自分にできない仕事を人に回して紹介料をもらっていい?3つの線引き

新井一

新井一

テーマ:起業

「できません」で終わると仕事ごと流れてしまう

――新井さん、今日は「自分では対応できない依頼を、人に紹介して紹介料をもらっていいのか」という相談です。会社員の副業や小さな起業では、かなり現実的な悩みですよね。

新井:ありますね。たとえば手順書づくりはできるけれど、動画化や社内研修まで頼まれると自分では抱えきれない。そこで「できません」とだけ返すと、相手は動画も手順書もまとめて頼める会社を探します。つまり、断った部分だけでなく、受けられたはずの仕事まで流れてしまうのですよ。

――それはもったいないですね。人に回すこと自体は、悪いことではないのでしょうか?

新井:仕事を人へ回して紹介料を受け取ること自体は、依頼主と紹介先の双方が納得していれば商売として成り立ちます。できない依頼を回すことは、断る代わりではなく、自分の商品をひとつ増やすことです。ただし、何を紹介するかで法律上の扱いが変わります。ここを雑にすると危ないですね。

紹介料は業種によって扱いがまったく違う

――紹介料をもらってよいかどうかは、どこで分かれるのですか?

新井:大きく3つに分けて考えると分かりやすいです。1つ目は、許可や登録がなければ報酬を受け取れない分野。人の就職や転職のあっせん、保険の募集、法律事件の取り次ぎなどですね。2つ目は、受け取れるけれど上限が決まっている分野。不動産の売買や貸借の媒介が代表例です。3つ目は、当事者どうしの合意で決められる分野。制作、設計、修理、教える仕事など、事業者間の業務紹介はこちらに入りやすいです。

――「紹介料なら何でも自由」ではないのですね。

新井:そうです。特に医療、保険、法律、不動産、人材紹介は、一般の副業感覚で入らないほうがいい。保険なら、見込み客を伝えるだけなのか、商品の説明や推奨までしているのかで扱いが変わります。法律相談の相手を有償で取り次ぐ形も危険です。迷ったら、先に所管窓口や相手先へ確認してください。

人を雇わせる話と仕事を渡す話は分けて考える

――今回のように、映像制作の人へ仕事をつなぐ場合はどう見ればよいでしょうか?

新井:ポイントは、雇用関係を成立させる話か、業務委託の仕事を渡す話かです。知り合いの会社へ人を紹介して採用してもらい、成功報酬を受け取るなら有料職業紹介に当たる可能性があります。そこは許可が必要です。

――一方で、依頼主と映像制作の事業者が業務委託で契約するなら、雇用ではない。

新井:そうです。仕事そのものを別の事業者へ渡す話なら、職業紹介とは別に考えられます。ただし、それでも責任範囲は曖昧にしないこと。紹介したあとに品質保証まで引き受けるのか、単に相手をつなぐだけなのかで、受け取るお金の意味が変わります。

最初は紹介型にして責任範囲を小さくする

――仲介といっても、いろいろな形がありそうですね。

新井:あります。つないだ時点で単発の紹介料を受け取る紹介型、依頼主と紹介先の間に自分が入ってマージンを取る商社型、売上や粗利の数%を継続的にもらう継続型、進行管理まで見る伴走型、決済や信用を補う保証型、月額の顧問料として受け取る顧問型。紹介料の話がこじれるのは、この形を決めないまま金額だけ決めるからです。

――最初の副業段階なら、どれが現実的ですか?

新井:まずは紹介型で十分です。紹介先の技術は知っているけれど、仕上がりの中身までは保証しない。契約と請求は当事者どうしで直接お願いします。ここまでをメールに残すだけで、あとで揉めたときの立ち位置がかなり違います。

――紹介料は、誰から受け取るのが自然でしょうか?

新井:ご相談の形なら、仕事を受けた映像制作の方から「紹介手数料」として受け取るのが自然ですね。口頭ではなく請求書を出します。消費税の扱い、税込か税別か、支払時期も先に決めておく。源泉徴収は原則として紹介料そのものにはかかりにくいですが、名目より実態で見られるので、不安なら税務署に確認してください。

紹介料より先に伝えるべきこと

――紹介料をもらうことを、依頼主に言うべきか迷う人も多そうです。

新井:そこは言ったほうがいいです。というより、言わない形にしない。紹介料を受け取るなら、つなぐ前に依頼主と紹介先の両方へ伝える。片方に黙っていると、あとで分かったときに信用を失います。後ろめたいと感じるなら、金額の問題ではなく、開示の問題かもしれません。

――紹介する相手選びにも注意が要りますね。

新井:もちろんです。アドバイスが強すぎる人、文句ばかりの人、熱量やスピード感が合わない人、無礼な人とは組まない。紹介は自分の信用を少し預ける行為ですから、目先の紹介料だけで選ぶと危ないですよ。

――最後に、依頼を抱え込みがちな人へメッセージをお願いします。

新井:受けるか断るかの二択だけで考えないことです。受ける、回す、断る。この3つに分けるだけで、仕事の失い方が変わります。ただし、規制分野かどうか、どの形で入るか、紹介料を開示するか。この3点は先に決めてください。小さく起業を始める人ほど、信用の置き方を丁寧にしたほうが長く続きます。

――できない仕事をただ断るのではなく、信用を守りながらつなぐ選択肢を持つということですね。ありがとうございました。

新井:こちらこそ、ありがとうございました。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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