未病を治すという漢方の概念
2019年12月に発生した新型肺炎は、世界中に広がり、社会的に大きな問題になっています。
日本でも、現在、感染者の数は増加の一途です。患者の数が多くなると、病院で治療してもらえるのは重症者のみで、軽症者は外来で病院やクリニックへ行っても自宅待機で治療はしてもらえません。ワクチン製造は時間がかかりそうです。大切な命を守るために、漢方での治療について書いてみます。
実は、武漢をはじめ、中国では新型コロナ肺炎に対して漢方薬(中国では中薬と呼ばれます。)が使われています。最初は試行錯誤の連続だったのでしょうが、かなりの治療効果をあげている事が報告されていて、診療のガイドラインまで発表されています。かなり効果があるようで、90%以上の有効率です。
それを元に、日本の漢方学会誌にも特別寄稿の論文も発表されています。
COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方
金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子
http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=140
なぜ、現状では日本であまり漢方薬が使われないかというと、保険で処方出来る漢方薬が限られる上に、本当に深く漢方を勉強して経験を積んだ医師がほとんど居ないからです。実際に漢方薬を運用する場合には、患者の症状や体質、気候や地域性も考慮して加減する必要があります。それが出来る人が少ないのです。
今まで、中国の論文や治験を見たときにキーポイントになる重要生薬は、湿邪を除く藿香と清熱解毒の大青葉です。
藿香は湿邪を除くのに良いですし、胃腸の働きを向上させる意味もあります。病院で処方してもらうのでなく普通に薬局薬店で購入するなら、胃苓湯よりも藿香正気散の方が良いです。小川先生の特別寄稿では藿香正気散は日本に無いと書かれていますが、病院で処方される医療用の漢方薬には無いけれど薬局薬店用の漢方薬では藿香正気散は普通に売っていますので、藿香の配合されていない胃苓湯よりも藿香正気散の方がずっと良いです。本来は蒸し暑いときのだるさや夏風邪に適応する漢方薬です。味がわからない、体がだるい、食欲がない、軟便で胃がすっきりしない時に一番使いたい処方です。
なお、湿邪が存在するときに麻黄湯や葛根湯で温め汗を出す治療をすることは良くありません。風邪や寒邪は温めて汗を出せば駆逐できますが湿邪は粘着性があり除去できず残ってしまいます。だから治らない。ゆっくり汗を出しながら治療するのに藿香正気散が適しています。場合によっては麻杏薏甘湯を合わせます。
大青葉はハーブとして入手できますが、無ければ板藍根でも良いかも知れません。大青葉と板藍根は同じ植物です。大青葉はホソバタイセイの葉で、板藍根はホソバタイセイの根ですから薬効は似ています。ただし、清熱解毒作用は大青葉の方があります。しかし、お茶として飲むのには板藍根の方が甘くて飲みやすいです。
発熱、ほてり、口渇や喉痛があり清熱が必要になる場合には、金銀花、連翹が入っている銀翹散が良いです。咳や呼吸困難があれば麻杏甘石湯あるいは五虎湯を合わせ、大青葉や板藍根をお茶として併用するのが良いでしょう。
日本と武漢は違います。また、武漢のピークは寒い2月でした。日本のピークはこれからで、もっと暖かくしかももっと湿度の高い時期になりますので、実際に発症したときの治療薬は清熱の働きと去風湿の力が強い処方の方が適合する場合が多くなります。つまり、武漢で使われた漢方薬よりももっと清熱解毒作用が強く、去風湿作用の強い組み合わせの処方の方がより適合すると予想します。