょう。
新井:転職サイトとは別の話です。住民税や社会保険、雇用保険の記録などを混ぜて不安になる方がいます。でも、転職サイトに会員登録した事実が雇用保険の被保険者記録に載るわけではありません。雇用保険の記録に残るのは、事業主が出す資格取得届や資格喪失届などの手続きの結果です。
――ハローワークという言葉で混ざってしまうのですね。
新井:そう。ハローワークの求職情報公開も、自分で公開可否を選ぶものです。公開する欄に前職の職場名や個人が特定される情報を書けば、そのまま読まれる可能性があります。制度が勝手に漏らすというより、自分がどの欄を公開し、何を書いたかが経路になります。
相場を見るだけなら、応募より前に設定を見る
――起業準備中に転職サイトを見る目的は、応募だけではないですよね。
新井:そうですね。同じ業界で、同じくらいの経験の人にどんな条件が出ているのか。これは会社の中にいると見えにくい。求人に並ぶ想定年収は、いま自分がやっている仕事に外側から付いている値段でもあります。起業を考えるうえでも、自分の経験がどんな言葉で呼ばれているかを知る材料になります。
――転職するか、起業するかの判断にも使えそうです。
新井:ただ、転職は収入の柱を別の1本に入れ替える動きです。起業は、会社員のまま小さく2本目を作っていく動きです。どちらが正しいという話ではなく、自分がいま何を確認したいのかを先に決めることですね。相場を見るだけなら、応募ボタンを押す前に公開範囲を確かめる。スカウトを受けるなら、誰に見えるかを確認する。ここを飛ばすと、落ち着かないまま通知だけに振り回されます。
――通知が来るたびに焦ってしまう人もいそうです。
新井:スカウトの数は、自分の価値そのものではありません。ある方は、1カ月で14件のスカウトが来たのに、どれも一般的な職種名で呼ばれていて、自分が社内で本当に頼まれてきた調整仕事の名前が一度も出てこなかったと話していました。そこで応募を急がず、その調整仕事に自分で名前を付け、知人の事務所へ小さく提案したのです。転職サイトは、外の言葉を知る道具にはなります。でも、最後に自分の仕事の名前を決めるのは自分ですよ。
今日見るのは公開範囲、ブロック設定、接続元
――最後に、読者が今日できる確認を教えてください。
新井:まず公開範囲です。スカウトを受け取る設定になっているか、企業にどの職務経歴欄が見えるかを確認します。次にブロック設定。勤め先、親会社、グループ会社、主要取引先を入れる必要があるか見ます。最後に接続元です。会社のパソコン、会社のネットワーク、会社のメールアドレスで登録や閲覧をしない。これは地味ですが、とても大切です。
――法律の原則より、画面の設定と使い方を見るわけですね。
新井:はい。不安なときほど、「バレるか、バレないか」と大きく考えがちです。でも実務では、どの欄が見えるか、どの会社をブロックしたか、どの端末から使ったかの積み重ねです。起業準備で相場を見ること自体は悪いことではありません。会社を辞める前に外の条件を知るのは、むしろ大事な準備です。だからこそ、落ち着いて使える状態を先に整えてください。
――焦って応募する前に、まず設定を確認する。今日はそこからですね。ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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