退職はいつ切り出す?年末と繁忙期を待たず退職日から逆算する

新井一

新井一

テーマ:起業

「落ち着いてから言う」が退職を遅らせる

――新井さん、今日は「退職はいつ切り出すのがいいのか」という相談です。起業を考えている会社員ほど、年末や繁忙期を前にすると言い出しにくくなりますよね。

新井:そうですね。人手不足の部署にいる方ほど、「今言ったら迷惑ですよね」と止まってしまいます。でも、ここで大事なのは、会社が落ち着く時期を探すことではありません。退職日は、退職日から逆算して決めるものです。忙しい時期が過ぎるのを待っていると、引き継ぎに使える時間だけが短くなります。

――先に「いつ言うか」を考えるのではないのですね。

新井:順番が逆なのです。まず退職日の候補を置く。そこから、就業規則の申出期限、有給休暇の残り日数、引き継ぎに必要な日数を引いていく。そうすると、切り出す期限が計算で出ます。気合いや勇気だけで決める話にしないほうがいいですよ。

退職の期限は3つの日数で見る

――具体的には、どの数字を見ればいいのでしょうか?

新井:まず勤め先の就業規則です。民法では、期間の定めのない雇用なら解約の申入れから2週間で雇用が終了するという考え方があります。ただ、実務では就業規則の退職条項が先に問題になります。会社ごとに「1カ月前」「2カ月前」などの定めがあるので、ここを見ないまま日程を決めると後で揉めます。

――法律の一般論だけで決めないほうがいい、と。

新井:はい。次に有給休暇の残り日数です。退職日と最終出社日は同じとは限りません。有給が15日残っていれば、実際に職場で引き継げる期間はその分だけ前にずれます。最後に、引き継ぎに必要な日数。月次処理や年次処理がある仕事なら、1回見せただけでは足りないこともありますよ。

――退職日、申出期限、有給、引き継ぎ。この順に並べると、かなり現実的に見えてきますね。

新井:そうです。年末だから言いにくい、人手不足だから申し訳ない。その気持ちは自然です。でも、待てば人手不足が解消するとは限りません。むしろ、後任が決まらないまま日が過ぎて、最後に全員が苦しくなることがあります。

繁忙期を避けるより引き継ぎ期間を長めに取る

――「繁忙期が終わってから伝える」ほうが親切に見えるのですが、違うのでしょうか?

新井:一見、親切に見えます。でも、繁忙期が終わると次の決算、異動、年度計画が来る会社も多いでしょう。完全に落ち着く時期を待っていたら、半年くらい平気で過ぎます。起業準備でも同じですが、「区切りがいい時期」を待つほど、区切りは遠くなります。

――では、会社への配慮はどこですればいいですか?

新井:配慮は、言う時期を遅らせることではなく、引き継ぎを設計することです。担当業務を書き出す。毎月必ず起きる処理と、年に数回しかない処理を分ける。後任が見られるタイミングを確認する。ここまで準備して話せば、上司も次の手を考えやすくなります。

――口頭で「辞めたいです」と言うだけでは足りないのですね。

新井:足りません。口頭だけだと、いつ申し出たかが曖昧になります。まず就業規則を確認して、退職希望日と最終出社日の見込みを書き、引き継ぎ項目を簡単に添える。完璧な資料でなくていいですが、「自分はここまで考えています」という形にすることが大事です。

辞め方を先に決めると日付が決まる

――退職日を先に置くと言っても、迷う人は多そうです。どう決めればいいですか?

新井:僕は、日付より先に「どう辞めたいか」を一文で決めてくださいと話しています。円満に送り出されたいのか、有給をできるだけ使いたいのか、次の仕事につながる信用を残したいのか。ここが決まらないまま日付だけ見ていると、「もう少し待とう」という理由がいくらでも出てきます。

――たしかに、退職そのものが目的ではないですものね。

新井:そうです。起業する人にとって、前職での終わり方はその後の信用にもつながります。無理にいい顔をする必要はありませんが、引き継ぎを投げ出して辞めると、自分の気持ちにも引っかかりが残ります。退職は逃げ切りではなく、次の働き方へ移る手続きとして見たほうが落ち着いて進められますよ。

――「辞めたい」と「雑に辞める」は別ですね。

新井:まったく別です。辞める意思が固いなら、なおさら丁寧に逆算しましょう。退職日を置き、申出期限、有給、引き継ぎを数える。そこまで出したうえで、いつ誰に伝えるかを決める。順番を守るだけで、感情の揺れはかなり小さくなります。

今日やることは退職条項を1行読むだけ

――最後に、今まさに言い出せずにいる方へ、最初の一歩をお願いします。

新井:今日やることは、退職届を書くことではありません。社内システムや就業規則のファイルを開いて、「退職」の条項に申し出は何日前と書いてあるかを確認する。それだけで十分です。空欄なら総務に聞く。分からないまま頭の中で悩む時間を減らしましょう。

――退職の話を切り出す前に、まず材料をそろえるのですね。

新井:はい。起業準備は勢いだけで進めると危ないですが、数字と期限を置くと現実の段取りになります。年末でも繁忙期でも、計算して出た期限なら、それは「言うべき時期」です。会社の空気に合わせるのではなく、自分の辞め方から逆算してください。

――退職日から逆算すると、迷いが少し整理できそうです。今日はありがとうございました。

新井:こちらこそ、ありがとうございました。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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