5年後に今の会社にいる自分が想像ができないなら、転職か起業か?

新井一

新井一

テーマ:起業

転職か起業かは頭の中だけで決めない

――新井さん、会社の先行きに不安があって転職を考えるうちに、起業も選択肢に入れていいのか迷う人は多いのでしょうか?

新井:多いですよ。会社を移るか、会社の外で自分の仕事を持つか。この2つを並べるのは自然です。ただ、頭の中だけで比べると、どちらも怖く見えます。転職には求人票や提示年収という数字がありますが、起業はまだ反応が見えていません。だから最初にやることは、転職と起業を一発勝負で選ぶことではなく、両方を小さく測ることです。

――「測る」とは、具体的にどういうことですか?

新井:転職なら、実際に応募して面接を受け、提示される条件を見る。求人票を眺めるだけではなく、相手が自分にいくらの価値を見ているかを確認するわけです。起業のほうは、会社を辞めずに有料で1件だけ受けてみる。知人でも、以前の取引先でもいい。お金が動くか、また頼まれそうかを見る。これで会社の中の値段と、会社の外の反応が並びます。

転職活動は自分の市場価値を知る実験になる

――転職活動をしているだけで、自分の市場価値が分かるということですね。

新井:はい。面接で提示された年収や条件は、少しきつい現実でもありますが、かなり正直な数字です。総務省の労働力調査でも、2024年に転職した人は331万人とされています。転職を考えること自体は珍しいことではありません。だから後ろめたく考える必要はない。ただし、数字を見て落ち込むだけではもったいないですよ。「会社の中ではこの評価なのだな」と受け止めて、次に外の反応も見ればいい。

――会社の外の反応は、どのくらい試せば分かりますか?

新井:最初から10件も要りません。まず1件で十分です。拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』でも、最初のお客様はたった1人でいいという考え方を伝えています。その1人が満足してくれるか、もう一度頼みたいと言ってくれるか。そこに、性格診断よりずっと確かな向き不向きが出ます。

外で1件だけ有料で受ける意味

――無料ではなく、有料で試すほうがいいのでしょうか?

新井:ここは大事です。無料だと「知り合いだから頼んだ」のか「本当に価値があった」のかが分かりにくい。5千円でも1万円でも、お金を払ってもらうと空気が変わります。相手も本気で要望を言いますし、こちらも仕事として受け止めます。起業に向いているかどうかは、気合いよりも、この小さな有料のやりとりで見えてきます。

――でも、会社員だと外の仕事をするのが不安です。

新井:まず就業規則を確認してください。会社の規程、競業、情報管理、届け出の有無。この線引きを見ずに動くのは危ない。逆に、できる範囲が分かれば、怖さはかなり減ります。退職届を出す必要も、開業届を急ぐ必要もありません。起業準備は、会社を辞める前に安全な範囲を確かめながら進めるものです。

両方の数字がそろうと迷いは軽くなる

――転職の条件と、外の有料1件。この2つを比べるわけですね。

新井:そうです。たとえば転職の条件が思ったより良く、外の有料1件はまだ反応が薄いなら、転職を厚めに見てもいい。逆に、転職では大きく伸びないけれど、外で頼まれた仕事に手応えがあり、紹介まで生まれるなら、起業準備を深める意味があります。大切なのは、怖いからどちらかを急いで選ぶことではなく、数字と反応をそろえてから順番を決めることですね。

――実際に、小さく試してから進路を決めた方もいるのですか?

新井:います。30代後半の会社員の方で、転職面接で提示された年収を見て、自分の会社員としての相場を初めて実感した方がいました。その一方で、会社を辞めずに知人から有料で1件だけ仕事を受けてみた。最初は小さな金額でしたが、8カ月ほどで似た依頼が続き、月に数件の仕事になりました。金額以上に、「外でも頼まれる」という事実が大きかったわけです。

今日やることは進路を決めることではない

――最後に、今まさに迷っている会社員に、最初の一歩を教えてください。

新井:今日やることは「転職か起業か」を決めることではありません。まず、同じ職種の求人を1件だけ見て、年収や条件をメモしてください。次に、就業規則で外の仕事の扱いを確認する。問題がなければ、今週中に「1件だけ有料で手伝えることはありますか」と声をかけてみる。この順番なら、迷いは考え込みではなく実験になります。

――一発で人生を決めるのではなく、材料を集めるのですね。

新井:その通りです。転職も起業も、逃げでも一発勝負でもありません。会社の中で価値を上げる道と、外で試す道を両方持てたとき、人はようやく自分の意思で選べます。焦らず、でも実測値を取りに行きましょう。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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