個人事業の印鑑はどこまで必要? 角印と銀行印を作る前の確認
実績がないのではなく出せていないだけ
――新井さん、週末だけ自宅でネイルや整理収納などの仕事を受けている方から、「お客様の写真や感想を実績として載せていいのか分からない」という相談がありました。まず何を決めればいいのでしょうか?
新井:最初に決めるのは、掲載してよい範囲をお客様と共有することですね。写真も感想も、手元にあるだけでは実績になりません。逆に、承諾が1通残っていれば、3件でも立派な実績ページになります。大事なのは「顔が写っていないから大丈夫」と自分だけで判断しないことです。
――顔が写っていなくても、ひと言もらったほうがいいのですね。
新井:そうです。お客様との関係を大切にしたいから迷うわけですから、その慎重さを手順に変えればいい。撮影してよいか、どこに載せるか、あとで消したいときはどう言えばよいか。この3点を先に伝えておけば、お願いする側もされる側も楽になります。
写真と感想は同じ許可で済ませない
――仕上がり写真とお客様の声を、まとめて「掲載していいですか」と聞くのは不十分ですか?
新井:不十分になりやすいですね。写真と感想では、確認する中身が違います。手元だけの写真なら、撮影と掲載の可否を確認して、日時と相手をメモする。顔や全身が写るなら、掲載場所と期間を書いた文面で承諾を残す。名前、年代、地域つきの感想なら、原文のどこを使うか、匿名にする部分、表記調整の可否まで見てもらう。このくらい分けて考えると迷いません。
――そこまで分けると、かえって頼みにくくなりませんか?
新井:むしろ頼みやすくなりますよ。曖昧に「使わせてください」と言うから相手も身構える。用途がはっきりしていれば、「手元の写真だけならいいですよ」「名前は伏せてください」と答えやすい。実績づくりは、お客様の安心を削って進めるものではありません。安心の範囲を確認するから、長く使える材料になるのです。
納品直後の連絡に一文を入れる
――実際には、どのタイミングで許可をもらうのが自然でしょうか?
新井:作業や納品が終わった直後がいちばん自然です。満足してもらえた感想が届くタイミングでもありますからね。別の日に改めて「実績に載せたいのですが」と頼むと、頼む側も重くなる。完了連絡の中に、用途、掲載場所、取り下げ方法、返信の形を入れておくといいですよ。
――返信の形まで書くのですか?
新井:書いたほうが返ってきます。「問題なければ掲載可の一言だけご返信ください」としておけば、お客様の手数が軽い。断りたい場合も「掲載は控えてください」と返せばよいと書いておく。ここが大事です。断る道を用意しておくと、相手は安心して判断できます。
――感想を載せる場合はどうでしょう。
新井:写真の承諾とは別に、「この文面で掲載してよいですか」と確認します。感想はその方の体験ですから、勝手に言い換えたり、効果を一般化したりしない。誤字の修正や短い抜粋をするなら、それも先に伝える。小さな個人事業ほど、こういう丁寧さが信用になります。
あとから取り下げを頼まれても慌てない
――掲載したあとに「やっぱり消してほしい」と言われたら、どう対応すればいいのでしょうか?
新井:慌てなくて大丈夫です。最初の承諾メールを見返して、どこに、どの範囲で載せたかを確認する。該当箇所を外して、外した日付を同じやりとりに残して返信する。それだけでも段取りはかなり整います。
――口頭で許可をもらった場合は、どう残せばいいですか?
新井:口頭でも、同意を得た日時、相手、確認した内容を自分のメモに残す。できれば、そのあとに「先ほど確認した通り、手元の写真を匿名でホームページに掲載しますね」とメールやメッセージで送っておくとよいです。個人情報を扱う以上、件数が少ないから関係ないとは考えないほうがいい。自分ひとりの仕事でも、信用を守る記録は必要です。
最初の3件から実績ページは動き出す
――実績が少ない人は、何件くらい集まったらページを作ればいいですか?
新井:3件で十分です。むしろ、10件たまるまで待つ必要はありません。最初は写真3枚、短い感想3つでいい。そこに「どんな悩みがあり、何をして、どう変わったか」が分かれば、読み手は自分の場合を想像できます。
――実績ページが空欄のままになっている人は多そうです。
新井:多いですね。実績がないのではなく、承諾を取る仕組みがないだけの人が本当に多い。腕前の問題ではありません。次のお客様に送る定型文へ、掲載の用途、場所、断り方を1行ずつ足す。これだけで、次の仕事から「出せる実績」が残り始めます。
――起業準備中でも、そこまで整えておく意味はありますか?
新井:あります。起業準備は、名刺やホームページを作ることだけではありません。自分の仕事を見える形で積み上げることも準備です。会社の看板を外したあと、初めて会う人が判断できる材料は、実際にやった仕事の記録ですから。小さくても、承諾つきの実績を1件ずつ残してください。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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