カウンセラーの新たな思い

9月最初のコラムは、私の体験談から。
ある日の夕方です。
私は家に帰る為にバスに乗っていました。
そこに車椅子を押してもらって、
一人の少年が乗ってきました。
座っていた席がちょうど車椅子の方が乗るための場所だったので
私はシートを立ちました。
車椅子の少年はどうやら右手と右足が不自由で
更に声も出せないようでした。
彼はにっこり笑って私に左手でお礼の合図をしてくれたので
「どういたしまして」と言うと、
彼はさらに左手で握手を求めてくれました。
不自由な体で、
精一杯お礼を示そうとしてくれる彼の気持ちが嬉しくなって
握手をしながら思わず私もにっこりして
「ありがとう」と言っていました。
そのあとも自然に顔がほころぶほど、
(というよりにやにやしてしまっていたかも)
嬉しい気持ちが続いていましたが、
私はできるだけ彼を見ないようにしていました。
それは車椅子ということで、
ジロジロ見たら不快だろうなと思ったからなのですが
なんだか彼の方が私を見ています。
そこで、彼を見るとニコニコしながら帽子を取って
わざと頭を振って髪をボサボサにしています。
その後、彼は帽子をかぶり直し「OK?」という合図を送ってきたので
私も「OK!!」の合図を返し、思わずくすくす笑ってしまいました。
15分位バスの中でそんな風にコミュニケーションをとっていて、
ようやく彼は耳も聞こえないらしいということに気づきました。
彼が下りる駅に着いたとき、
「バイバイ、またね」と手を振ったのですが
彼がまた握手を求めてくれたので握手をしたら、
彼は私の手を引き寄せて自分の頬に押し当てました。
その様子がまた私を嬉しい気持ちと、ちょっとせつなくもさせてくれました。
私がしたことは、ただ席を立ったことだけ。
当然のことをしたまでです。
それなのに、彼は自分にできる精一杯のお礼の気持ちを伝えてくれました。
たぶん、不自由なことはたくさんあるだろうに
ずっとニコニコしていて、彼にもらった「ありがとう」は
私を幸せな気持ちにしてくれました。
また、彼に会いたいなと思います。
会えたら「私の事、覚えてる?」って聞いて
覚えていてくれたら友達になりたいなと思います。
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アルテミス・アレス Artemis-Ares



