趣味を仕事にするとき「値付けが難しい」と感じる人へ

新井一

新井一

テーマ:起業

値段の正解探しで手を止めない

――新井さん、趣味で作っているものを「売ってみたら?」と言われても、値段をつける自信がない方は多いと思います。これはどこでつまずいているのでしょうか?

新井:いちばん多いのは、「正しい値段」を頭の中だけで探して止まってしまうことですね。相場を調べる。材料費を計算する。作業時間も考える。そこまでは大事なのですが、最後に「本当にこの金額で払ってもらえるのかな」と不安になる。ここで止まる方が本当に多いですよ。

――値段は計算だけでは決まらない、ということですか?

新井:そうです。もちろん原価計算は必要です。でも、値段への自信は机の上では育ちません。最初の一人が実際にお金を払ってくれた経験があって、初めて「この値段を出していいのだ」と腑に落ちる。趣味を仕事に変える入口では、正解を当てに行くより、小さく確かめる感覚が大切です。

自信がない理由を3つに分けて考える

――「お金を取れる気がしない」という気持ちは、どう整理すればいいでしょう?

新井:まず、ひとまとめにしないことです。たいてい3つに分かれます。1つ目は「プロではないのにお金をもらっていいのか」という不安。2つ目は「趣味で楽しんで作ったものに対価を求めるのは図々しい」という遠慮。3つ目は「いくらが正しいのか分からない」という正解探しです。

――分けてみると、対処も変わりそうですね。

新井:変わりますよ。プロではない不安には、まず小さな範囲で試す。図々しさへの遠慮には、相手が喜んで払う場面を作る。正解探しには、仮の値段を置く。大事なのは、判断材料を自分の中だけに閉じ込めないことです。値段は、自分と相手のやり取りの中で育っていきます。

最初の値段は仮に置いて確かめる

――では、最初の値段は具体的にどう決めればいいですか?

新井:難しくしすぎなくて大丈夫です。似た作品の相場を5件くらい見る。材料費を出す。そこに手間を少し乗せる。そして相場の真ん中あたりに仮の値段を置く。これで十分です。最初から完璧な料金表を作ろうとすると、動く前に疲れてしまいますから。

――安くしすぎたほうが売れやすい、とは考えないほうがいいですか?

新井:安くすること自体が悪いわけではありません。ただ、無料に近い値段にすると、相手の反応が見えにくくなります。「安いから買った」のか、「本当に欲しかった」のかが分からない。最初は小さくていいので、きちんと有料にすることです。払ってもらう場面を作るから、値段の手がかりが得られるのですよ。

身近な一人に有料で渡してみる

――最初のお客様は、どこで探せばいいでしょうか?

新井:最初から広い市場に出なくていいです。信頼できる身近な一人で十分ですよ。たとえば、手芸が得意な40代の会社員の方がいました。友人に作品を褒められても、「お金をもらうなんて」とずっと笑って流していたそうです。ところが、贈り物として頼まれたときに、相手がきちんと代金を置いてくれた。その一度で、気持ちが大きく変わったのですね。

――お客様の反応が、自分の見方を変えてくれるのですね。

新井:そうです。自分では「たいしたものではない」と思っていても、相手にとっては時間も手間もかかった価値あるものかもしれません。起業準備では、この外からの反応を取りに行くことが大事です。自信ができてから売るのではなく、売ってみるから自信の材料が増えていきます。

値付けは育てるもの

――最初に払ってもらえたあと、次は何を見ればいいですか?

新井:記録ですね。材料費、作業時間、相手が喜んだ点、迷った点、次に直したい点。これを残していくと、2回目、3回目の値段が決めやすくなります。もし「もう少し高くてもお願いしたい」と言われるなら上げればいい。逆に反応が鈍いなら、値段だけでなく見せ方や届ける相手を見直せばいい。値段は固定するものではなく、育てるものです。

――値段をつけることを、少し軽く考えてもよさそうですね。

新井:軽くというより、重くしすぎないことですね。最初の値段に一生分の責任を背負わせる必要はありません。小さく出して、反応を見て、直す。この繰り返しです。起業18でお伝えしている「会社員のまま小さく始める」という考え方も、まさにここにつながります。

趣味を仕事に変える入口

――最後に、趣味を仕事にしたいけれど値段で止まっている方へ、今日できる一歩を教えてください。

新井:信頼できる一人に、「試しに一つ作らせてください。今回はこの値段でお願いできますか」と言ってみることです。無料で渡さない。仮の値段を添える。相手の反応を聞く。それだけで、半年悩んでも出なかった答えが見えることがあります。

――完璧な料金表より、まず一度の有料のやり取りなのですね。

新井:その通りです。趣味を仕事にする人に必要なのは、いきなり大きく売る力ではありません。最初の一人に喜んでもらい、きちんと払ってもらい、その経験を次の値付けに活かす力です。そこから小さな仕事は始まりますよ。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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