市場調査は無意味? 新井一が語る「9割の起業家が間違える」ビジネスアイデア発見法
リスクが増えるより受け皿が変わる
――新井さん、夫が個人事業主で、妻も会社を離れて自営になる場合、やはり世帯としてリスクを取りすぎでしょうか?
新井:一番大事なのは、「危険が何倍になるか」ではなく、何がどう切り替わるかを見ることです。夫婦そろって自営になると、国民健康保険、国民年金、夫婦間のお金の扱い、住宅ローンや賃貸の与信。この4つで見られ方が変わります。ここを混ぜたまま「怖い、怖くない」と考えると、ずっと答えが出ません。
――気持ちの問題ではなく、制度とお金の流れを分けて見るのですね。
新井:そうです。片方が会社員なら、勤め先の健康保険や厚生年金という受け皿があります。二人とも自営になると、その受け皿が1つ減る。だから危険だからやめる、ではありません。制度が用意してくれていた部分を、自分たちで設計するという話です。
保険と年金は二人分で見ておく
――まず最初に確認すべき数字は何でしょう?
新井:健康保険と年金です。国民健康保険には、会社の健康保険のような「扶養に入れば保険料が増えない」という仕組みはありません。世帯単位で計算されますが、加入する人ごとの分が積み上がります。年金も、配偶者が個人事業主なら第3号被保険者にはなれず、二人とも第1号として納める形になります。
――給与天引きではなく、自分たちで納めるお金になるのですね。
新井:そこが資金繰りに効きます。2026年度の国民年金保険料は月額17,920円です。二人分なら年間で43万円ほど。金額だけでなく、給料から見えないうちに引かれていたものが、世帯に届く請求書に変わる。起業準備を進める段階で、まずこの固定費を紙に書き出してください。
夫婦間の手伝いは経費にしにくい
――夫婦でお互いの仕事を手伝うこともあると思います。その分を経費にすることはできますか?
新井:ここも注意が必要です。生計を一にする配偶者や親族へ払う給与、家賃などは、原則として必要経費にしにくい扱いです。青色事業専従者給与のような例外はありますが、届出や「専ら従事している」などの条件があります。夫婦がそれぞれ別の事業を持っている場合、忙しいときだけ手伝って経費に付け替える、という考え方は危ないですね。
――二人の事業は、それぞれ単独で成り立つ形にしておく必要があるのですね。
新井:はい。夫の仕事を妻が少し手伝う、妻の仕事を夫が少し手伝う。それ自体は家庭では自然です。でも税務上の扱いは、家族だからこそ線引きが厳しくなります。ここは自己判断で処理せず、税務署か税理士に、実際の働き方を具体的に伝えて確認してください。
ローンや賃貸は動く順番を決める
――与信の面では、どんな変化がありますか?
新井:住宅ローンや賃貸審査では、勤続年数や雇用形態が見られます。勤め先を離れると、世帯の中に「勤続年数を出せる人」がいなくなる場合があります。自営が悪いわけではありませんが、見せる資料が給与明細から確定申告書や事業年数に変わります。
――数年以内に家を買う予定があるなら、特に順番が大事そうです。
新井:その通りです。住み替え、住宅購入、借り換えが近いなら、二人同時に会社員の属性を手放さないほうがいいケースもあります。どちらが先に動くのか、どの審査を終えてから動くのか。起業そのものの是非より、動く順番で守れるものがありますよ。
二人だから作れる強みもある
――ここまで聞くと、不利な点ばかりに見えてしまいます。
新井:もちろん、夫婦そろって自営だから取れる手もあります。繁忙期をずらす、平日昼にしかできない役所や金融機関の用事を分担する、二人の事業口座とは別に生活費口座を作る。片方が会社員だと動かしにくい時間を、世帯として使えるようになります。
――収入が不安定になることへの対策はありますか?
新井:二人ともフローの仕事だけで走らないことです。毎月決まって入る枠をどちらか一方で作っておく。月額の点検、保守、相談、チェック業務など、小さくても固定で入る仕事です。たとえば毎月15,000円の契約が3社あれば45,000円。大金ではありませんが、世帯の底を支えるお金になります。起業18フォーラムでも、ここを作ってから動き方が落ち着く人は多いですね。
必ず入るお金を1枚に並べる
――最後に、夫婦で話し合うときの最初の一歩を教えてください。
新井:来月、必ず入ると言い切れるお金を1枚に並べてください。次に、生活費、保険、年金、税金、ローンや家賃を別の列に書く。売上の希望額ではなく、入金の確かさで見ることが大切です。世帯の生活費が動く口座も、二人の事業口座とは分けてください。
――夫婦そろって自営になるかどうかは、勢いではなく設計で考えるのですね。
新井:そうです。不安があるのは自然です。でも、不安の正体が保険なのか、年金なのか、与信なのか、入金の谷なのかが見えれば、手は打てます。二人とも自営になること自体を怖がるより、制度が外れる部分と、自分たちで作る部分を分ける。そこまで見えたら、起業準備はかなり現実的になりますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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