離職率27%を7%にした会社が最初にやめたこと
週末、体育館に響く激しいスキール音と子どもたちの歓声の中に身を置きながら、私はある深い感慨に浸っていました。
私が地域にミニバスケットボールチームを立ち上げてから、今年でちょうど20年という節目を迎えます。
何もないゼロから手探りでスタートし、気づけば20年。
これまでコートを駆け抜けていった数え切れないほどの子どもたちの成長を見つめ続けてきました。
そして現在、私は企業に向けた次世代リーダー育成や学生へのアントレプレナー(起業家精神)教育を事業として展開しています。
一見すると「小学生のスポーツ指導」と「ビジネスリーダーの育成」は別世界のように思われるかもしれません。しかし、20年間コートに立ち続け、同時に数多くの企業組織の変革に伴走してきた私の中で、両者は完全に一本の太い線で結ばれています。
人を育てること、人が自立して自走することの本質は、小学生もビジネスパーソンも全く同じなのです。
今回は、先日行われた地域リーグの公式戦と、その後の練習風景を通じて再確認した「次世代リーダー育成の真髄」について、組織を率いる経営者の皆様へ向けてお話ししたいと思います。
インプットを勇気あるアウトプットへ変える瞬間
先日の公式戦は、女子小学5年生以下のチームにとって大きな試練であり、同時に飛躍のチャンスとなる一日でした。
コートに立った選手たちを見ていて何より胸を打たれたのは、これまで日々の練習で学んできたこと、いわば「インプット」してきた技術や戦術を、プレッシャーのかかる実戦の舞台で果敢に「アウトプット」しようとする強烈なチャレンジ精神でした。
教えられた知識やセオリーを頭で理解していることと、それをリスクのある現場で実際に実行できることの間には、深い溝があります。
それはビジネスの現場でも同様ではないでしょうか?
いくら優れた経営理論やフレームワークを学んでも、実際の商談や意思決定の場で使えなければ意味がありません。
子どもたちは、相手の厳しいディフェンスを前に、練習したばかりのステップやパスワークを必死に試そうとしていました。「失敗したら、、、、」「ミスをしたら負けてしまうかもしれない」という不安を抱えながらも、それを乗り越えて自らの意思で仕掛けていく。
その瞬間、何かが吹っ切れたように放たれたシュートが決まったとき、選手たちの顔に輝いたあの表情は、何物にも代えがたいものでした。
「できるかどうか」を計算して縮こまるのではなく、「やってみたい」という自発的な意志に従って挑戦し、手に入れた成功の味。これこそが、心理学でいう「自己効力感(Self-efficacy=自分には目標を達成する能力があるという確信)」が産声を上げる瞬間です。
指示待ちではなく、自らの意志で状況を切り拓いたという原体験。
この小さな自己効力感を小学生の段階から積み重ねていくことこそが、将来、激動の不確実な社会に出たときに怯まず課題へ立ち向かえる「真にタフなリーダー」の揺るぎない土台になります。
試合後の練習で、分け合う「パピコ」の味
公式戦が終わった後、子どもたちは休むことなく体育館へと戻りました。
体力的には厳しい近いはずです。
しかし、試合の中で「できたこと」と「できなかったこと」を身をもって体感した彼女たちの目には、試合前以上の熱が宿っていました。
「悔しいからもっと練習したい」「さっきのプレーをもう一度試したい」。
大人が強制したわけではありません。自らの体験から出た悔しさと手応えが、彼女たちを練習へと駆り立てていたのです。
汗だくになってボールを追いかけ、課題と向き合った練習の途中、私は頑張り抜いた選手たちにあるご褒美を差し入れました。子どもの頃、誰もが一度は食べたことがあるであろうアイス、「パピコ」です。
パピコは、2つに割って仲間と分け合えるおやつです。冷たいアイスを手にした瞬間、それまでの真剣な勝負師の顔から一転、あどけない小学生の笑顔に戻った子どもたちが、「半分あげる!」「冷たくておいしい!」と無邪気に笑い合っていました。
一見すると、スポーツ少年団の微笑ましい日常のワンシーンに過ぎないかもしれません。
しかし、育成を司るリーダーの役割という観点で見ると、ここには極めて重要なエッセンスが含まれています。
一つは、「挑戦のプロセスそのものを承認する」ということ。
結果の成否に関わらず、限界に挑み、自ら学ぼうとした姿勢を指導者がしっかりと見守り、認めているというサインを届けること。それが子どもたちに心理的安全性を与えます。
もう一つは、「努力を仲間と分かち合う文化」を創ることです。
パピコを2つに割って誰かとシェアするように、苦しい練習を共に乗り越えた仲間と喜びを分かち合う。孤立した挑戦ではなく、互いを高め合えるチームという安全基地があるからこそ、人は再び未知の領域へと果敢に飛び込んでいくことができるのです。
「やりたい」が「自走」を生み出す——企業組織における共通項
育成において最も重要なこと。それは、「自ら体験し、結果を出し、その結果から自分自身で学ぶ」という自立のサイクルを回す環境を提供することです。
手取り足取り正解を教え込み、失敗しないように先回りしてレールを敷くことは、一見すると効率的な指導に見えるかもしれません。しかしそれは、指示がなければ一歩も動けない人間を作り出すプロセスに他なりません。
私たちが展開している学生向けのアントレプレナー教育でも、企業の経営層・次世代リーダーに向けた育成プログラムでも、指導の根本にある哲学はミニバスのコートと完全に一致しています。
現在の能力値から逆算して「できるか、できないか」で行動を制限させる組織では、イノベーションは絶対に生まれません。「やりたいからやる」「どうしてもこの課題を解決したい」という内発的動機に火をつけ、リスクを取って行動させ、そこから得られた成功も失敗も本人の生きた血肉としてフィードバックさせる。
できるかできないかではなく、やりたくてやった挑戦が小さな成果を生み、それが次なる大きな挑戦への推進力となる。この好循環が回り始めたとき、人は初めて他人の指示を待たずに動く「自走する人材」へと進化を遂げます。
人の可能性を拓き、これからの日本を強くするために
ミニバスチームを立ち上げて20年。コートを巣立っていったかつての選手たちの中には、今や立派な社会人となり、各分野でリーダーシップを発揮して活躍している者が大勢います。
人は、自らの手で掴み取った体験と自己効力感によってしか、本当の意味で変わることはできません。
少子高齢化や市場の成熟、グローバルな競争激化など、日本企業を取り巻く環境は決して平坦ではありません。だからこそ今、組織の枠組みにとらわれず、未知の荒波に対して「やりたい」という情熱を持って自走できる次世代リーダーの存在が、かつてないほど切実に求められています。
私たちリーダー育成事業を手掛けるチームの使命は、単なるビジネススキルの伝授ではありません。一人ひとりの心の中にある挑戦の火種に火を灯し、挑戦を肯定し、自走する個と強い組織を社会に輩出し続けることです。
あの日の体育館で、汗を光らせながらパピコを頬張っていた子どもたちの澄んだ瞳。
その瞳の輝きを、学生の教室へ、そして企業の最前線で戦うビジネスパーソンたちの現場へと広げていきたい。
「人の可能性を信じ、自ら挑み続ける人で溢れる社会を創る」。
この揺るぎない確信を胸に、私たちはこれからも次世代の育成に全力で向き合ってまいります。同じ志を持ち、自社の未来、そしてこれからの日本社会を共に切り拓いていこうとされる経営者の皆様と、良きパートナーとして歩みを共にできることを心より願っております。


