起業の成功率は1割未満? 会社員が知るべき「諦める」と「開き直る」起業家マインドの育て方
「移住すれば商機が広がる」は本当ですか?
――新井さん、最近「都心の通勤に疲れたから地方移住して起業したい」というご相談、増えていませんか?
新井:めちゃくちゃ多いですよ(笑) 地方移住者の起業ストーリー記事って、夢があって魅力的に書かれていますからね。ただ、僕のところに相談に来る方には必ずお伝えしていますが、総務省の住民基本台帳人口移動報告(2024年)では、東京圏は13万5843人の転入超過なのです。一極集中の流れは続いていて、地方に移れば自動的に商機が広がるという単純な状況ではないですよ。
――数字で見ると、意外と現実は厳しいのですね。
新井:そうなのですよ。移住先の人口や事業環境を冷静に見ないまま、雰囲気で「地方なら新しい挑戦ができる」と決めてしまうと、移った後に商売の地盤がないことに気づくケースが多いですね。
商品が先か、引っ越しが先か
――ご家族から「先に実績を作ってから動いて」と言われた、というご相談者がいたそうですが。
新井:はい、その方には「素晴らしいご家族をお持ちですよ」とお伝えしました(笑) あの一言には、現場で何度も見てきた現実が凝縮されているのです。商品を先に作るか、住む場所を先に決めるか。この順番を間違えると、後から取り返しがつかないことが多いですから。
――順番を間違える、とは具体的にどういうことですか?
新井:先に物件を契約してしまう、先に退職してしまう、先に移住補助金前提で計画を組んでしまう。こうなると、商売が地域条件に引っぱられてしまいます。商品が固まっていれば移住先は「選択肢」ですが、商品が決まる前に住む場所を決めると、移住先が「制約」になる。ここの差はとても大きいですよ。
在職という時間バッファを使い倒す
――では、在職のまま準備することのメリットは何でしょうか?
新井:何といっても給与というバッファがあることです。拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』でも書いていますが、在職中に収入の出る仕組みを先に作っておくと、売れない期間が続いても生活は崩れません。だから検証を冷静に続けられるのですよ。
――焦らずに商品を磨ける、ということですね。
新井:そう。移住して給与が止まった瞬間に「とにかく売らないと」となると、本来やるべきテスト販売や顧客の声を聞くフェーズを飛ばしてしまう。それが致命傷になりますね。
――「移住先のお客様候補は、行ってみないとわからない」と思い込んでいる方も多そうですが。
新井:そこも大きな誤解です。商品の核は、今いる場所からでもオンラインで十分検証できますよ。少額でも売上が立つかどうかを確認しておけば、移住後の資金計画もぐっと現実的になります。
在職中に月2万円から育てた、ある会員の話
――実例として、印象的な方はいらっしゃいますか?
新井:ITメーカーで営業を10年されていた38歳のSさんという会員がいます。茨城県笠間市に移住して陶芸関連で起業したいという方でした。実は移住前、自己流で陶器のECサイトに在庫50万円を抱えて、半年間売上ゼロという時期があったのですよ。
――それはきつい話ですね……。
新井:そこから起業18フォーラムに参加されて、「オンライン陶芸入門講座」というメニュー1本に絞り込んだ。在職中の2年間で月2万円の売上に到達して、移住直前の14ヶ月目に月4.5万円、移住18ヶ月後には月12万円継続まで育てましたよ。
――商品が固まってから移住したから、ぐらつかなかったのですね。
新井:そういうことです。Sさんはご自身でも「最初に在庫を抱えて売れなかった半年間がなければ、絞り込みの大切さを実感できなかった」とおっしゃっていました。痛い経験も、ちゃんと活かせる人は強いですね。
移住起業で多い失敗パターン3つ
――現場でよく見る失敗パターンをまとめると?
新井:3つあります。まず商品未確定のまま物件契約。これが一番多いパターンです。次に任期付きの地域支援を起業の代わりにしてしまう。地域おこし協力隊などの仕組みは素晴らしいのですが、任期が終わったときに収入の柱がなくて困る方を何度も見てきました。
――支援制度自体が「ゴール」になってしまうのですね。
新井:そう。そして3つ目が移住補助金を前提にした事業計画ですね。補助金が止まった瞬間に動けなくなる事業設計は、補助金が出ないより怖いですよ。
――どれも「お金や場所が先、商品が後」の構図ですね。
新井:まさに。順番が逆なのです。商品が決まっていない段階で住む場所を決めるのは、地図を持たずに長距離ドライブに出るようなものですから。
今すぐ移住か今のままかの「二択」を捨てる
――最後に、移住起業を考えている方へメッセージをお願いします。
新井:今すぐ移住か、今のままか――この二択で迷う必要はありません。在職中の1年間で商品の核を作りながら、同時に移住先候補を絞っていけばいいですよ。「先に実績を作ってから動いて」というご家族の言葉は、本当に正論ですから。
――焦って答えを出さなくていい、ということですね。
新井:そう。商品が固まる頃には、移住先も自然と絞れています。今日の通勤時間にでも、まず「誰に何をいくらで売るか」をメモしてみてください。それが移住起業の本当の第一歩ですよ。
――地に足のついたお話、ありがとうございました!
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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